日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06] PM-2

2023年11月1日(水) 15:15 〜 15:45 C会場 (F202)

座長:東 龍介(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

15:30 〜 15:45

[S06-08] 上盤プレート内の破砕帯と弱いプレート間固着を生み出す九州パラオ海嶺の沈み込み構造

*新井 隆太1、白石 和也1、中村 恭之1、藤江 剛1、三浦 誠一1、小平 秀一1、Bassett Dan2、高橋 努1、海宝 由佳1、濱田 洋平1、望月 公廣3、仲田 理映3、木下 正高3、Ma Yanxue3、橋本 善孝4、沖野 郷子5 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. GNS Science、3. 東京大学地震研究所、4. 高知大学、5. 東京大学大気海洋研究所)

九州パラオ海嶺が沈み込む日向灘海域では、海溝軸近傍において低周波微動が発生するだけでなく(Yamashita et al., 2015, 2021)、海底に泥火山が広く分布することから (Ujiie, 2000)、海山沈み込み・スロー地震発生・流体挙動のそれぞれの因果関係について広く議論されている。例えば、Akuhara et al. (2023) は海底地震観測データのレシーバー関数解析に基づいて、低周波微動発生域直上の上盤プレート内(深さ3-4 km)に流体を示唆する低速度帯が存在することを示した。Arai et al. (2023) は稠密な屈折法探査データの解析によって、深さ10-13 kmに位置するプレート境界から海底面まで鉛直につながる幅数kmの低速度体が複数存在することを発見した。この低速度体は九州パラオ海嶺が沈み込むことで生じた破砕帯と解釈され、流体を豊富に含むとされるスロー地震の発生領域と連結していることから、プレート境界からの流体の上昇経路となっており、その一部は流体の出口となる海底面に泥火山を生じている、と考えられている。本発表では、Arai et al. (2023) による解析対象域をさらに東方に広げることで、上記の上盤プレート内の破砕帯が分布する範囲を明らかにするとともに、それらと相関するスラブの不均質構造について議論する。
 海洋研究開発機構海域地震火山部門では、南海トラフ全体のプレート沈み込み構造を高解像度で明らかにし、プレート境界断層での多様なすべり現象の発生要因を理解することを目的として、2018年度より稠密な地震波構造探査を実施している。2021年度には、鹿児島県東方沖から南海トラフに平行な方向に延びるHYU01測線(Arai et al., 2023)の東方延長に海底地震計50台を2 km間隔で展開し(HYU03測線)、屈折法データを取得した。
 これらHYU01測線とHYU03測線を統合した屈折法データに対して波形インバージョン解析を適用することでP波速度を高解像度で推定したところ、先行研究で指摘した上盤プレート内の低速度体が南海トラフに平行な方向に約100 kmにわたって存在することがわかった。この約100 kmという幅は海底地形から推定される九州パラオ海嶺の幅より数倍広い。また、この低速度体の直下に沈み込むフィリピン海プレートの地殻の厚さは約10 kmと推定され、通常の海洋性地殻よりも有意に厚いことがわかった。さらに、HYU01-03測線周辺の既存反射法探査データを用いて沈み込む直前のフィリピン海プレートの構造を確認したところ、基盤の起伏が大きい領域が九州パラオ海嶺より約60 km東方まで存在することもわかった。これら一連の結果は、九州パラオ海嶺の東縁部に特異な地殻が数10 kmにわって存在し、これらが沈み込んだ際に九州パラオ海嶺の本体と合わせて上盤プレート内の破砕帯の形成に関わっていることを示唆している。
 HYU01-03測線の東端は高知県足摺岬の南方沖まで到達するが、ここでは日向灘海域とは対照的に大きなすべり欠損が存在することが指摘されている(Yokota et al., 2016)。上記の上盤プレートの破砕帯の分布およびフィリピン海プレート構造の空間変化は、このプレート間固着の東西方向(トラフと平行な方向)に不均質な分布ともよい相関がある。つまり、上盤プレートの不均質構造と同様に、プレート境界における地震発生様式の多様性も九州パラオ海嶺およびその周辺の特異なスラブ構造によって規定されている可能性がある。