日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15] PM-1

2023年11月1日(水) 13:30 〜 15:00 D会場 (F204)

座長:小穴 温子(清水建設)、長坂 陽介(港湾空港技術研究所)

14:30 〜 14:45

[S15-15] 経験的グリーン関数法を用いた2000年鳥取県西部地震における広帯域の強震動シミュレーションに関する研究

*春日井 秀俊1、久田 嘉章1、田中 信也2 (1. 工学院大学、2. 東電設計株式会社)

1.はじめに
我が国では強震観測網2)などにより観測記録が蓄積され、近年では長周期成分を含む高精度な記録が得られ始めているが、その記録は十分活用されているとは言えない。経験的グリーン関数法(EGF)は予測可能な周期帯域が小地震のS/N比に依存するため、近年の記録を活用して広帯域の予測も可能である。しかし、EGFは表面波を含む長周期地震動に関する実績が多くない。そこで本研究では、余震記録が豊富な2000年鳥取県西部地震を対象とし、EGFによる広帯域の強震動シミュレーションを行なう。

2.検証に用いる地震
図1に池田ほか1)によるEGFを用いた2000年鳥取県西部地震の震源モデルを示す。以下ではこのモデル、入倉・釜江(1997)によるEGFを用いて再現を試みる。要素地震として用いる余震は、池田ほか1)が用いた10/17(Mj=4.2, 深さ8km)の余震に加え、震源メカニズムが本震と類似しており、震源が比較的浅い10/8(Mj=5.0, 深さ5km)の余震を用いる。

3.震源近傍における強震動シミュレーション
まず始めに、震源近傍の本震波形の再現を試みる。震央距離30km以内では、10/17ではSMNH01、10/8ではSMNH02で強震記録が得られている。図2に本震波形と合成波形の比較を示す。10/17では、加速度波形の包絡形状、速度波形のパルス波形の性状をよく再現できている。一方、10/8の余震では、加速度波形は過小評価であるが速度波形の位相や振幅は再現できている。

4.震源遠方における強震動シミュレーション
次に、震源遠方の本震波形の再現を試みる。図3にHRSH06、SMNH10における本震波形と合成波形の比較を示す。HRSH06において、10/17では低周波数域では過小評価であるが高周波数域では比較的再現が出来ている。10/8では低周波数域では比較的再現が出来ているが高周波数域では過小評価である。この理由は、やや深い10/17では長周期地震動の励起が弱いこと対して、比較的浅い10/8では短周期地震動の発生は弱いが、表面波と考えられる長周期地震動は強く励起しているためだと考えられる。一方、SMNH10では、10/17ではTransverse成分に関して低周波数域で過小評価あり、10/8ではどの成分においても過大評価となっている。SMNH10ではより大きな表面波が本震・余震ともに観測されており、10/8では長周期波形のコヒーレントな重ね合わせにより、過大評価となった原因であると考えられる。なお、10/17のRadial、UD成分に関しては低周波数域まで比較的再現できており、深い余震であっても表面波が含まれていれば広帯域の再現が出来ると考えられる。

5.要素地震の使い分けによる検証結果の比較
震源が深い10/17では実体波による短周期波形の発生、浅い10/8では表面波による長周期波形の励起が強いことを示した。そこで、深いAsperity1を10/17、浅いAsperity2を10/8として要素地震を使い分けた場合の検証を行なう。図4に要素地震を使い分けない場合、使い分けた場合による本震波形と合成波形のフーリエスペクトル比の平均値を示す。全体の観測点を用いた平均値では、10/17では低周波数域まで1に近い値となっているが、要素地震を使い分けた場合と10/8では低周波数域でやや過大評価となっている。また、震央距離60km以上の観測点を用いた平均値も同様である。 しかし、10/17では震央距離60km以内の観測点を用いた平均値では、低周波数域で過小評価となっており、要素地震の使い分けによる有効性を示唆していると考えられる。

6.まとめ
2000年鳥取県西部地震、池田ほか1) による震源モデルを用いてEGFによる広帯域地震動の再現を試みた。その結果、10/17では深いAsperity1からの実体波による短周期波形の再現性が高いが、10/8では浅いAsperity2からの表面波の励起が強く、表面波が卓越する観測点では、要素地震のコヒーレントな重ね合わせにより、長周期成分が過大評価となった。また、深いAsperity1を10/17、浅いAsperity2を10/8とし要素地震を使い分けた場合、10/17と比べて低周波数域で平均値の振幅は大きくなることが明らかとなった。今後は、各観測点の詳細な確認、長周期波形の重ね合わせ方の検討を行なっていく予定である。

謝 辞 本研究では、防災科学技術研究所の強震観測網による観測波形を使用させていただきました。

参考文献
1)池田隆明ほか(2002):日本建築学会構造系論文集, 第561巻, 37-45
2)防災科学技術研究所 強震観測網:https://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/