15:15 〜 15:30
[S21-15] S-net全観測点を用いた畳み込みニューラルネットワークによる通常地震・微動・ノイズの分類
1. はじめに
スロー地震の一種である微動は, 世界中のプレート沈み込み帯における巨大地震発生域の深部延長または浅部延長で発生している (Obara & Kato, 2016). 微動はプレート境界面上の断層すべり現象に伴い発生するため, 微動活動を把握することは巨大地震発生域周辺の断層すべり現象のモニタリングにつながる点で重要である.
微動の検出・震源決定には, 観測点間のエンベロープ波形の相互相関に着目したエンベロープ相関法 (e.g., Obara, 2002) が広く適用されている. この手法は, 微動のようにP波・S波の位相が不明瞭な連続波形に対しても震源決定を行えるが, 通常地震も微動と区別することなく検出してしまう. 一方, スペクトログラムを用いた畳み込みニューラルネットワーク (CNN) は, イベントの継続時間や周波数成分の特徴を学習するため, 通常地震と微動を区別して検出できる利点をもつ (e.g., Nakano et al., 2019; Nakano & Sugiyama, 2022). Takahashi et al. (2021) では S-netの単独観測点 (N.S4N21) を対象に, スペクトログラムを入力としたCNNに基づく通常地震・微動・ノイズ判別器を作成した. しかし, 作成したモデルを近傍観測点に適用しても微動の判別精度が低いため, 複数観測点を使った学習が必要であることが指摘されている (Kano et al., 2021, JpGU). そこで本研究では, 防災科研のS-net全観測点 (150観測点) を使ったスペクトログラムを入力とするCNNを構築し直すことで, S-net全体で使える汎用的なモデルの作成を試みた.
2. データ・手法
3成分のスペクトログラムを入力し, 通常地震・微動・ノイズの判別確率を出力するモデルを作成する. 本研究では時間分解能の向上を期待し, Takahashi et al. (2021) で用いられた約120秒の時間窓よりも短い60秒の時間窓を用いた. 機器特性を取り除いた後, 2–20 Hz の周波数帯域において, パワースペクトルで正規化したスペクトログラムと3成分合成エネルギーを通常地震・微動・ノイズごとに計算した. 通常地震は気象庁の検測値データをもとにS波到達時刻を含む時間窓で計算を行った. 微動はNishikawa et al. (2023) の微動カタログをもとに, 震央距離 30 km 以内のイベントについて微動の発震時を含む時間窓で計算を行った. 震央距離による制限を与えたのは, Takahashi et al. (2021) より震央距離の増加に伴う微動の検出能力の低下が指摘されているためである. ノイズは時間窓の1分前後に通常地震の検測値がない, かつ1時間前後に微動が起きていない場合に計算した. データの作成期間は, 通常地震・ノイズについては2020年9月から2021年12月, 微動については2016年8月から2021年12月である.
100以上のデータが作成できている観測点について, 3成分合成エネルギーによるデータ選別を行った. 通常地震・微動はエネルギーの値が小さいもの, ノイズはエネルギーの値が大きすぎるものを取り除いた. 最終的に, 微動のサンプル数に合うように通常地震・ノイズのサンプル数を調整し, 通常地震: 24,384 (146観測点), 微動: 24,309 (33観測点), ノイズ: 24,391 (149観測点) のデータセットを作成した.
データセットを学習データ(80%)・検証データ(10%)・テストデータ(10%)に分割して使用した. CNNの構成は, 畳み込み層とプーリング層を3回繰り返し, グローバル平均プーリング, softmax関数を適用することで通常地震・微動・ノイズの判別確率 (0–1) を出力し, 判別確率が0.5以上のものに分類を行った.
3. 結果・議論
学習の結果, 通常地震・微動・ノイズについてそれぞれ 97.6%, 97.0%, 98.6% の再現率で分類することができた. 微動について観測点ごとの再現率を計算したところ, 学習に用いたほぼ全ての観測点で95 % を超えていることが分かった. 再現率 95 % 以下の観測点は微動発生域の端に位置していることから, 震央距離の増加に伴う検出能力の低下を示していると考えられる.
連続記録にモデルを適用した結果, まとまった複数観測点で微動を検出できているだけでなく, カタログにイベントがない時間帯でも微動を検出できていることが分かった. しかし, 遠地地震のように高周波成分に乏しいイベントを微動と誤判別してしまっている場合も確認された. 微動カタログにあるイベントについて, 観測点ごとの判別確率を入力とした教師なし学習 UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection; McInnes et al., 2018) を適用したところ, 大局的に3つのクラスタに分かれ, それぞれ襟裳沖・三陸沖・茨城沖の微動を検出した観測点分布に対応することが分かった. 今後は, 同時刻に微動を検出した観測点分布の特徴を精査することで微動の誤判別を効率的に取り除く方法を検討する.
謝辞:本研究では気象庁一元化震源,防災科研のS-netの波形データを使用しました.本研究はJSPS科研費 JP21H05205 の助成を受けたものです. 記して感謝申し上げます.
スロー地震の一種である微動は, 世界中のプレート沈み込み帯における巨大地震発生域の深部延長または浅部延長で発生している (Obara & Kato, 2016). 微動はプレート境界面上の断層すべり現象に伴い発生するため, 微動活動を把握することは巨大地震発生域周辺の断層すべり現象のモニタリングにつながる点で重要である.
微動の検出・震源決定には, 観測点間のエンベロープ波形の相互相関に着目したエンベロープ相関法 (e.g., Obara, 2002) が広く適用されている. この手法は, 微動のようにP波・S波の位相が不明瞭な連続波形に対しても震源決定を行えるが, 通常地震も微動と区別することなく検出してしまう. 一方, スペクトログラムを用いた畳み込みニューラルネットワーク (CNN) は, イベントの継続時間や周波数成分の特徴を学習するため, 通常地震と微動を区別して検出できる利点をもつ (e.g., Nakano et al., 2019; Nakano & Sugiyama, 2022). Takahashi et al. (2021) では S-netの単独観測点 (N.S4N21) を対象に, スペクトログラムを入力としたCNNに基づく通常地震・微動・ノイズ判別器を作成した. しかし, 作成したモデルを近傍観測点に適用しても微動の判別精度が低いため, 複数観測点を使った学習が必要であることが指摘されている (Kano et al., 2021, JpGU). そこで本研究では, 防災科研のS-net全観測点 (150観測点) を使ったスペクトログラムを入力とするCNNを構築し直すことで, S-net全体で使える汎用的なモデルの作成を試みた.
2. データ・手法
3成分のスペクトログラムを入力し, 通常地震・微動・ノイズの判別確率を出力するモデルを作成する. 本研究では時間分解能の向上を期待し, Takahashi et al. (2021) で用いられた約120秒の時間窓よりも短い60秒の時間窓を用いた. 機器特性を取り除いた後, 2–20 Hz の周波数帯域において, パワースペクトルで正規化したスペクトログラムと3成分合成エネルギーを通常地震・微動・ノイズごとに計算した. 通常地震は気象庁の検測値データをもとにS波到達時刻を含む時間窓で計算を行った. 微動はNishikawa et al. (2023) の微動カタログをもとに, 震央距離 30 km 以内のイベントについて微動の発震時を含む時間窓で計算を行った. 震央距離による制限を与えたのは, Takahashi et al. (2021) より震央距離の増加に伴う微動の検出能力の低下が指摘されているためである. ノイズは時間窓の1分前後に通常地震の検測値がない, かつ1時間前後に微動が起きていない場合に計算した. データの作成期間は, 通常地震・ノイズについては2020年9月から2021年12月, 微動については2016年8月から2021年12月である.
100以上のデータが作成できている観測点について, 3成分合成エネルギーによるデータ選別を行った. 通常地震・微動はエネルギーの値が小さいもの, ノイズはエネルギーの値が大きすぎるものを取り除いた. 最終的に, 微動のサンプル数に合うように通常地震・ノイズのサンプル数を調整し, 通常地震: 24,384 (146観測点), 微動: 24,309 (33観測点), ノイズ: 24,391 (149観測点) のデータセットを作成した.
データセットを学習データ(80%)・検証データ(10%)・テストデータ(10%)に分割して使用した. CNNの構成は, 畳み込み層とプーリング層を3回繰り返し, グローバル平均プーリング, softmax関数を適用することで通常地震・微動・ノイズの判別確率 (0–1) を出力し, 判別確率が0.5以上のものに分類を行った.
3. 結果・議論
学習の結果, 通常地震・微動・ノイズについてそれぞれ 97.6%, 97.0%, 98.6% の再現率で分類することができた. 微動について観測点ごとの再現率を計算したところ, 学習に用いたほぼ全ての観測点で95 % を超えていることが分かった. 再現率 95 % 以下の観測点は微動発生域の端に位置していることから, 震央距離の増加に伴う検出能力の低下を示していると考えられる.
連続記録にモデルを適用した結果, まとまった複数観測点で微動を検出できているだけでなく, カタログにイベントがない時間帯でも微動を検出できていることが分かった. しかし, 遠地地震のように高周波成分に乏しいイベントを微動と誤判別してしまっている場合も確認された. 微動カタログにあるイベントについて, 観測点ごとの判別確率を入力とした教師なし学習 UMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection; McInnes et al., 2018) を適用したところ, 大局的に3つのクラスタに分かれ, それぞれ襟裳沖・三陸沖・茨城沖の微動を検出した観測点分布に対応することが分かった. 今後は, 同時刻に微動を検出した観測点分布の特徴を精査することで微動の誤判別を効率的に取り除く方法を検討する.
謝辞:本研究では気象庁一元化震源,防災科研のS-netの波形データを使用しました.本研究はJSPS科研費 JP21H05205 の助成を受けたものです. 記して感謝申し上げます.