09:45 〜 10:00
[S04-04] 1年間続いた伊豆小笠原海溝沿いのプレート間ズルズル滑り
1.序
伊豆・小笠原海溝におけるプレート沈み込みは非地震性滑りの代表例である。2015-2016にかけて、この海溝の内側深海底で水圧計8台による1年間のアレー観測(Fig.3)が実施された。我々はこの記録を解析し、M6.0の地震がアレー直下に発生した(Kubota et al., 2021, GRL)直後と3.5日後に、通常の地震よりは遅くSlow Slip Eventよりは早い滑り(Rapid Aseismic Slip)が発生したことを見出した(Fukao et al., 2021, JGR)。また前年度地震学会では、これらに先立って非地震性の早い滑りが何回か先行していたことを指摘した。今回は、(1)こうしたイベント的滑りと重なって年スケールのズルズル滑る成分が存在し、その時間推移は なる対数型の時間関数でよく近似できること、(2)滑りの始まり(t=0h)は 2015-05-30 の小笠原巨大超深発地震(Mw7.9, h=680km)の発震時に合致し、この巨大超深発地震を号砲として伊豆小笠原海溝のプレート間固着が広範囲に緩んだことを示す。
2.データ解析
小笠原巨大超深発地震の発生(t=0)から7時間後に小笠原海溝のOuter-riseでMw6.2の地震が発生、4週間後にはMw6.5の深発地震が起きた。この更に3か月後にはアレー直下でMw6.0の低角逆断層地震(Kubota et al., 2021, GRL)が発生した。アレー直下のプレート間滑りと小笠原深発地震との密接な関わりを示唆する記録例をFig.1に示す。この図はMw6.5の深発地震の発生を機にアレー直下の海底が一斉に隆起をしたことを示す。Fig.2Aは1年間にわたる海底の隆起沈降運動の経緯をまとめて示したものである。この図は、観測点間の水圧差を全ての観測点ペアについて求め、その1年を通した推移をプロットしたものである。この推移には なる対数型の時間関数が良くあてはまる。但し、t=0は2014-05-30 00:00:00、即ち、小笠原深発地震発生当日ゼロ時(UT)に対応する。観測点(i)と( j)の間の水圧差(Pj‒Pj)を観測値とし、設定した断層面を縦横12x15の要素に分割し、各要素kの断層変位ベクトルDkを未知数とする逆問題を設定した。但し、観測点間の水圧差しかデータとして用いていないので、各要素断層変位の絶対値はユニークに決まらない。ここに得られている解は、プレート境界に沿って基本的には海溝側で大きな逆断層、陸側で相対的に小さな正断層のパターンである。得られた解に基づく海底水圧変化の推移をFig.2Bに示した。1年間の時間スケールと10‒30kmの空間スケールの中で、観測とモデルが基本的に水圧差0‒20hPaを識別していることがわかる。
3. まとめ
2015年伊豆小笠原海溝のずるずる滑り(Sluggish slip)は、5月30日のMw7.9小笠原巨大超深発地震をきっかけに始まった。・このずるずる滑りは1年近く続き、ときに高速滑りを伴った。最も顕著な高速滑りはMw6.0スラスト地震とそれに続く非地震性高速滑りである。ずるずる滑りにより観測点間の高低差は1年で最大20cmに達した。・滑りの時間推移は なる対数型の時間関数が良くあてはまる。このときt=0には小笠原巨大超深発地震の発震時が対応する。・小笠原巨大超深発地震の号砲によって、沈み込むスラブの先端から付け根のOuterriseまでがプレート間固着のタガを失い、我々の30kmアレーよりもはるかに大きなスケールでずるずる滑りが起きていたのではなかろうか?
伊豆・小笠原海溝におけるプレート沈み込みは非地震性滑りの代表例である。2015-2016にかけて、この海溝の内側深海底で水圧計8台による1年間のアレー観測(Fig.3)が実施された。我々はこの記録を解析し、M6.0の地震がアレー直下に発生した(Kubota et al., 2021, GRL)直後と3.5日後に、通常の地震よりは遅くSlow Slip Eventよりは早い滑り(Rapid Aseismic Slip)が発生したことを見出した(Fukao et al., 2021, JGR)。また前年度地震学会では、これらに先立って非地震性の早い滑りが何回か先行していたことを指摘した。今回は、(1)こうしたイベント的滑りと重なって年スケールのズルズル滑る成分が存在し、その時間推移は なる対数型の時間関数でよく近似できること、(2)滑りの始まり(t=0h)は 2015-05-30 の小笠原巨大超深発地震(Mw7.9, h=680km)の発震時に合致し、この巨大超深発地震を号砲として伊豆小笠原海溝のプレート間固着が広範囲に緩んだことを示す。
2.データ解析
小笠原巨大超深発地震の発生(t=0)から7時間後に小笠原海溝のOuter-riseでMw6.2の地震が発生、4週間後にはMw6.5の深発地震が起きた。この更に3か月後にはアレー直下でMw6.0の低角逆断層地震(Kubota et al., 2021, GRL)が発生した。アレー直下のプレート間滑りと小笠原深発地震との密接な関わりを示唆する記録例をFig.1に示す。この図はMw6.5の深発地震の発生を機にアレー直下の海底が一斉に隆起をしたことを示す。Fig.2Aは1年間にわたる海底の隆起沈降運動の経緯をまとめて示したものである。この図は、観測点間の水圧差を全ての観測点ペアについて求め、その1年を通した推移をプロットしたものである。この推移には なる対数型の時間関数が良くあてはまる。但し、t=0は2014-05-30 00:00:00、即ち、小笠原深発地震発生当日ゼロ時(UT)に対応する。観測点(i)と( j)の間の水圧差(Pj‒Pj)を観測値とし、設定した断層面を縦横12x15の要素に分割し、各要素kの断層変位ベクトルDkを未知数とする逆問題を設定した。但し、観測点間の水圧差しかデータとして用いていないので、各要素断層変位の絶対値はユニークに決まらない。ここに得られている解は、プレート境界に沿って基本的には海溝側で大きな逆断層、陸側で相対的に小さな正断層のパターンである。得られた解に基づく海底水圧変化の推移をFig.2Bに示した。1年間の時間スケールと10‒30kmの空間スケールの中で、観測とモデルが基本的に水圧差0‒20hPaを識別していることがわかる。
3. まとめ
2015年伊豆小笠原海溝のずるずる滑り(Sluggish slip)は、5月30日のMw7.9小笠原巨大超深発地震をきっかけに始まった。・このずるずる滑りは1年近く続き、ときに高速滑りを伴った。最も顕著な高速滑りはMw6.0スラスト地震とそれに続く非地震性高速滑りである。ずるずる滑りにより観測点間の高低差は1年で最大20cmに達した。・滑りの時間推移は なる対数型の時間関数が良くあてはまる。このときt=0には小笠原巨大超深発地震の発震時が対応する。・小笠原巨大超深発地震の号砲によって、沈み込むスラブの先端から付け根のOuterriseまでがプレート間固着のタガを失い、我々の30kmアレーよりもはるかに大きなスケールでずるずる滑りが起きていたのではなかろうか?