日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA66] 中学校における客観的いじめ判定基準の策定

中学校版いじめ認知尺度作成の試み

藤井義久 (岩手大学)

キーワード:いじめ認知

目  的
 平成28年度における自治体ごとの1000人ごとの「いじめ認知件数」は,京都府が96.8件であったのに対し,香川県が5.0件と実に19倍の開きがある。その大きな原因として,いじめ判定基準のあいまいさが挙げられる。文部科学省は,被害者の主観的判断を重視し,被害者が精神的苦痛を感じれば「いじめ」と判断する方向にシフトした。その結果,自治体によって「いじめ認知件数」に大きな格差が見られるようになった。
 そこで,本研究では,中学生を対象に,「被害者判断」でもあり「第三者判断」でもある客観的な「いじめ判定基準」を策定することにした。

方  法
1.調査対象者
 公立中学校3校の生徒 計263名(男子133名,女子130名が調査に参加した。学年別内訳は、1年生92名、2年生87名、3年生84名である。
2.調査方法
 担任によって,授業中,以下の内容からなる質問紙を配布し,一斉に回答を求める形で調査が実施された。なお調査は無記名で行い,答えたくない質問に対しては答えなくても良いことなど事前に調査対象者に伝えた上で調査を実施した。
3.調査内容
(1)フェイスシ-ト
 学年および性別について尋ねた。
(2)いじめ認知に関する調査
 「いじめ」が疑われる45個のスクールライフイベントを提示し,出来事ごとに精神的苦痛度と傷つき度についてそれぞれ5段階で回答を求めた。
(3)いじめ経験に関する調査
 (2)と同じ45個のスクールライフイベントを提示し,過去1か月以内にそれぞれの出来事を経験したかどうか,2件法で回答を求めた。
(4)児童用抑うつ自己評価尺度(DSRS)
 村田ら(1996)の18項目を用いた。回答方式は3件法で,カットオフポイントは16点である。

結果と考察
1.いじめ深刻指数の算出
 まず45個の出来事ごとに精神的苦痛得点と傷つき得点を単純に合算した値を「いじめ深刻得点」とした。次に,45個の「いじめ深刻指数」の平均値および標準偏差を求めたところ,平均値4.61,標準偏差0.41という値を得た。そこで,これらの値を用いて,45個の「いじめ深刻得点」をそれぞれ偏差値に換算した値を客観的な「いじめ判定基準」となる「いじめ深刻指数」(平均50)とした。つまり50以上はより深刻な状況と判断される。その結果,「いじめ深刻指数」が最も高かった出来事は,「クラスで仲間外れにされた」(70)であった。
2.いじめ判定基準の算出
 いじめ経験に関する調査において,各調査対象者が過去1か月以内に経験したと回答した各出来事に付与されている「いじめ深刻指数」を合算した値が何点以上になれば心に深刻な影響を及ぼす可能性が高いのか、うつ尺度を用いて検討した。具体的には、「いじめ深刻指数」合算値を目的変数,「うつ得点」を説明変数として回帰分析を行った。その結果,y=14.69x+128.55という回帰直線が得られた。そこで,この式に,うつ得点のカットオフポイントである16点を代入したところ364点という「いじめ深刻指数」合算値のカットオフポイントが得られた。つまり,過去1か月以内に経験した出来事の「いじめ深刻指数」の合算値が364点以上の生徒は深刻ないじめを受けている可能性が高く早急な介入が必要であると言える。
3.中学生版いじめ認知尺度の開発
 45個の「いじめ深刻指数」を用いて,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,「身体的・物理的攻撃」,「人権侵害」,「言語的攻撃」という4つの下位尺度から成る「中学生版いじめ認知尺度」を開発した。