日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE33] メタ認知的支援を組み込んだ中学校理科授業の実践と評価

協働的問題解決における学業的援助要請の影響に着目して

久坂哲也1, 平澤傑2 (1.岩手大学, 2.岩手大学教育学部附属中学校)

キーワード:メタ認知的支援, 中学校理科, 学業的援助要請

目  的
 理科学習においても学習者のメタ認知に介入し,理解度や態度形成に効果を与えた授業実践が様々報告されている(e.g., Zepeda, et al., 2015)。そこで,本研究では中学校理科の考察場面に焦点を当て,メタ認知的支援を組み込んだ授業実践の効果について学習者の学業的援助要請といった個人特性が協働的な問題解決に与える影響について調査した。

方  法
授業実践の概要 本授業実践は,中学校理科の考察場面を想定し,考察場面で要求されるメタ認知的知識の獲得を目的とした「教示授業」と,協働的な問題解決活動を促すことを目的とした「支援授業」の2つで構成された。教示授業では,メタ認知を促進させるためには先ず個人内の知識のレパートリーを増やすことが必要であるという知見から(Veenman, 2012),考察場面におけるメタ認知的知識について事前の調査結果(平澤・久坂,2017)を基に解説を行った。支援授業では,協働における他者との関係性の観点から「互恵性」「対等性」「自発性」の3つの関係性が必要であることや(伊藤・中谷,2013),社会的に共有された学習の調整(socially shared regulation of learning: SSRL)の観点から伊藤(2017)を参考に,協働して問題解決を行うときには,1)自分なりの考えをもつこと,2)自分と他者の考えを比較したり,関連づけたりすること,3)困っている他者がいたら支援すること,4)自分が困ったら他者に支援を求めること,の4点が大切であることを説明した。
対象者と手続き 対象は国立大学附属中学校第2学年の生徒(4学級144名)であった。各学級を教示授業と支援授業の両方を行う「教示支援群」,教示授業のみを行う「教示群」,支援授業のみを行う「支援群」,両授業も行わない「統制群」に無作為に割り当てた。各群においてはじめに質問紙調査を行い,その後各活動に取り組んだ。なお,評価問題終了後,教示群,支援群,統制群においてそれぞれフォロー活動を行った。
質問紙 自律的・依存的援助要請尺度について瀬尾(2007)を基に,要請対象者を「先生」から「先生や友だち」に修正して使用した。回答は5件法であった。
評価問題 OECDの学習到達度調査(PISA)の2006年の科学的リテラシーに関する問題から,図や問題文等を一部改変して使用した。大問2問,小問各2問の計4問であった。また,それぞれについて個人の考えを記入する欄(協働前)と,班での話し合い後に自分の考えを記入する欄(協働後)を設けた。

結果と考察
 評価問題について各問0(誤答または無回答)~2(完全解)の3段階で採点した。はじめに大学生2名が2群ずつ独立に採点を行い,その後,筆者らが点検を行った。協働前と協働後の得点について加算平均を算出し,その正答率について角変換を行った後,協働の前後の変化量を分析に使用した。評価問題の得点(変化量)を従属変数,学業的援助要請尺度の得点を独立変数として,各学習条件で強制投入法による重回帰分析を実施した。その結果,教示支援群においてのみ決定係数が有意で,自律的援助要請が協働の前後の変化量に正の影響を与えていることが示された。よって,本授業実践において事前にメタ認知的知識を教示した上で協働を促す支援を行うことは,自律的援助要請の学習者のパフォーマンスを向上させるが,教示のみや支援のみといった授業は,協働的な問題解決場面において学業的援助要請の影響を受けない可能性が示唆された。