[PA012] 小学校における学級の社会的目標に関する研究
学級の社会的目標構造尺度の開発
Keywords:学級の目標構造, 社会性, 動機づけ
目的
これまでの動機づけ研究では,個人の動機づけ特性(e.g.,目標志向性)が着目されると同時に,学級における環境要因も着目されてきた。そのような学級環境を記述する概念の一つに,学級の目標構造がある(e.g., Ames, 1992)。学級の目標構造とは,教師が伝える学業目標に関するメッセージであり, ①学級が個人の熟達を強調する「熟達目標構造」,②学級が課題の遂行を強調する「遂行目標構造」に大別される(Ames, 1992; Ames & Archer, 1988; Kaplan et al., 2002)。
一方,日常的な教育活動の場では,こうした学業達成に関する目標だけでなく,児童の社会性の獲得を目指した目標も強調されていると考えられる。しかし,これまでに社会性に関する学級レベルの目標を扱った研究はほとんどなされていない。本研究では,学級で強調される社会的目標にはどのようなものがあるのかを調べ,学級の社会的目標構造を測定する尺度を作成することを目的とした。
方法
予備調査:調査参加者および手続き 近畿圏内に在住の小学校高学年の指導経験のある教員20名に「児童に身に付けさせたい社会性」について自由記述調査を依頼し,最終的に回答の得られた15名を対象とした。結果,59個の記述が得られ,心理学を専門とする大学教員2名が相談しながらカテゴリに分類した。その結果,向社会性(36%)および,規範遵守(29%)に関する記述が多かった。得られたカテゴリについて,具体的な記述内容を参考に計28個の尺度項目を作成した。
本調査:調査参加者 近畿圏内の小学5,6年生289名(女児146名,男児143名)を対象に調査を行った。
質問紙:①学級の社会的目標構造 (28項目)②学級の目標構造 (三木・山内, 2005):熟達目標構造(4項目),遂行目標構造(4項目)③学級風土尺度(伊藤・松井2001)の一部の下位尺度を使用:規律正しさ(6項目),生徒間の親しさ(7項目) ,学級への満足感(5項目)④社会的コンピテンス(桜井, 1992)「友だちは,たくさんいますか」など 10項目。
結果と考察
学級の社会的目標構造を反映すると考えられる項目群に対して,探索的因子分析を行った結果,2因子が抽出された。第1因子は「向社会的目標構造」と命名し,第2因子には「規範遵守目標構造」と命名した。2因子(計14項目)による全項目の分散説明率は38.62%であり,因子間相関は.61であった(Table 1)。
既存の尺度との相関係数を算出したところ,向社会的目標構造は熟達目標構造とr =.71と比較的強い相関,遂行目標構造とは有意な負の相関を示した(r =-.31)。学級風土の尺度とは,rs =.51~.56の正の相関を示した。社会的コンピテンスとは,弱い正の相関r =.23が確認された。規範遵守目標構造は,熟達目標構造と中程度の関係(r =.35),遂行目標構造とは独立した関係(r =-.02)であった。学級風土とはrs =.29~.43の中程度の関連を有していた。これらの結果から,本研究で作成した社会的目標構造尺度は,一定の妥当性を有するものと考えられる。
一方,学級の社会的目標構造は,学級レベルの概念であるため,今後は大規模調査を実施し,学級レベルでの因子構造や因果モデルも検討していく必要がある。
※本研究は科学研究費補助金(課題番号24730536)の助成を受けた。
これまでの動機づけ研究では,個人の動機づけ特性(e.g.,目標志向性)が着目されると同時に,学級における環境要因も着目されてきた。そのような学級環境を記述する概念の一つに,学級の目標構造がある(e.g., Ames, 1992)。学級の目標構造とは,教師が伝える学業目標に関するメッセージであり, ①学級が個人の熟達を強調する「熟達目標構造」,②学級が課題の遂行を強調する「遂行目標構造」に大別される(Ames, 1992; Ames & Archer, 1988; Kaplan et al., 2002)。
一方,日常的な教育活動の場では,こうした学業達成に関する目標だけでなく,児童の社会性の獲得を目指した目標も強調されていると考えられる。しかし,これまでに社会性に関する学級レベルの目標を扱った研究はほとんどなされていない。本研究では,学級で強調される社会的目標にはどのようなものがあるのかを調べ,学級の社会的目標構造を測定する尺度を作成することを目的とした。
方法
予備調査:調査参加者および手続き 近畿圏内に在住の小学校高学年の指導経験のある教員20名に「児童に身に付けさせたい社会性」について自由記述調査を依頼し,最終的に回答の得られた15名を対象とした。結果,59個の記述が得られ,心理学を専門とする大学教員2名が相談しながらカテゴリに分類した。その結果,向社会性(36%)および,規範遵守(29%)に関する記述が多かった。得られたカテゴリについて,具体的な記述内容を参考に計28個の尺度項目を作成した。
本調査:調査参加者 近畿圏内の小学5,6年生289名(女児146名,男児143名)を対象に調査を行った。
質問紙:①学級の社会的目標構造 (28項目)②学級の目標構造 (三木・山内, 2005):熟達目標構造(4項目),遂行目標構造(4項目)③学級風土尺度(伊藤・松井2001)の一部の下位尺度を使用:規律正しさ(6項目),生徒間の親しさ(7項目) ,学級への満足感(5項目)④社会的コンピテンス(桜井, 1992)「友だちは,たくさんいますか」など 10項目。
結果と考察
学級の社会的目標構造を反映すると考えられる項目群に対して,探索的因子分析を行った結果,2因子が抽出された。第1因子は「向社会的目標構造」と命名し,第2因子には「規範遵守目標構造」と命名した。2因子(計14項目)による全項目の分散説明率は38.62%であり,因子間相関は.61であった(Table 1)。
既存の尺度との相関係数を算出したところ,向社会的目標構造は熟達目標構造とr =.71と比較的強い相関,遂行目標構造とは有意な負の相関を示した(r =-.31)。学級風土の尺度とは,rs =.51~.56の正の相関を示した。社会的コンピテンスとは,弱い正の相関r =.23が確認された。規範遵守目標構造は,熟達目標構造と中程度の関係(r =.35),遂行目標構造とは独立した関係(r =-.02)であった。学級風土とはrs =.29~.43の中程度の関連を有していた。これらの結果から,本研究で作成した社会的目標構造尺度は,一定の妥当性を有するものと考えられる。
一方,学級の社会的目標構造は,学級レベルの概念であるため,今後は大規模調査を実施し,学級レベルでの因子構造や因果モデルも検討していく必要がある。
※本研究は科学研究費補助金(課題番号24730536)の助成を受けた。