日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA035] リスク認知にリスクリテラシー・批判的思考が及ぼす影響

遺伝子組み換え食品と再生医療のアナロジーの効果

伊川美保1, 楠見孝2 (1.京都大学大学院, 2.京都大学)

キーワード:リスク認知, リスクリテラシー, アナロジー

リスクを科学的に理解し適切な意思決定を下す能力であるリスクリテラシーは,様々なバイオテクノロジーのリスクに直面する今日において益々重要性を増すと考えられる。そこで本研究の第一の目的は,バイオテクノロジーの一例として遺伝子組換え食品を取り上げ,そのリスク認知とリスクリテラシーの関係を検討することである。
第二の目的として,本研究では複数のリスクを比較するためのアナロジーの効果について検討を行う。その理由は,アナロジーが学習や社会的推論において重要な役割を果たしているにも拘らず(e.g.,楠見,2002),その効果がリスク認知の研究において殆ど検討されていないことにある。よって本研究では,バイオテクノロジーという点で共通する遺伝子組換え食品と再生医療とを取り上げ,両者の類似性/非類似性を認識することの効果を明らかにする。

方法
2014年2月に,インターネット調査会社の全国登録モニター920人にウェブ調査を実施した。回答者はリスク認知尺度の質問順序の違いで2群に分けられ,更に2群それぞれが,遺伝子組換え食品と再生医療の類似点を記述する群,両者の相違点を記述する群,両者の要点をまとめる群に割り当てられた。
462名の回答者は,まず再生医療について書かれた短い文章(内閣府HPを参考に発表者作成)を読んだ後,再生医療のリスク認知尺度11項目に7件法で回答した。その後,回答者は3つの条件群に割り当てられ,遺伝子組換え食品の短い文章(厚生労働省HPを参考に発表者作成)を読み,遺伝子組換え食品のリスク認知尺度11項目を7件法で評定した。最後に遺伝子組換え食品と再生医療の類似度を問う尺度5項目に回答した。なお順序効果による交絡が生じないよう,残り458名に対しては,遺伝子組換え食品と再生医療のリスク認知の順番を入れ替えて質問をした。
またリスク認知尺度に加えて,リスクリテラシーを構成する,科学リテラシー8項目とメディアリテラシー5項目(楠見・平山,2013),食品リスク知識10項目,批判的思考態度12項目(平山・楠見,2004)をウェブ上で問うた。また回答者の学歴等についても質問をした。

結果と考察
本研究では,再生医療とのアナロジーの後に遺伝子組換え食品のリスク認知を回答した462名を分析対象とした。
1.遺伝子組換え食品のリスクリテラシー構造
遺伝子組換え食品のリスク認知にリスクリテラシーや批判的思考態度,学歴が与える効果を検討するために,3つの条件群ごとに多母集団分析でパス解析を行った。図1に示すように,遺伝子組換え食品のリスク削減必要度知覚は,メディアリテラシーから直接引かれるパスと,食品リスク知識を介して科学リテラシーから伸びるパスの2方向から影響を受けた。そして何れのパス係数も正の値をとることから,リスクリテラシーが高い人ほどリスクを削減必要と捉え,リスクを高く知覚していた。またリスクリテラシーは,批判的思考態度を介して学歴から正の影響を受けていた。

2.再生医療アナロジーの効果
リスク認知尺度のうち,リスクの大きさを評価するリスク度知覚項目について,遺伝子組換え食品および再生医療の平均値と両者の相関係数を3つの条件群ごとに算出した。また再生医療のリスク度知覚と類似度の因子得点から遺伝子組換え食品のリスク度知覚を予測するために,交互作用項を含めた重回帰分析を行った。その結果,類似点を記述した群にのみ両者のリスク度知覚の間に.232の相関(p<.01)が見られた。また同群について,類似度を高く知覚した人ほど遺伝子組換え食品のリスクを低く知覚しており(β=-.637, p<.01),再生医療のリスクを低く知覚したほど遺伝子組換え食品のリスク度知覚が低かった(β=.218, p<.01)。また交互作用が有意なことから,再生医療のリスク度知覚が遺伝子組換え食品のそれに与える影響は,両者の間にアナロジーを認識する程度によって調整されていた(β=.606, p<.05)。