日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA049] 成員交代を伴うゼミ共同体における先輩後輩関係に言及する語りの機能

状況的学習論の視点から

山田嘉徳 (関西大学)

キーワード:先輩後輩関係, 語り, 状況的学習論

問 題 ・ 目 的
異学年交流や熟達度の違いを活用した学習の議論では主に,共同体内の新参者―古参者の関係に焦点化し,そこでの相互支援の関係における学習の様相が検討されることが多い。一方,成員交代を伴う共同体の成員は,かつてその場に存在していたはずの成員ややがて接することになるはずの成員の存在など,時制を貫く過去―未来の成員との関係に言及し,足場そのものを形づくる存在といえる。本研究ではこうした成員交代過程を伴う共同体の歴史的性格を含めて学習・発達を分析する状況的学習論(Lave & Wenger, 1991;Holland & Lave, 2001)の立場から,共同体の成員性形成においてリソースとして使用される先輩後輩関係に言及する語りの機能を検討することを通して,成員交代を伴う学習を捉え直す見方を提示する。

方 法
調査対象・手法 3年生と4年生の合同ゼミ(山田, 2012)に2010年度から2012年度にかけて継続的な参与観察を行い,各年度の活動終了後1~2月にのべ41名の学生に対し,ゼミの意識や取り組みについて尋ねるインタヴュー調査を実施した。
分析対象・手続き インタヴューで語られた語りを対象に,学びの内容(1.ゼミ発表のやり方,2.卒業論文の進め方,3.協力的関与のあり方)に着目し,学びの内容毎に,3年生時における現在の先輩(1),参入前の後輩(2),離脱後の後輩(3),及び4年生時における後輩(4),参入前の後輩(5),離脱後の先輩(6)という6つの語りの側面を定め,それぞれどの程度言及されたかについて分析した。
結 果 ・ 考 察
Figure1より学びの内容別に語られた割合をみると,ゼミ発表の語りでは,1,4,6の側面が半数以上の割合で言及されており(それぞれ59.9%,78.3%,64.4%),一方,2,3,5の側面はほとんど言及されていない(それぞれ9%未満)。卒業論文の語りでは,1,4,6の側面が部分的に言及されており(それぞれ38.7%,31.4%,54.9%),一方,2,3,5,7の側面はほとんど言及されていない(それぞれ8%未満)。協力的関与の語りでは,1,4,5,6の側面が半数近く言及されている(それぞれ65.4%,49.1%,46.0%,59.8%)。一方,2,3の側面は部分的に言及されているにとどまり(それぞれ31.7%,21.3%),4年生時の参入前の後輩との関係(5)が言及されやすい(46.0%)。
以上の先輩後輩関係に言及する語りの割合の分析から,ゼミ共同体の先輩後輩関係の学習において協力的関与といった成員性形成・維持がゼミ発表,卒業論文といった課題遂行に先行する可能性があること,その背景には先輩後輩関係の人間関係を重視する暗黙の傾向があることが推察される。なお,この成員交代を伴う共同体の先輩後輩関係における学習の特性を語りの機能の側から捉えると,そこでの学習の達成とは次のように捉え直される。それは,共同体の参入前―離脱後の先輩後輩関係の成員への言及を通して,実践についての語りが社会的に保存され(Orr, 1990),成員性が拡張されることにより達成される,という説明である。この見方は,共同体の維持過程(Matusov & Rogoff, 2002)や価値規範の継承・学習過程(山田, 2012)の検討にも有効であることが示唆される。