日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(501)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PA082] 心的状態語の使用量から心の理論を予測できるか?

日本人母子における言語的相互交渉からの検討

東山薫 (大阪国際大学短期大学部)

キーワード:心の理論, 心的状態語, 母子

目 的
心的状態語の使用量と心の理論の関連に関しては,欧米では正の相関が見られると報告されている(Brown, Donelan- McCall, & Dunn, 1996; Dunn, Brown, Slomkowski, Tesla, & Youngblade, 1991)。たとえばDunn(1991)らは,第二子に注目し,33 か月時点の母親の感情に関する発話数と7か月後の子どもの誤信念課題の成績,また47 か月時点の子どもの心的状態語に関する発話数と同時点での誤信念課題の成績に正の相関があると報告している(それぞれr=.28, p<.05; r=.33, p<.05)。Ruffman, Slade,& Crowe (2002)は,平均3歳1か月時点での母親の心的状態語の使用が5か月後,1年後における子どもの心の理論課題成績に影響を及ぼしていることを示している(それぞれr=.60, p<.001; r=.41, p<.01)。日本でも園田(1999)が 3場面を設けて母子の欲求言葉,感情状態言葉,思考状態言葉の使用量と誤信念課題の成績との関連を見ているが,母親の思考状態に関する言葉の使用(3場面合計)が誤信念課題の成績と正の相関があり(r=.44, p<.01),母親の感情状態に関する言葉の使用は1場面においてのみ,正の相関の傾向が見られたことが示されている(r=.27, p<.10)が欧米のように顕著ではない。このように結果が一致しないだけではなく,日本語は英語とは異なり,話し手の心的状態についてはっきり心的動詞を用いて表現しない(Naito & Koyama, 2006)という指摘がある中で,心的状態語の使用量から心の理論を予測出来るのかを検討する。
方 法
1.調査協力者
5~6歳児とその母親53組(女児が31名[M=5歳11か月,レンジ5歳4か月~6歳6か月],男児が22名[M=5歳10か月,レンジ5歳4か月~6歳4か月]であった。
2.調査の内容
(1) 心の理論課題:Wellman & Liu(2004)の7課題からなる心の理論課題のうち5課題(a. 自分と他者の異なる欲求,b. 自分と他者の異なる信念,c. 自分と他者の異なる知識,d. 誤信念,e. 隠された感情)を日本語訳して実施した(東山, 2007)。
(2)絵画語彙発達検査:子どもの言語能力を測定した。
(3) 母子の言語的相互交渉場面:幼児・児童絵画統覚検査(CAT)の図版のうち3枚を用いたストーリー作成課題において,母子で協力してストーリーを作成してもらい,母子の心的状態語の使用について観察した。
3.分析方法
Bretherton & Beeghly(1982)の分類を元に心的状態語を(1)知覚(例:見る・聞く等),(2)生理(例:お腹がすく・寝る等),(3)ポジティブ感情(例:嬉しい・好き等),(4)ネガティブ感情(例:悲しい・怖い等),(5)認知(例:知っている・思う等),(6)意志(例:~欲しい・~できる等),の6種類に分類し,それぞれの数をカウントした。ただし日本語特有の言い回しがあるため,岩田(1999)や松永・斉藤・荻野(1996)らにあるように,“かゆい”“重い”を知覚に,“イヤ”や“嫌い”をネガティブに,“~かな”や“じゃない”を認知に,“~たい”“ちょうだい”を意志のカウントに含めた。その際,母子によって発話数が異なるため,turn数(会話の順番が変わった回数)を分母とした割合も算出した。
結 果 と 考 察
1.母子における心的状態語の使用量
3種類のストーリー作成課題における母親の心的状態語使用量の平均は1.94~19.34(turn数で割った割合は1.46~15.52)と,その内容によって大きく違いが見られた。一方,子どもの心的状態語使用量の平均は0.87~4.42(turn数で割った割合は0.51~3.31)であり3課題合わせても発話数が1回に満たないものもあった。
2.母子の心的状態語使用量と心の理論(ToM)との関連
母親の「生理」に関する言及数とToMに正の相関が見られたが(r=.27, p<.05),子どもの年齢(age)と語彙発達年齢(VA)の影響を排除するとその値は小さくなった(r=.26, p<.10)。Turn数で割った母親の「意志」とToMは有意傾向にあり(r=.27, p<.10),ageとVAを制御すると有意な正の関連が見られた(r=.28, p<.05)。子どもの心的状態語の使用量とToMとの間に有意な相関は見られず,turn数で割った値だと「意志」とToMが有意傾向にあり(r=.24, p<.10),ageとVAの影響を制御すると「ポジティブ感情」とに強い相関が見られ(r=.58, p<.001),「ネガティブ感情」は有意傾向が見られた(r=.26, p<.10)。母子ともに心的状態語の使用量の合計とToMとの間に関連は見られなかった。
心的状態語の使用量と心の理論には関連が見られるものもあったが,その相関は決して強いものではなく一貫性もなかった。また使用量自体が少ないことから日本において心的状態語の使用量から心の理論を予測するのは難しいと考える。