The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC032] 絵本の集団読み聞かせにおける読後の対話活動

保育における言語力の育成

塚本恵信1, 橋村晴美2 (1.椙山女学園大学, 2.中部学院大学)

Keywords:絵本の集団読み聞かせ, 読後の対話活動, 言語力の育成

問題
言語は1.知的活動,2.感性・情緒,3.コミュニケーション能力の基盤であり,近年その運用能力「言語力」の育成が強く求められている(文科省,2007)。1.根拠を基に論理的に思考・説明する技能や2.感性・情緒を言葉で表現・分析する技能,3.他者との対話を通して理解を深化・共有する技能等について,実際に言語の活用を通した育成指導(活用型教育)が要請されており,発達に応じた活動の充実が教育現場に課されている。
幼児期は豊かな体験を自分なりに言語を介して思考・表現し,体験を共有した他者と相互に言葉で伝え合う活動の充実が課題となる(秋田,2009)。『幼稚園教育要領』(文科省,2008)及び『保育所保育指針』(厚労省,2008)の領域『言葉』では「気持ちを言葉で表現する楽しさ」や「伝え合う喜び」,「絵本や物語などに親しみ先生や友達と心を通わせる」がねらいとして掲げられており,保育者の応答的な関わりや話しかけを介して体験を言語化する意欲を高めることが求められている。
保育・幼児教育の現場では,幼稚園教諭や保育士によって「絵本の集団読み聞かせ」が広く実践されている。絵本は幼児が言葉や絵を楽しむ体験を通して想像世界のイメージを形成し,他者と共有する機会や自由遊びを展開させる契機を与える素材として強く支持されている(波木井,1994)。また,読後の他者との対話が「協同的な学び」を構築し(無藤,2009),言語やコミュニケーションの発達を促すことが示唆されている(三森,2008)。
だが保育の場において,絵本の集団読み聞かせ「読後」の具体的な主活動は現状として未確立であり,その重要性も十分に認識されているとは言えない。保育者や園によって絵本の読み聞かせの実践は多様であり,場つなぎや時間つぶし,季節や行事を意識させる刺激に留まる場合も少なくない。また「読後の発話は感受性を阻害する」といった主張(松居,2003等)が現職研修や養成教育で絶対視されたり,児童文化財「演者」として形式的な表現技術(読み方,持ち方等)の習得に偏重する傾向も指摘されている(塚本・橋村,2014)。領域『言葉』のねらいを実現し言語力の育成を図るためにも,保育の主活動として「絵本の集団読み聞かせ」読後の対話活動のあり方を検討し,学びの環境を構成することが急務となる。
目的
「絵本の集団読み聞かせ」読後の主活動における保育者の言語的な働きかけや応答が幼児の主体的な発話・反応に及ぼす効果を実験的に検討する。仮説 思考や情緒の言語表出を求める保育者の対話的な関わりが幼児の主体的な反応表出を促す。
方法
日時 2010年9月(午前主活動)参加者 私立幼稚園教諭(教歴10年;女性),年長児28名(男児12女児16);PVT-R絵画語い発達検査及びITPA言語学習能力診断検査を用いて言語能力が比較的均質な2群を構成。実験計画 対話型(実験群)vs余韻型(対照群)として保育者の読後の言語的働きかけを操作。測度 幼児の反応表出をカテゴリーに分類し生起頻度を検討。手続き 「読書によるアニマシオン」(有元,2002)や「フィンランド・メソッド」(北川他,2005)を参考に保育の主活動として実践する「基本シナリオ」を作成し,協力園の保育活動として実施。観測はビデオカメラとフィールドノートを使用(プロトコル化して分析)。基本シナリオの操作 読後に各頁を振り返った後,I.「感想の表出」(お話どうだった?)とII.「物語の発展」(続きはどうなる?)で活動を構成。実験群では保育者が発話した幼児に1.場面(それはどこ?)ならびに2.理由(どうしてそう思った?)を問いかけ対話的に応答した。対照群では場面や理由の問いかけはせず受容的な応答に留めた。
結果・考察
幼児の反応をA.主体的表出(a.自発,b.同意,c.反論),B.受動的表出(a.返答,b.困惑)に分類し平均表出頻度を算出したところ,実験群で総表出,主体的表出,受動的表出ともに頻度の増大が示された。根拠(場面)を示して説明(理由)を求める保育者の対話的な関わりが,自分なりの情緒や思考を言語化しようとする幼児の主体的表出を促したと考えられる。「絵本の集団読み聞かせ」読後の対話を活用して言語力を育成する主活動のあり方について検討を進める必要がある。