The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC036] 概念構造生成における学習対象概念の構造の影響

大津嘉代子 (早稲田大学)

Keywords:非連続型テキスト, 概念構造, 生成

目的
教科書を構成するテキストは、文章に相当する連続型テキストと、図、グラフ、表等の非連続型テキストに大別される。概念学習においては、文章だけで読ませるより、図を付加した方が下位概念同志の関係を良く把握できることが知られている。さらに非連続型テキストは、学習者自ら概念図として構造化することもまた学習効果があり、概念地図、マインドマップ、KJ法、コンセプトマッピングなど様々な手法が提案されている。
概念構造化の学習促進効果に関する先行研究は、構造化方法や題材の違いを独立変数にする場合が多く、学習対象となる概念固有の構造の違いが学習に与える影響にはあまり関心が払われていない。概念の構造は、階層、下位概念、リンクの数など様々であり、その違いによっては、自ら生成する方が深く理解できる場合と、その逆に出来あがった図を提示された方がかえって効率よく理解できる場合があるのではないだろうか。
本研究では、直列型(工場の工程表)と階層型(家系図)の異なる概念構造それぞれについて、提示した構造図を文章化して覚える場合、文章を提示して構造図を生成させた場合の学習結果を比較した(Figure 1参照)。実験に際する仮説は以下の通りであった。(1)構造が比較的単純で理解しやすい場合、生成する効果は少ない。(2)下位概念同志に多様なつながりがある複雑な構造の場合、自ら生成した方がより深く理解できる。
方法
参加者:家系図問題18~28歳までの男女148名(平均年齢21.2歳,男73女75)、工程表問題18~28歳までの男女57名(平均年齢21.5歳,男33女24)
材料:各問題冊子、筆記用具
要因:概念図提示条件と生成条件による学習方法
手続きと課題:実験者の指示の下、10~15人の集団実験を行った。問題の教示は全て問題冊子に記載し、家系図問題、工程表問題ともに実験手続きは同様であった。問題冊子の主な内容は以下の通りであった。
・家系図、もしくは工程表の学習(4分間)
家系図問題 架空の3世代家族6名の名前(ラベル)と、一人を中心に他の家族との関係を学習。
工程表問題 架空の工場の6工程名(ラベル)と順序を、一つの工程を中心に学習。
提示条件 ラベル名入りの概念図を提示し、課題分のカッコ内にあてはまるラベル名を書き込ませた。例「○○の母親は( )である」、「○○の次の工程は( )である」
生成条件 課題文を読ませて、概念図を作成させた。例「○○の母親は△△である」、「○○の次の工程は△△である」
・関係理解問題 ラベル間の関係正誤判断37問(うち12問はディストラクタ)
・再生問題 概念図の空欄にラベル名記入
結果と考察
分析は問題ごとに行い、再生課題で正解した参加者を分析対象とした(Table 1参照)。各問題について、再生課題の条件別不正解者数のカイ二乗検定を行ったが、有意差はなかった。関係理解課題について、参加者の正答率1(正答を正答と回答)と正答率2(誤答を誤答と回答)を角変換し、平均値をt検定により比較したところ(Table 2参照)、家系図課題の正答率1のみ生成条件の方が提示条件より高かった(t(98)= 3.330,p<.01)。
実験の結果、概念構造の違いが生成、提示それぞれの学習方法で異なった影響を与えると示唆された。事前の仮説の通り、直列型の単純な構造を持つ工程表の場合、自ら概念を構造化しても学習効果は得られなかった。対して、階層化され、全ての下位概念同志がつながりを持つ家系図の場合、概念図を書き起こすことが深い理解につながった。家系図のような複雑な構造を生成する概念操作は認知リソースへの負担が大きく、学習の妨げになるように思えるが、結果的に下位概念同市の関係の知識が精緻化しやすい可能性がある。対して単純な工程表の場合、構造がわかりやすかったため、どちらの学習方法でも差が生じにくかったと考えられる。但し、今回の実験では、学習直後に関係理解問題を行ったため、中長期的な視点での知識の定着に差が生じるか否かについてはさらなる検証が必要である。