The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC060] 教職に関する社会的能力についての自己評価

教職志望学生と教員との比較検討

小泉令三1, 山田洋平2, 高松勝也1 (1.福岡教育大学, 2.梅光学院大学)

Keywords:社会的能力, 教員養成, 教員

問題と目的
教員の資質能力の向上については,初任者のコミュニケーション力など教員としての基礎的な力の未熟さが指摘されており(中央教育審議会,2012),教員養成段階での社会的能力育成の必要性が示唆されている。
では,教職志望学生は自身の社会的能力についてどのような自己評価をしているのであろうか。本研究では,教職志望学生の社会的能力に関する自己評価を,現職教員との比較によって検討することを目的とする。
方 法
調査対象 福岡県内の国立大学生76名と公立小・中・高等学校教員530名の計606名。
調査内容 ①教師用社会性と情動尺度(山田・小泉・髙松,2014)全23項目,5件法。②教職能力調査(学習指導,生徒指導,学級経営)全3項目(5件法)。③その他,性別,教職志望意識(5件法)(大学生のみ),勤務年数(教員のみ)について回答を求めた。
調査手続 大学生は関連する科目の講義時間内,教員は各学校での研修会後等に,任意で調査への協力を求めた。
結果と考察
調査対象大学生のうち,教職志望意識の高い(4以上)大学生55名と,教員で欠損値のない423名を分析対象とした。
教師用社会性と情動尺度の8つの能力と教職能力調査のそれぞれについて,勤務年数(7段階)×性別の2要因分散分析を行った。
その結果,「自己への気づき」については,勤務年数の主効果(F(7,462)=6.32, p<.001)が有意であった。下位検定の結果,大学生は21年以上の教員の得点より低く,また1~5年の教員は大学生及び6年以上の教員よりも得点が低かった(Figure)。
次に,「責任ある意思決定」については,勤務年数(F(7,462)=9.28, p<.001)と性別(F(1,462)= 8.62, p<.01)の主効果が有意であった。下位検定の結果,大学生<35年以上の教員,1~10年の教員<11年以上の教員,1~5年の教員<大学生となっていた(Figure)。性差については,女性より男性の得点の方が高かった。なお,交互作用については,いずれも有意ではなかった。
教職能力については,勤務年数の主効果(F(7,462)=11.33, p<.001)が有意で,下位検定の結果,学生や1~10年目の教員が,11年以上の教員よりも教職能力の得点が低かった。
以上のことから,教職志望学生は,専門性が問われる「教職能力」,すなわち学習指導,生徒指導,学級経営についての未熟さは自覚しているようである。一方で,教員としての得意・不得意な点などについての「自己への気づき」や,同僚教員との関係における意見表明や行動の決断などの「責任ある意思決定」については,5年以下の初任者に比べある程度やっていけるという思いを持っているようである。しかし,教員として勤務して1~5年の間は,実際の教職実践の中でその自信が低下していた。
教員養成段階においては,教科指導を主とする実習や学校生活全般の指導を経験するインターンシップ等を通して,より実践的な学びによって社会的能力を高めるとともに,自己評価低下への対処を予防的に指導しておく必要があるであろう。
引用文献
中央教育審議会(2012). 教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申).
山田洋平・小泉令三・髙松勝也 (2014). 教師用社会性と情動尺度の開発―信頼性と妥当性の検討― 日本心理学会第78回大会発表論文集(印刷中)
【付記】本研究は,JSPS科研費 26380889の助成を受けた。