日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(501)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 501 (5階)

[PC080] 直接的な支援でない場面における感謝感情

伊藤忠弘 (学習院大学)

キーワード:感謝, 感情特性, 場面想定法

目 的
蔵永・樋口(2011)は感謝が生起する状況をその特徴から「被援助」,「贈物受領」,「状況好転」,「平穏」,「他者負担」の5場面に分類した。そして特に対人状況における感情体験として「満足感」と「申し訳なさ」が区別され,「被援助」と「贈物受領」状況では満足感を,「他者負担」状況では申し訳なさを感じやすいことが明らかにされた。
他者から支援を受ける状況で感謝が生起しやすいのは間違いないと思われるが,支援が直接でない状況や支援かどうかが曖昧な状況でも,感謝が生起することがある。例えば,看護・福祉や様々な対人的な職種において,たとえ客が対価として金銭を支払っていても,その行為に感謝を感じることはあるだろう。また他者が行う寄付や献血などの社会貢献的行動に対しても,間接的な互恵関係を意識すれば,感謝を感じると予想される。
本研究では蔵永・樋口(2011)を参考に,「対人労働」と「社会貢献」の仮想場面を構成し,その状況で生じる感謝感情の強さと質の違いを検討する。また仮想場面での反応と感謝感情特性の尺度の関連を検討する。
方 法
研究協力者 大学生95名(男性26名,女性69名)。
仮想場面・質問項目 蔵永・樋口(2011)の「被援助」と「他者負担」から各1場面(友人が相談にのってくれた;ゴミを捨ててくれた)を採用し,さらに対人労働場面として,「レストランで店員がおしぼりと水を持ってくる」,「バスの運転手が自分を乗せて運転する」,という内容の2場面と,社会貢献場面として,「清掃活動をしている人」,および「献血をしている人を見かける」という内容の2場面を加え,計6場面を構成した。各場面に対する反応は,「満足感」(満足,幸せ,喜び),「申し訳なさ」(申し訳なさ,すまなさ,恐縮),「不快感」(不満,いらだち,不愉快)の他に,直接感謝を尋ねる「感謝」(感謝,ありがたさ)を加えた計11個について,「感じない(該当しない)」から「とても感じる」の5件法で回答させた。場面の提示順は1通りに統一した。
さらに伊藤(2014)で用いた感情特性(喜び,怒り,悲しみ,感謝の感じやすさ)を尋ねる12項目に回答させた。
手続き 授業の一部として集団状況で実施した。
結 果
蔵永・樋口(2011)と同様に,被援助場面では満足感が強く,他者負担場面では申し訳なさが強かった。この2場面は他の場面と比較して感謝が生起しやすかった。社会貢献の清掃場面でも感謝が強く推測されたが,献血場面とサービス労働場面では感謝が低かった(表1)。

さらに6場面すべての感謝反応が満足感および申し訳なさと正の相関があった。また感謝感情特性の高い人は6場面すべてで感謝反応を高く評定し,さらに他者負担や社会貢献場面で申し訳なさを高く評定していた(表2)。感謝特性の高さにより3群を構成し,分散分析を行ったところ,「バス」と「献血」を除く4場面の感謝反応と,「ゴミ」,「清掃」,「献血」の申し訳なさ反応に5%水準で主効果が認められた。

考 察
この結果は感謝感情特性の尺度によって,直接的な支援場面に限定されず,対人労働や社会貢献といった間接的な支援場面での感謝反応を広く予測できる可能性を示唆している。このような場面での感謝感情の生起を左右する要因として,間接的な互恵性の意識や行為の背後にある動機の推測の仕方が果たす役割を検討する必要がある。
引用文献
伊藤忠弘 (2014). 感謝される経験と感謝経験の頻度および達成動機づけ 日本心理学会第78回大会発表
蔵永瞳・樋口匡貴 (2011). 感謝の構造 感情心理学研究,18,111-119.