[PD003] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(10)
養育認知と居住地の移動が中学生の社会化に与える影響
キーワード:社会化, 養育認知, 社会生態学的アプローチ
子どもの社会化において,親は最も重要なエージェントとして位置づけられ,領域ごとに質的に異なる特定の相互作用によって社会化を担う (Grusec, 2011; Grusec & Davidov, 2010)。とくに,児童期における応答性や統制といった親の養育態度は,それぞれ“protection”と“control”の社会化領域と対応しており,子どもの社会化に大きく影響している (Darling & Steinberg, 1993; Smetana et al., 2006)。その一方で,個人と社会生態学的環境の両面から人々の行動を理解しようとする社会生態学的アプローチ (Oishi, 2014; 山岸, 1998) に基づけば,子どもの社会化には,養育認知だけでなく,居住地の移動をはじめとした社会生態学的要因も影響していると考えられる。これまでにも,外向性および神経症傾向と,幸福感 (人生満足度,ポジティブ感情,心理的幸福感からなる潜在変数) との関連性が,幼少期までに経験した居住地の流動性によって調整されることが示されている (Oishi & Schimmack, 2010)。本研究では,応答性と統制からなる養育認知と,居住地の移動との交互作用効果に注目し,中学生の反社会性 (一般攻撃信念,認知的歪曲) と向社会性 (共感的関心,視点取得) に与える影響について検討する。
方 法
対象者 公立中学校1校にて,3回にわけて調査を行った。有効回答数は720名 (男子354名, 女子366名; 1年生252名, 2年生243名, 3年生225名) であった。
測定内容 (a) 反社会性:認知的歪曲尺度 (吉澤・吉田, 2010; 14項目6件法, α = .78) と,一般攻撃信念尺度 (吉澤ら, 2009; 8項目4 件法, α = .91) を測定した。(b) 向社会性:児童用多次元共感性尺度 (長谷川ら, 2009) から“共感的関心”(7項目5 件法, α = .70) と“視点取得”(9項目5 件法, α = .80) を用いた。(c) 養育認知:“応答性”と“統制”からなる養育認知尺度を,小学校低学年時を回顧する形式で用いた (中道・中澤, 2003; 各5項目4件法, αs = .85, .78)。(d) 居住地の移動:5歳から現在までの引っ越し回数を尋ね,“0回”(425名) か“1回以上”(261名) にカテゴリ化した。(e) 統制変数として,性別,年齢,家族のサポートネットワーク数を用いた。
結果と考察
反社会性に関する検討 認知的歪曲と一般攻撃信念それぞれを基準変数として,Step 1で,3つの統制変数群,養育認知 (応答性 or 統制),居住地の移動を説明変数とし,Step 2では,Step 1の変数に加えて,養育認知×居住地の移動を説明変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果,一般攻撃信念に対して,応答性×居住地の移動の交互作用効果が認められ (B = 0.138, SE = 0.054, p = .012),居住地の移動がないとき,応答性が高いほど一般攻撃信念が低かった (Figure 1)。また,有意傾向ではあったが,一般攻撃信念への統制×居住地の移動の交互作用効果もみられた (B = 0.117, SE = 0.068, p = .086)。
向社会性に関する検討 共感的関心と視点取得それぞれを基準変数として,反社会性と同様の手続きで階層的重回帰分析を行った。その結果,共感的関心に対して,応答性×居住地の移動の交互作用効果 (B = -0.162, SE = 0.062, p = .010),ならびに統制×居住地の移動の交互作用効果 (B = -0.178, SE = 0.078, p = .023) が認められ,居住地の移動がない場合のみ,応答性や統制が高いほど共感的関心が高かった (Figure 1)。
以上の結果は,親の社会化エージェントとしての機能が,それまでに経験した居住地の移動によって損なわれる可能性を示唆している。認知的歪曲や視点取得が,前頭前野とのかかわりの強い認知的概念であるのに対して,一般攻撃信念や共感的関心は,海馬など大脳辺縁系との関連の強い情動的概念とされていることから (Adolphs, 2009),居住地の移動は,情動にかかわる社会化指標に対する養育認知の効果を弱めると解釈することができる。今後は,縦断的なデザインを採用し,本知見の因果関係を明らかにする必要があるだろう。
方 法
対象者 公立中学校1校にて,3回にわけて調査を行った。有効回答数は720名 (男子354名, 女子366名; 1年生252名, 2年生243名, 3年生225名) であった。
測定内容 (a) 反社会性:認知的歪曲尺度 (吉澤・吉田, 2010; 14項目6件法, α = .78) と,一般攻撃信念尺度 (吉澤ら, 2009; 8項目4 件法, α = .91) を測定した。(b) 向社会性:児童用多次元共感性尺度 (長谷川ら, 2009) から“共感的関心”(7項目5 件法, α = .70) と“視点取得”(9項目5 件法, α = .80) を用いた。(c) 養育認知:“応答性”と“統制”からなる養育認知尺度を,小学校低学年時を回顧する形式で用いた (中道・中澤, 2003; 各5項目4件法, αs = .85, .78)。(d) 居住地の移動:5歳から現在までの引っ越し回数を尋ね,“0回”(425名) か“1回以上”(261名) にカテゴリ化した。(e) 統制変数として,性別,年齢,家族のサポートネットワーク数を用いた。
結果と考察
反社会性に関する検討 認知的歪曲と一般攻撃信念それぞれを基準変数として,Step 1で,3つの統制変数群,養育認知 (応答性 or 統制),居住地の移動を説明変数とし,Step 2では,Step 1の変数に加えて,養育認知×居住地の移動を説明変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果,一般攻撃信念に対して,応答性×居住地の移動の交互作用効果が認められ (B = 0.138, SE = 0.054, p = .012),居住地の移動がないとき,応答性が高いほど一般攻撃信念が低かった (Figure 1)。また,有意傾向ではあったが,一般攻撃信念への統制×居住地の移動の交互作用効果もみられた (B = 0.117, SE = 0.068, p = .086)。
向社会性に関する検討 共感的関心と視点取得それぞれを基準変数として,反社会性と同様の手続きで階層的重回帰分析を行った。その結果,共感的関心に対して,応答性×居住地の移動の交互作用効果 (B = -0.162, SE = 0.062, p = .010),ならびに統制×居住地の移動の交互作用効果 (B = -0.178, SE = 0.078, p = .023) が認められ,居住地の移動がない場合のみ,応答性や統制が高いほど共感的関心が高かった (Figure 1)。
以上の結果は,親の社会化エージェントとしての機能が,それまでに経験した居住地の移動によって損なわれる可能性を示唆している。認知的歪曲や視点取得が,前頭前野とのかかわりの強い認知的概念であるのに対して,一般攻撃信念や共感的関心は,海馬など大脳辺縁系との関連の強い情動的概念とされていることから (Adolphs, 2009),居住地の移動は,情動にかかわる社会化指標に対する養育認知の効果を弱めると解釈することができる。今後は,縦断的なデザインを採用し,本知見の因果関係を明らかにする必要があるだろう。