The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PD016] やりたいこと探しの動機と期待価値,就業観の関連について

自己決定性に注目して

飯塚亮輔 (法政大学)

Keywords:やりたいこと探しの動機, 期待価値, 就業観

問 題 と 目 的
やりたいこと志向とは,好きなことや自分のやりたいことを仕事に結び付ける傾向のことである。この志向は,広く大学生が持つ志向とされる。やりたいことにこだわった結果,興味ある選択肢が見出せずに進路未決定につながることや,やりたいこと志向を持つことが,職業の社会的意義・公共性を軽視することもある知見が見られる。一方で,青年期特有のものであり,職業不決断に直結していないとする研究があり,その知見には不適応とそうでない結果が散見される。萩原・櫻井(2008)は,自己決定理論を基に,「やりたいこと探し」尺度を作成し,進路不決断尺度との関連を検討した。その結果,動機づけの低い群が,進路決断の面で問題を抱えていることが明らかになった。
本研究では,「やりたいこと探しの動機」と就業することにより期待される「就業に対する期待価値」(浦上,1992)と「就業動機」(安達,1998)との関連を検討することで,やりたいこと探しの自己決定性が,他のキャリア意識に与える影響について検討し,また,やりたいこと探しの動機が期待価値を通して就業動機に影響を与えるプロセスを検討する。
方 法
大学生120名(1年生48名,2年生30名,3年生42名)を対象に2013年11月授業を使用した一斉調査を行った。使用した尺度は,やりたいこと探しの動機尺度(萩原・櫻井,2008)25項目を5件法,就業に対する期待価値尺度(浦上,1992)49項目を5件法,就業動機尺度(安達,1998)37項目を5件法で尋ねた。
結 果 と 考 察
得られた回答を尺度ごとに,主因子法・Promax回転による因子分析をおこなった。各尺度の下位尺度間の影響を検討するため,因子得点を用いた重回帰分析を行った。結果期待は,やりたいこと探しの動機を説明変数に設定し,就業動機はやりたいこと探しの動機,期待価値を説明変数に設定した。Figure 1 には,重回帰分析の結果得られた有意な標準偏回帰係数をパス図として示した。まず,やりたいこと探しの動機から期待価値への影響に着目すると,自己充足志向から内面性実現価値(β=.70,p<.01),ステイタス価値(β=.28,p<.01),活動性経済安定価値(β=.41,p<.01),向社会価値(β=.45,p<.01)に対して有意な正のパスが見られた。萩原・櫻井(2008)は,自己決定性が高ければ進路決定への心理的困難は低くなると述べているが,自己決定性の高い自己充足志向が自己内省に付随する心理的困難を抑制した結果,就業に対する期待価値が明確化されたと考えられる。また,自己充足志向は,期待価値の中でも特に内面性実現価値に強い影響を与えているが,内面性実現には自分の有する価値を自律的に実現してゆこうとする自律性が必要であり,自己充足志向の持つ高い自己決定性(自律性)は,内面性実現価値に含まれる自律性に対して影響を与えていると考えられる。
期待価値から就業動機への関連を見ると,内面性実現価値から自己向上志向へ(やりたいこと探しの動機から就業動機に対して及ぼす影響では,自己充足志向が,自己向上志向に対して有意な正のパス,ステイタス価値から上位志向に正のパス,向社会価値から対人志向への正のパスが見られた。個人の有する価値が,就業に対する志向性の選択に対して異なった影響を与えているということが推測される。
更に,やりたいこと探しから期待価値,就業動機というプロセス全体でみると,高い自己決定性の自己充足志向が,内発的動機と概念的に一致する自己向上志向に対して,内面性実現価値よりも大きい影響を持たないことで,やりたいこと探しの動機は,まず価値観の形成に影響を与え,その価値観が就業動機に影響を与え行動を引き起こすというプロセスが示唆された。
引用文献
萩原俊彦・櫻井茂男 (2008).“やりたいこと探し”の動機における自己決定性の検討―進路不決断に及ぼす影響の観点から― 教育心理学研究,56,1-13.