日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD044] 賞賛獲得欲求および拒否回避欲求が過剰適応に及ぼす影響

清水健司1, 清水寿代2 (1.信州大学, 2.広島大学大学院)

キーワード:賞賛獲得欲求, 拒否回避欲求, 過剰適応

目的
過剰適応とは,外的適応が過剰なため内的適応が困難に陥っている状態(桑山,2003)と定義され,周囲との良好な関係を志向する目的のためなら,本来の自分を抑制することもいとわない姿を指している。一見良好な対人関係を築き,社会的に適応しているように見えても,ありのままの自己実現に手が届きにくいため精神的に不安定になりやすいことが知られている。日常的な対人関係で疲弊しやすく,援助を受けるタイミングが遅れやすいことを考えると,過剰適応に陥る要因の検討は,重要な課題だと言える。では,過剰適応に関連する要因には何が考えられるだろうか。
まず,周囲との良好な関係に過剰適応者が拘ることを考えると,彼らが他者から望ましい評価を得たい欲求を持つことが考えられる。近年では「他者を感心させたい」などの肯定的評価を得ることに動機づけられた「賞賛獲得欲求」と,「変な人だと思われたくない」などの否定的評価を避けることに動機づけられた「拒否回避欲求」が注目されている。特に,賞賛獲得欲求と拒否回避欲求の両方が強い場合においては,板挟みになることが多く,過剰なまでの外的適応を志向する可能性が想定できる。
また,青年期に良好な友人関係を形成することは,心理・社会的発達観点に加え,彼らの精神的健康の維持にも大きな役割を果たすものである。そのため,友人関係を形成する意味をどのように捉えているのかは,外的・内的適応にも大きな影響を及ぼすと考えられる。岡田(2005)は,なぜ友人と親しくしたり,一緒に時間を過ごしたりするのかの理由として,他者からの働きかけに一任する「外的理由」,自己価値を維持したいがための「取り入れ」,友人との関係に自発的な価値づけをおく「同一化・内発的理由」を想定している。本研究では,過剰適応に陥る関連要因として,賞賛獲得・拒否回避欲求,友人と一緒にいる理由に注目し,影響関係について実証的な検討を行う。
方法
賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度:小島他(2003)を使用し,各々9項目について5段階で評定を求めた。
過剰適応尺度:桑山(2003)によるものを使用し,全22項目について5段階で評定を求めた。
友人関係への動機づけ尺度:岡田(2005)を使用し,全16項目について5段階にて評定を求めた。
調査協力者:H県内の大学生254名(男性:143名,女性:111名),平均年齢は18.6歳(SD=0.73歳)。
結果
まず,因子分析(最尤法-Promax回転)の結果,過剰適応尺度にて「流動的な態度」,「他者への遠慮」の2因子を抽出した。また,友人への動機づけ尺度で,「内発的動機づけ」,「取り入れ」,「外的動機づけ」の3因子を抽出した。そして,流動的な態度および他者への遠慮を従属変数とし,Step1に賞賛獲得欲求(A),拒否回避欲求(B),内発的動機づけor 外的動機づけのいずれか(C)の主効果項,Step2にA×B,A×C,B×Cの1次の交互作用項,Step3にA×B×Cの2次の交互作用項を投入した。その結果,流動的な態度で2次の交互作用項が有意であった(Fig.1)。

考察
拒否回避の影響力は強く,他者からの否定的評価を恐れることが,適応のバランスを崩す要素になることが示唆された。また,賞賛獲得が強く,拒否回避が弱くても,他人任せに友人関係を形成しようと考えるのであれば,過剰適応は促進されることが示された。