[PD060] 発達障害のある子どもの小学校通常学級での「すごしやすさ」に担任教師・クラス雰囲気が及ぼす影響
保護者への質問紙とインタビューから
Keywords:発達障害, 小学校, すごしやすさ
問題と目的
小学校の通常学級に在籍する発達障害のある子どもは,クラスという集団の中でさまざまな困難を感じることが多い。
岩永ら(1999)や渡部ら(2008)の研究から,発達障害のある子どものすごしやすさには,教師の対応や学級雰囲気といった周りの環境の調整が重要であると考えられる。また,学級雰囲気や教師の影響を質問紙で捉えようとする研究が,伊藤ら(2001)により行われている。
そこで,本研究では,発達障害のある子どもの小学校通常学級での「すごしやすさ」について,担任教師・学級雰囲気という二つの要因により調査を行ない,発達障害のある子どもがすごしやすい学校生活を送るための支援に役立てることを目的とした。
方 法
<研究1>調査協力者:小学校の通常学級に在籍中もしくは卒業した発達障害の診断のある子どもの保護者67名。手続き:本研究で作成された質問紙を親の会を通じて保護者に送付し郵送で回収。質問紙は,保護者からみた「子どもの通常学級でのすごしやすさ」15項目,「担任教師の対応」14項目,「クラス雰囲気」14項目,の3尺度で構成。小学校の通常学級で一番過ごしやすかったと感じたクラスについてリカート法(6件法)で評定。
<研究2>手続き:研究1の協力者の内4名に対し,学級での実際の子どもの様子,担任教師の対応,クラスの雰囲気などについて半構造化面接を行なった。
結 果
研究1では,分散分析により,「すごしやすさ」は「担任教師の関わり」とのみ有意であった。(F(1,56)=4.393,p<.05)。因子分析から,「すごしやすさ」尺度は「集団充実感」「自己肯定感」「安心感」の3因子,「担任教師」尺度は,「基本的対応」「特別支援的対応」「発達障害支援的対応」の3因子,「クラス雰囲気」尺度は,「協同」「規律」「同調」の3因子がそれぞれ得られた。Table 1に,各尺度から得られた因子と質問文例を記す。回帰分析により,担任教師の「基本的対応」(標準偏回帰係数=.618,p<.01)とクラス雰囲気の「協同」(標準偏回帰係数=.498,p<.01)が,「すごしやすさ」に影響を及ぼしていることが認められた。
研究2では,研究1で認められた結果が,保護者の面接からも支持された。また,教師が子どもを集団ではなく個として理解しようとする姿勢、保護者と教師の相互の信頼関係,通級指導教室の重要性などが子どものすごしやすさに関わっていた。
考 察
担任教師による基本的な対応はクラス運営の基盤となるものであり,クラスの全児童に影響がある。担任教師の適切な基本的対応により,子どもが先生から集団ではなく個で接してもらえるなどといったことから、「協同」といったクラスの風通しの良さにつながると思われる。そして,それがより望ましいクラス雰囲気につながり,発達障害のある子どもにも周囲の子ども達にも「すごしやすい」環境になると考えられる。また、基本的対応を大切にする姿勢は教師が発達障害の知識を生かすための土台となる,と思われる。また逆に,発達障害の知識から,基本的対応に必要な視点や大きな手がかりを得ることも可能であるとも考えられる。子どもを個としてとらえる手がかりとして,その子どもの発達段階を実年齢ではなく,今がどの発達段階なのかを教師が見て,それに合わせて工夫や指導を行なっていくことが有効な方略となる可能性もある。また,保護者と子ども・担任教師との相互の信頼関係を深めるためにも,通級指導教室の教師など発達障害の専門知識を有する者が,保護者と子ども・担任教師との間で仲立ちや通訳を行なう重要性も示唆された。
発達障害のある子どもへの理解を深めていくことは,帰国子女,外国人など異文化を内面に抱えている子どもへの支援としても役立つであろう。
今後の支援には,保護者や教師など個人的な対応に頼るだけではなく,組織やシステムにより長期の支援をすすめていくことが、より重要になっていくと考えられる。
引用文献
岩永 竜一郎他(1999)発達障害児の小学校普通学級適応状況の考察 小児保健研究58(3),
伊藤 亜矢子・松井 仁(2001)学級風土質問紙の作成 教育心理学研究,49.
渡部 美緒・藤野 博.(2007)軽度発達障害児の学級への適応 東京学芸大学紀要 58
謝 辞
本研究で調査にご協力をしてくださった保護者の皆様に,心より御礼を申し上げます。また、ご指導をしてくださった同志社女子大学の中川美保子先生に.深く感謝をいたします。
小学校の通常学級に在籍する発達障害のある子どもは,クラスという集団の中でさまざまな困難を感じることが多い。
岩永ら(1999)や渡部ら(2008)の研究から,発達障害のある子どものすごしやすさには,教師の対応や学級雰囲気といった周りの環境の調整が重要であると考えられる。また,学級雰囲気や教師の影響を質問紙で捉えようとする研究が,伊藤ら(2001)により行われている。
そこで,本研究では,発達障害のある子どもの小学校通常学級での「すごしやすさ」について,担任教師・学級雰囲気という二つの要因により調査を行ない,発達障害のある子どもがすごしやすい学校生活を送るための支援に役立てることを目的とした。
方 法
<研究1>調査協力者:小学校の通常学級に在籍中もしくは卒業した発達障害の診断のある子どもの保護者67名。手続き:本研究で作成された質問紙を親の会を通じて保護者に送付し郵送で回収。質問紙は,保護者からみた「子どもの通常学級でのすごしやすさ」15項目,「担任教師の対応」14項目,「クラス雰囲気」14項目,の3尺度で構成。小学校の通常学級で一番過ごしやすかったと感じたクラスについてリカート法(6件法)で評定。
<研究2>手続き:研究1の協力者の内4名に対し,学級での実際の子どもの様子,担任教師の対応,クラスの雰囲気などについて半構造化面接を行なった。
結 果
研究1では,分散分析により,「すごしやすさ」は「担任教師の関わり」とのみ有意であった。(F(1,56)=4.393,p<.05)。因子分析から,「すごしやすさ」尺度は「集団充実感」「自己肯定感」「安心感」の3因子,「担任教師」尺度は,「基本的対応」「特別支援的対応」「発達障害支援的対応」の3因子,「クラス雰囲気」尺度は,「協同」「規律」「同調」の3因子がそれぞれ得られた。Table 1に,各尺度から得られた因子と質問文例を記す。回帰分析により,担任教師の「基本的対応」(標準偏回帰係数=.618,p<.01)とクラス雰囲気の「協同」(標準偏回帰係数=.498,p<.01)が,「すごしやすさ」に影響を及ぼしていることが認められた。
研究2では,研究1で認められた結果が,保護者の面接からも支持された。また,教師が子どもを集団ではなく個として理解しようとする姿勢、保護者と教師の相互の信頼関係,通級指導教室の重要性などが子どものすごしやすさに関わっていた。
考 察
担任教師による基本的な対応はクラス運営の基盤となるものであり,クラスの全児童に影響がある。担任教師の適切な基本的対応により,子どもが先生から集団ではなく個で接してもらえるなどといったことから、「協同」といったクラスの風通しの良さにつながると思われる。そして,それがより望ましいクラス雰囲気につながり,発達障害のある子どもにも周囲の子ども達にも「すごしやすい」環境になると考えられる。また、基本的対応を大切にする姿勢は教師が発達障害の知識を生かすための土台となる,と思われる。また逆に,発達障害の知識から,基本的対応に必要な視点や大きな手がかりを得ることも可能であるとも考えられる。子どもを個としてとらえる手がかりとして,その子どもの発達段階を実年齢ではなく,今がどの発達段階なのかを教師が見て,それに合わせて工夫や指導を行なっていくことが有効な方略となる可能性もある。また,保護者と子ども・担任教師との相互の信頼関係を深めるためにも,通級指導教室の教師など発達障害の専門知識を有する者が,保護者と子ども・担任教師との間で仲立ちや通訳を行なう重要性も示唆された。
発達障害のある子どもへの理解を深めていくことは,帰国子女,外国人など異文化を内面に抱えている子どもへの支援としても役立つであろう。
今後の支援には,保護者や教師など個人的な対応に頼るだけではなく,組織やシステムにより長期の支援をすすめていくことが、より重要になっていくと考えられる。
引用文献
岩永 竜一郎他(1999)発達障害児の小学校普通学級適応状況の考察 小児保健研究58(3),
伊藤 亜矢子・松井 仁(2001)学級風土質問紙の作成 教育心理学研究,49.
渡部 美緒・藤野 博.(2007)軽度発達障害児の学級への適応 東京学芸大学紀要 58
謝 辞
本研究で調査にご協力をしてくださった保護者の皆様に,心より御礼を申し上げます。また、ご指導をしてくださった同志社女子大学の中川美保子先生に.深く感謝をいたします。