日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF003] 「良い参考書」という評判は学習者にどのような影響を及ぼすか

宮崎拓弥 (北海道教育大学)

キーワード:学習教材, 事前情報, 期待

教師期待効果に代表されるように,事前情報によって,学習者に対する評価や学習者の課題遂行が事前情報に沿った方向に影響を受けることが知られている。こうした研究では,教授者側に生じる学習者に対する評価という対人認知に関わる事前情報の影響が論じられることが多い。本研究では,学習者側に生じる学習教材に対する評価に関わる事前情報の影響に焦点を当て,同時にメタ認知能力の関与についても検討する。
方 法
実験参加者 北海道教育大学の学生74名(男性31名,女性43名)が実験に参加した。
材料 調理師免許取得に関する参考書を一部抜粋した教材が使用された。また,吉野ら(2008)によるメタ認知能力質問紙が用いられた。
手続き 実験参加者にはイラスト有と無のいずれか1つの教材が配布された。その際に,ポジティブ・ネガティブ群には事前情報として各群に対応した教材についての評価が伝えられ,統制群には評価は伝えられなかった。配布された教材での20分間の学習後,<教材評価>,<教材内容への興味・関心>について5件法により評定し,その後の8分間で教材内容に関する問題に解答することが求められた。最後に,メタ認知能力質問紙への回答が求められた。
結 果
教材の種類(イラスト有・無)と教材評価情報の種類(ポジティブ・ネガティブ・統制)が以下の測度に対して及ぼす影響を検討するために,これら2要因を実験参加者間要因とし,各測度を従属変数とする分散分析を実施した。
<テスト成績> いずれの要因の主効果及び,交互作用ともに有意ではなかった。
<教材評価> 教材の種類の主効果が有意であり(F(1, 68) = 20.39, p<.01),イラスト有教材を用いた群の方が教材に対する評価が高かった。また,教材評価情報の種類の主効果が有意であり(F(2, 68) = 16.27, p<.01),HSD法による多重比較の結果,ポジティブ群と統制群よりもネガティブ群の方が教材に対する評価が低かった。
<教材内容への興味・関心> 教材評価情報の種類の主効果が有意であり(F(2, 68) = 3.53, p<.05),HSD法による多重比較の結果,ネガティブ群よりもポジティブ群の方が興味・関心が高かった。
また,メタ認知能力(高・低)と教材評価情報の種類(ポジティブ・ネガティブ・統制)がテスト成績,教材評価,教材への興味・関心に及ぼす影響を検討するために,各測度について実験参加者間2要因分散分析を実施した。
<テスト成績> すべての主効果及び,交互作用が有意ではなかった。
<教材評価> メタ認知能力の主効果及び,交互作用は有意ではなかった。
<教材内容への興味・関心> メタ認知能力の主効果が有意であり(F(1, 64) = 4.88, p<.05),高群の方が興味・関心が高かった。
考 察
教材にイラストが含まれるか否かに関わらず,また,教材の評価についての事前情報がポジティブなものであるかネガティブなものであるかに関わらず,テスト成績に違いは見られなかった。その一方で,教材に対する評価と内容への興味・関心は事前に与えられた教材の評価にしたがって異なる値が示された。これらから,教材の評価について事前に情報が与えられると,主観的判断は影響を受けるが,課題遂行は影響を受けないことが示された。また,今回のような状況では,メタ認知能力の影響は限定的であることが示唆された。
本研究は科学研究費補助金基盤研究(C)24530806の助成を受けた。また,本研究のデータ収集及び分析にあたり高橋陽呂氏(北海道教育大学教育学部平成25年度卒業生)の協力を得た。