[PF033] 書かれた論争の理解
大学生に見られる複数テキスト読解の問題
キーワード:書かれた論争, 複数テキスト, 読解
問題と目的
書かれた論争(論争的な関係にある複数の書かれたテキスト)から学習したりその論争に参加したりする際に,大学生は論争的関係を自発的に理解しようとしないことが先行研究で示唆されている(Kobayashi, 2009; 小林, 2012)。具体的には,テキスト間関係の理解を促す読解目標を与えた方が,テキストを踏まえて自分の意見を生成するよう促す読解目標を与えた場合よりも,間テキスト的メモ(テキスト間の関係を記したメモ)の産出やテキスト間関係の理解で優ることが示されてきた。しかし,こうした知見からは,(a)大学生は読解目標のような形で促されないとテキスト間関係を理解しようとしない可能性と,(b)意見生成目標が彼らの理解を妨げている可能性の2つを区別できない。また,上記の研究からテキスト間関係の理解を促すことが間テキスト的メモの産出とテキスト間関係の理解を促すことは示されているが,両者の関係は明らかになっていない。本研究ではこの2つの問題を検討した。
方法
実験参加者 大学生102名。それぞれ意見生成目標条件,論争分析目標(テキスト間の論争を分析する)条件,論争分析+意見生成目標条件に割り振られた。
テキスト材料 非配偶者間人工授精によって生まれた子どもの出自を知る権利を保障するために,精子提供者の情報開示を認めるべきかどうか(争点1)を巡って対立する2つのテキストを作成し用いた。テキスト間に明示的な引用関係はないが,精子提供者の情報開示が本人やその家族に悪影響を及ぼすという問題(争点2)で反対テキストの議論が賛成テキストの議論に反論する構図を,精子提供者の減少につながるという問題(争点3)で賛成テキストの議論が反対テキストの議論に反論する構図を,読み取ることができる。
手続き 実験は集団で実施した。条件ごとの教示を与えて2つのテキストを読んでもらった後,論争的関係の理解を調べるテストを実施した。
結果と考察
読解中にとったメモの内容 各実験参加者のメモに個人的考えを記した内容(個人的考えのメモ)と,間テキスト的メモが含まれているか調べたところ,Table 1に示すとおり,個人的考えのメモをとった人数は,意見生成目標条件,論争分析+意見生成目標条件,論争分析目標条件の順に多かった(χ2[2] = 5.23, p < .08)。一方,間テキスト的メモは,論争分析目標条件と論争分析+意見生成目標条件が意見生成目標条件よりも多かった(χ2[2] = 7.22, p < .05)。なお,論争分析+意見生成目標条件において,個人的考えのメモと間テキスト的メモの間に有意な関連は見られなかった。以上の結果は,意見生成目標がテキスト間関係の自発的な理解を妨げる可能性よりもむしろ,読解目標という形で促されないと大学生は自らテキスト間関係を理解しようとしない可能性を支持する。
論争的関係の理解 論争的関係の理解は次の3つの観点から分析した。(1)争点1を巡る各テキストの基本的立場の理解:実験参加者の大多数(95名)がテキストの基本的立場を理解していた。(2)「議論A-争点-議論B」関係の理解:実験参加者に,各争点を巡り2つのテキストがどのような議論を戦わせていたか記述してもらった文章の中で,問題に直接関連する各テキストの議論に正しく言及していたか調べたところ,条件間の差は有意でなかった。しかし,間テキスト的メモをとった者の方がとらなかった者よりも理解成績は高かった(Table 2参照)。(3)テキスト間の修辞的関係の理解:上の文章に各争点を巡るテキスト間の修辞的関係(論駁-被論駁の関係)が正しく記述されていたかどうかについて,条件間および間テキスト的メモ産出の有無による有意な差は見られなかった。
書かれた論争(論争的な関係にある複数の書かれたテキスト)から学習したりその論争に参加したりする際に,大学生は論争的関係を自発的に理解しようとしないことが先行研究で示唆されている(Kobayashi, 2009; 小林, 2012)。具体的には,テキスト間関係の理解を促す読解目標を与えた方が,テキストを踏まえて自分の意見を生成するよう促す読解目標を与えた場合よりも,間テキスト的メモ(テキスト間の関係を記したメモ)の産出やテキスト間関係の理解で優ることが示されてきた。しかし,こうした知見からは,(a)大学生は読解目標のような形で促されないとテキスト間関係を理解しようとしない可能性と,(b)意見生成目標が彼らの理解を妨げている可能性の2つを区別できない。また,上記の研究からテキスト間関係の理解を促すことが間テキスト的メモの産出とテキスト間関係の理解を促すことは示されているが,両者の関係は明らかになっていない。本研究ではこの2つの問題を検討した。
方法
実験参加者 大学生102名。それぞれ意見生成目標条件,論争分析目標(テキスト間の論争を分析する)条件,論争分析+意見生成目標条件に割り振られた。
テキスト材料 非配偶者間人工授精によって生まれた子どもの出自を知る権利を保障するために,精子提供者の情報開示を認めるべきかどうか(争点1)を巡って対立する2つのテキストを作成し用いた。テキスト間に明示的な引用関係はないが,精子提供者の情報開示が本人やその家族に悪影響を及ぼすという問題(争点2)で反対テキストの議論が賛成テキストの議論に反論する構図を,精子提供者の減少につながるという問題(争点3)で賛成テキストの議論が反対テキストの議論に反論する構図を,読み取ることができる。
手続き 実験は集団で実施した。条件ごとの教示を与えて2つのテキストを読んでもらった後,論争的関係の理解を調べるテストを実施した。
結果と考察
読解中にとったメモの内容 各実験参加者のメモに個人的考えを記した内容(個人的考えのメモ)と,間テキスト的メモが含まれているか調べたところ,Table 1に示すとおり,個人的考えのメモをとった人数は,意見生成目標条件,論争分析+意見生成目標条件,論争分析目標条件の順に多かった(χ2[2] = 5.23, p < .08)。一方,間テキスト的メモは,論争分析目標条件と論争分析+意見生成目標条件が意見生成目標条件よりも多かった(χ2[2] = 7.22, p < .05)。なお,論争分析+意見生成目標条件において,個人的考えのメモと間テキスト的メモの間に有意な関連は見られなかった。以上の結果は,意見生成目標がテキスト間関係の自発的な理解を妨げる可能性よりもむしろ,読解目標という形で促されないと大学生は自らテキスト間関係を理解しようとしない可能性を支持する。
論争的関係の理解 論争的関係の理解は次の3つの観点から分析した。(1)争点1を巡る各テキストの基本的立場の理解:実験参加者の大多数(95名)がテキストの基本的立場を理解していた。(2)「議論A-争点-議論B」関係の理解:実験参加者に,各争点を巡り2つのテキストがどのような議論を戦わせていたか記述してもらった文章の中で,問題に直接関連する各テキストの議論に正しく言及していたか調べたところ,条件間の差は有意でなかった。しかし,間テキスト的メモをとった者の方がとらなかった者よりも理解成績は高かった(Table 2参照)。(3)テキスト間の修辞的関係の理解:上の文章に各争点を巡るテキスト間の修辞的関係(論駁-被論駁の関係)が正しく記述されていたかどうかについて,条件間および間テキスト的メモ産出の有無による有意な差は見られなかった。