日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF050] 説明者による聞き手の理解の推測は正確か?

関口貴裕 (東京学芸大学)

キーワード:理解モニタリング, 状況モデル, 説明者の共感性

口頭説明を聞き手に正しく理解させるためには,説明者が聞き手の理解度を説明中に把握し,それに応じて説明の仕方を調整することが重要である。しかしながら,こうした説明者による聞き手の理解の推測がどの程度正確なものであるかは,これまでの研究では明らかとなっていない。そこで本研究では,説明者による聞き手の理解の推測の正確さを調べることを第1の目的とした。
実験では,説明者役の参加者に口頭説明を行わせた後,聞き手役の参加者に内容に関する理解度テストに答えさせた。そして,そのテストの各問題に聞き手役が正答するか否かを説明者役に推測させ,その回答と聞き手役のテスト結果との一致度を理解推測の正確さを表す指標として扱った。
また,本研究では第2の目的として,説明者による聞き手の理解推測の正確さに影響する要因を検討した。1つ目の検討要因は聞き手の理解の水準(Kintsch, 1994)であり,理解度テストの問題にテキストベース水準での理解を問う問題と状況モデル水準での理解を問う問題の2種類を設けた。もう1つの要因は説明者の共感性(視点取得:相手の立場で考える傾向,被影響性:他者からの影響の受けやすさ)であり,それぞれの水準での理解の推測について,共感性が高い説明者と低い説明者とで,その正確さに違いがあるかを検討した。
【方 法】
実験参加者 説明者役56名,聞き手役56名
要因計画 聞き手の理解水準(テキストベース水準/状況モデル水準,参加者内要因)×説明者の共感性(高群/低群,参加者間要因)
刺激 説明の題材:宣言的知識に関する800文字程度の説明文(例:ギリシャ危機について)4題。
理解度テスト:それぞれの説明文について,テキストベース水準の理解を問う問題(説明にあった語句の再生問題)3問と状況モデル水準での理解を問う問題(内容からの推論問題)3問を作成。
説明者の共感性の測定:多次元共感性尺度(鈴木・木野,2008)から視点取得5項目および被影響性5項目を用いて質問紙を作成。
手続き 実験に先立ち,説明者役の参加者に共感性質問紙に回答させた。その後,説明者役の参加者に,説明文を読み上げる形で口頭説明を行わせ,聞き手役の参加者には,それを聞いて理解するよう求めた。そして1つの口頭説明が終わるごとに,聞き手役の参加者に理解度テストを行い,同時に,説明者役の参加者には理解度テストの各問題に聞き手役が正答するか否かを推測させた。この手続きを4つの説明文について繰り返した。
【結 果】
説明者による聞き手の理解推測の正確さ得点の平均値(12点満点)は,テキストベース水準の問題で7.61(95%CI 7.20?8.02),状況モデル水準の問題で7.46(95%CI 7.12?7.80)であり,どちらの得点もチャンスレベルの得点(6.0点)よりも高かった。また,理解推測の正確さ得点の平均値について共感性×理解水準の分散分析を行ったところ(下図参照),理解水準と説明者の共感性の交互作用が有意であった(F(1,54) = 4.48, p = .04)。下位検定の結果,状況モデル水準の問題においてのみ共感性の単純主効果が有意であり(F(1,54) = 11.75, p = .001),共感性高群の方が低群に比べ理解推測の正確さ得点が低くなっていた。
【考 察】
説明者による聞き手の理解推測は,偶然の一致以上に正確であった。しかし,その得点は十分に高いものではなく,説明者による聞き手の理解推測はそれほど正確なものではないと評価できる。
また,状況モデル水準での理解を推測した場合,共感性の高い説明者の方が低い説明者に比べ理解推測が不正確であった。状況モデル水準での理解の推測には,聞き手の関連知識の程度など説明者の知り得ない情報が重要であり,本来,理解度を正しく推測するのは難しい。これを踏まえ本研究では,共感性の高い説明者は,聞き手の様子などに過度に注目することで,聞き手の理解の程度を誤って推測してしまうのではないかと考察した。