日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF053] 挿絵を含む教材の読解初期の動機づけ向上プロセス

視線計測による検討

島田英昭 (信州大学)

キーワード:文章理解, マニュアル, 視線計測

問題と目的
島田・北島(2008)は、防災マニュアルを題材として、教材読解初期の2秒間の短時間に、教材に含まれる挿絵により、よく読んでみたいという動機づけが向上することを実験的に明らかにしている。この効果についてShimada (2012)のデータを再分析すると、マニュアルの閲覧時間を1.5秒と3秒の2条件で操作して比較したところ、動機づけ(「よく読んでみたいと思いましたか?」)については違いがなかったが、主観的わかりやすさ(「分かりやすそうだと思いましたか?」)については3秒条件の方が高かった。この動機づけ効果と主観的わかりやすさの非対称性が生じるメカニズムを明らかにすることが本研究の目的である。
主観的わかりやすさは、動機づけよりも挿絵や写真などの図の影響を受けにくいという結果が得られており(Shimada, 2009)、相対的に文章の影響が大きいと考えられる。したがって、時間の経過に従って挿絵から文章に閲覧対象が移り、文章処理が増加することによりわかりやすさに関する期待が高まり、主観的わかりやすさが高まると考えられる。
そこで本研究は、この仮説を検討するために視線計測を用いて、読解初期の閲覧時間が長くなるに従って文章を注視する時間が長くなるかどうかを検証した。同時に、上記の現象がShimada (2012)よりも長い時間スパンで生じることを検証した。
方法
材料 28種類の挿絵入りの防災マニュアルのページを準備した。
手続き 閲覧時間の操作として、3秒条件と10秒条件を設定した。マニュアルの1ページを上記時間で閲覧した直後に、動機づけと主観的わかりやすさについての評定を5段階で求めた。これを28回繰り返した。その間、視線を計測した。視線計測はDitect QG-PLUSを用いた。
実験参加者 大学生14名(男性3名、女性11名、19歳~21歳)の協力を得た。相性により明らかに視線計測ができなかった2名を除き、12名のデータを分析対象とした。
結果と考察
3秒条件と10秒条件のそれぞれについて、文章と挿絵に注視した回数をカウントし、挿絵注視率を算出した。その結果、3秒条件では平均26.1%、10秒条件では平均17.7%であった。t検定の結果有意であり(t=3.69)、効果量はd=1.68と十分な値が得られた。したがって、読解初期の閲覧時間が長くなるに従って文章を注視する率が高くなることが明らかになった。
また、動機づけ効果と主観的わかりやすさの非対称性について、主観的わかりやすさの3秒条件と10秒条件の評定平均値がそれぞれ3.71, 4.13であり、有意な差がみられた(t=4.62, d=1.39)。一方で、動機づけ効果は有意ではなかった(t=1.16, d=0.35)。したがって、10秒までの長いスパンでもこの現象が再現された。
引用文献
島田英昭・北島宗雄 (2008). 挿絵がマニュアルの理解を促進する認知プロセス―動機づけ効果と精緻化効果― 教育心理学研究, 56, 474-486.
Shimada, H. (2009). Motivation effect of instructional manuals. Proceedings of CogSci 2009; Annual meeting of the Cognitive Science Society, 985.
Shimada, H. (2012). Reassessing the motivation effect of illustrations in text comprehension. Proceedings of CogSci 2012; Annual meeting of the Cognitive Science Society.

本研究はJSPS科研費23730609の助成を受けた。