日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF058] 他者との相互作用を通した質問態度の向上(4)

道田泰司 (琉球大学)

キーワード:批判的思考, 学習者間インタラクション, 質問生成

本研究の目的は,質問力向上を目指した授業実践(教心研,2011)で,どのような学習者間インタラクションが行われ,学生の質問力向上に関係しているのかについて検討することである。道田(2014日心)同様,事前-事後テストで質問力が大きく向上していた学生に焦点を当てて学習者間インタラクションのあり方を検討した。

方 法

授業と受講生 2013年度前期の教職専門科目「教育心理学」でデータを収集した。受講生は教育学部の2・4年次93名であった。1回目(事前)と14回目(事後)に,質問に対する態度調査(6項目)と質問力調査(千字程度の文章に対する質問作成)を行った。
データ収集 毎時間行われた質問生成のための小グループ討議を,全19グループ中6グループ(計30名)について録音した。また前期終了前に,録音対象グループメンバーの一部を対象に,質問態度や質問生成数が事前-事後で変化したものの理由を,インタビューを通して聞き取った。

結 果

質問生成数(1個→9個)ならびに質問に対する態度(18点→23点)に比較的大きな変化がみられたCyのグループに焦点をあてることとした。
事後のインタビューでCyは,疑問が出しやすくなったことについて,次のように語っていた。
?先生がプリントに載せるベスト質問を見て,こういう質問いいなあとか,こんな考え方で考えればいいんだと考えた。
?わからないときは自分で調べればいいやと小中高では思っていた。この授業で,わからないことをまず挙げないと質問が出ない。そのときに自分がわからないところが相手にはわかっていて,それを聞くと考えが深まると思った。
?自分も疑問に思っていたことを他のグループが挙げており,返ってきた答えが納得のいくものなら,理解が深まった
?グループで発表前の準備のときに,みんなでわからないことを出し合って答えあってどんどん深まっていったので,楽しいなと思った
このようにCyは授業中の小グループでの質問作成以外についても多く語っていた。ではグループでの話し合いはどのような感じだったのであろうか。
毎回の話し合いの概要は,第一回の話し合いでYrの発言が多く,Cyは他者の意見を踏まえて自分の考えを表明していた。第二回は,Cyの問題提起からAyが出した例で話が進み,Yrの具体例から質問作成となった。第三回はCyは欠席であった。第四回は質問が作りづらそうであったが,Cyが口火を切って話が始まり,後半CyとYiが意見を出し,質問となった。第五回は疑問点が一致したAy,Yr,Yi,Cyが多く発言をしていた。第六回はCyが最も発言数が多く,話し合いを引っ張っていた。第七回はCy, Yi, Ayが他の授業で学習したことと関連付けて質問が作成された。第八回は中盤に出されたYkの質問に決まりかけたがうまく形にできず,最終的にはCyの提案した質問になった。
以上からは,第三回までは他人の意見に乗っかる形で発言していたCyが,第五回以降多く発言を行い,話し合いを引っ張り,最終決定に貢献している様子が伺える。
話し合いの詳細を見ると,初回は,他人が出した疑問にCyが具体例をだし,それが次の発言者(Yr)に肯定されている。さらにはCyがその疑問に対して自分なりの考えを出し,その考えにYが興味を示している。さらにその考えをCyが補足したところ,Yrがその考えに乗っかって発言をしている。
Cyが中心となる第四回の前の回である第二回は,Cyが最初に疑問を出し,それがYrによって承認されている。その後,Cyの発言はほとんどないが,Ayがそれに新たな視点を加えて疑問を膨らませ,両者を組み合わせるような形で質問となっている。

総合考察

本研究と同様の分析を行った道田(2014日心)では,他者の不理解表明,自分の疑問への回答や同意が有用である可能性が示唆されたが,本研究対象者も,自分の考えに対する肯定や同意,あるいはそれが他者によって発展されることが,質問に対する過剰な構えを取り去り,素直に疑問を出せることにつながっているのではないかと推察できそうである。