[PG019] 中学校教師が抱く信頼感と生徒への指導行動との関連
Keywords:教師の信頼感, 生徒への指導行動
【問題と目的】
中学校における生徒指導上の問題は複雑・多様化している。このようななか,平成24年8月に中教審から,これからの教員に求められる資質能力として,社会からの尊敬・信頼を受ける教員が必要であると答申された。また,生徒指導提要(2010)においても,生徒理解を深め生徒指導の充実を図るために,教師と生徒の信頼関係形成の重要性が記されている。しかし,教師に必要とされる「信頼」について具体的な概念は示されず,対応策についても各学校に任されているのが現状である。これまでの教師―生徒関係における「信頼」研究を概観すると,生徒の教師に対する信頼性について検討したものが多い。本研究では,個々の教師がパーソナリティの一部としてもつ「信頼感」に着目し,教師が抱く「信頼感」と生徒への指導行動に,どのような関連があるのかを検討し,教師と生徒の信頼関係形成の新たな側面を見出すことを目的とした。
【方法】
[調査対象者]A県内の公立中学校に勤務する一般教諭・養護教諭382名(一般教諭349名,養護教諭33名)を対象とした。平均年齢は42.80(SD=10.60)歳であった。[調査内容]①信頼感尺度(成人版):天貝(1997)の18項目,4件法を用いた。②生徒への指導行動尺度:弓削(2008)が作成した小学校教師の指導行動尺度について,中学校に勤務しているまたは勤務経験がある現職教員10名に予備調査を行い,中学校教師に実施できるよう新たに質問項目を作成しなおした。36項目,5件法であった。[調査時期と手続き]2013年1月~2月に,教育委員会を通して各中学校に配布し回収した。
【結果と考察】
信頼感尺度
先行研究(天貝, 1997)に基づいて「自分への信頼」「他人への信頼」「不信」の3因子に分類した。各因子の内的整合性は,α=.75~.76であった。
生徒への指導行動尺度
主因子法・バリマックス回転により因子分析を行った。その結果,因子負荷量.40以上の基準でどの因子にも負荷しない11項目を除外し,再度,主因子法・バリマックス回転による因子分析を行った。固有値1以上の基準で,次の5因子が抽出された。累積寄与率は41.27%であった。第1因子は,子どもの気持ちに寄り添いかかわるという項目で「共感し理解する指導」と命名した。第2因子は,教師が直接指導するのではなく子どもたち自身に考えさせ任せるという項目で「距離をおく指導」と命名した。第3因子は,学校での集団生活におけるルールやマナーを守らせるといった全体を管理し方向づける項目で「統制し主導する指導」と命名した。第4因子は,問題となっている行動について子ども自身に考えさせて気づきを待つ項目で「助言を与えずに待つ指導」と命名した。第5因子は,子どもたちの考えや意見を大切にする項目で「尊重する指導」と命名した。各因子の内的整合性はα=.68~.81であった。
小学校教師を対象とした先行研究(弓削, 2008)においては,課題達成指導と集団維持指導とが統合した指導行動の存在が示唆されていたが,今回の結果からは,「共感し理解する指導」「統制し主導する指導」「尊重する指導」など生徒への積極的な指導行動と,「距離をおく指導」「助言を与えずに待つ指導」など消極的な指導行動といった行動表出の程度を捉えることができた。
教師の抱く信頼感と生徒への指導行動の関係
信頼感尺度と生徒への指導行動尺度間でピアソンの積率相関係数を算出した。結果は,Table 1に示した。
教師が抱く信頼感のうち「自分への信頼」と「他人への信頼」は肯定的・積極的指導と,「不信」は否定的・消極的指導と,各々関連があることが示された。このことから,教師自身の「信頼感」(自他への信頼)が高まることによって,他者である生徒をも肯定的に捉えることが可能となり,積極的な指導行動を表出しやすくなると示唆される。一方,教師自身の「不信感」は,他者である生徒に対して,積極的な関わりを抑制させる働きをもつといえる。
中学校における生徒指導上の問題は複雑・多様化している。このようななか,平成24年8月に中教審から,これからの教員に求められる資質能力として,社会からの尊敬・信頼を受ける教員が必要であると答申された。また,生徒指導提要(2010)においても,生徒理解を深め生徒指導の充実を図るために,教師と生徒の信頼関係形成の重要性が記されている。しかし,教師に必要とされる「信頼」について具体的な概念は示されず,対応策についても各学校に任されているのが現状である。これまでの教師―生徒関係における「信頼」研究を概観すると,生徒の教師に対する信頼性について検討したものが多い。本研究では,個々の教師がパーソナリティの一部としてもつ「信頼感」に着目し,教師が抱く「信頼感」と生徒への指導行動に,どのような関連があるのかを検討し,教師と生徒の信頼関係形成の新たな側面を見出すことを目的とした。
【方法】
[調査対象者]A県内の公立中学校に勤務する一般教諭・養護教諭382名(一般教諭349名,養護教諭33名)を対象とした。平均年齢は42.80(SD=10.60)歳であった。[調査内容]①信頼感尺度(成人版):天貝(1997)の18項目,4件法を用いた。②生徒への指導行動尺度:弓削(2008)が作成した小学校教師の指導行動尺度について,中学校に勤務しているまたは勤務経験がある現職教員10名に予備調査を行い,中学校教師に実施できるよう新たに質問項目を作成しなおした。36項目,5件法であった。[調査時期と手続き]2013年1月~2月に,教育委員会を通して各中学校に配布し回収した。
【結果と考察】
信頼感尺度
先行研究(天貝, 1997)に基づいて「自分への信頼」「他人への信頼」「不信」の3因子に分類した。各因子の内的整合性は,α=.75~.76であった。
生徒への指導行動尺度
主因子法・バリマックス回転により因子分析を行った。その結果,因子負荷量.40以上の基準でどの因子にも負荷しない11項目を除外し,再度,主因子法・バリマックス回転による因子分析を行った。固有値1以上の基準で,次の5因子が抽出された。累積寄与率は41.27%であった。第1因子は,子どもの気持ちに寄り添いかかわるという項目で「共感し理解する指導」と命名した。第2因子は,教師が直接指導するのではなく子どもたち自身に考えさせ任せるという項目で「距離をおく指導」と命名した。第3因子は,学校での集団生活におけるルールやマナーを守らせるといった全体を管理し方向づける項目で「統制し主導する指導」と命名した。第4因子は,問題となっている行動について子ども自身に考えさせて気づきを待つ項目で「助言を与えずに待つ指導」と命名した。第5因子は,子どもたちの考えや意見を大切にする項目で「尊重する指導」と命名した。各因子の内的整合性はα=.68~.81であった。
小学校教師を対象とした先行研究(弓削, 2008)においては,課題達成指導と集団維持指導とが統合した指導行動の存在が示唆されていたが,今回の結果からは,「共感し理解する指導」「統制し主導する指導」「尊重する指導」など生徒への積極的な指導行動と,「距離をおく指導」「助言を与えずに待つ指導」など消極的な指導行動といった行動表出の程度を捉えることができた。
教師の抱く信頼感と生徒への指導行動の関係
信頼感尺度と生徒への指導行動尺度間でピアソンの積率相関係数を算出した。結果は,Table 1に示した。
教師が抱く信頼感のうち「自分への信頼」と「他人への信頼」は肯定的・積極的指導と,「不信」は否定的・消極的指導と,各々関連があることが示された。このことから,教師自身の「信頼感」(自他への信頼)が高まることによって,他者である生徒をも肯定的に捉えることが可能となり,積極的な指導行動を表出しやすくなると示唆される。一方,教師自身の「不信感」は,他者である生徒に対して,積極的な関わりを抑制させる働きをもつといえる。