日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG062] 中学校社会科における授業経験の有無が学びに与える影響

共通の学習内容による異学年間の理解度の比較

石本貞衡1, 浦達志1 (東京学芸大学附属世田谷中学校)

キーワード:中学校, 社会科, 授業

問題と目的
中学校の場合,異学年で同じ学習内容と方法で授業を行った場合,その学びに学年間の差が生じる。既習事項を活用して学習が行われるように学習を構成することが求められるからである。こうした既習事項の活用について多くの研究蓄積が見られるが,自然科学系教科と異なり,判断過程も結論も複雑になりがちな中学校社会科を対象とした研究は数が多くないのが現状である。
そこで本研究では,中学校1~3学年で共通の授業を行った場合に授業経験の有無によって学年間での学びに差が生じるかを検証することを目指した。
方法
調査対象 東京の国立大附属中学校451名(1年生149名,2年生154名,3年生148名)
調査時期 2014年4月14日(中2)及び4月21日(中1・中3),学級ごと50分で実施。
発表者が中2・3,連名発表者が中1を担当し,各授業実践を行った。授業展開及び教材は同一で実施している。
調査方法 授業開始時のアンケートと授業終末で同様の質問項目の回答を比較。内容の理解度を測るため,「世界の子ども達を取り巻く状況は,日本が役割を果たすことで改善されると思うか」を設問し,4件法(1:改善されない,2:少し改善される,3:やや改善される,4:大幅に改善される)で授業前後に回答させた。学習内容が適切に理解されれば,大きい数値に振れると予想される。その他,授業開始時のアンケートではこれまでの学習経験や情報源などに関する情報も設問し,終末の設問では自由記述で各生徒の考えも述べさせている。
授業の実際 「世界100カ国の子どもたちと一緒に教育について考える世界規模のイベント」(主催:教育協力NGOネットワーク(JNNE))で実施した。当該学習プログラムは小学校の参加もあり,学習内容が過度に難しいものではないといえる。全編プレゼンテーションスライド及びワークシートを用いて展開し,世界の子どもの現状や非識字状況の危険性を確認後,日本の教育に関するODAの実態と世界のODAの状況を資料等で把握し,そのあり方を考える展開であった。
結果と考察
授業経験数と理解度を測る設問の平均値の差を示し,男女別に授業経験数と学年で24つの群に分類し,男子を表1,女子を表2として示した。数値〈上昇〉群は19,数値〈維持〉群は3,数値〈下降〉群が2だった。〈維持〉群はどれも絶対数が少ないため,当初の予想通り授業後に数値上昇が見られた群が多かったことが読み取れる。
この結果から授業経験のみでは学習効果に明確な差を生じさせない可能性があることが示唆される。各学年では授業前後で数値上昇が認められるものの,授業経験のない生徒と授業経験数が1回以上の群の生徒の数値上昇に明確な差は見られなかったためである。ただし,学習内容の難易度や実施時期(今回の時期はそれぞれ前の学年までの学習状況に規定される部分が大きい),授業以外からも情報を得やすい,などといった特色のある今回の授業実践の場合にみられた結果であることには留意する必要がある。
最後に,最も数値上昇傾向が強いと予想された3年生の経験回数3回以上の群が男女ともに数値〈下降〉群となっており,他の群とは異なる思考過程をたどったと考えられる。そこでは,これまでの授業経験で得られた既有知識が活用された可能性もあるだろう。したがって,生徒の具体的な記述の分析を行うことで,新たな結論が抽出される可能性が示唆される。この点については今後の課題としたい。