The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG

(501)

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 501 (5階)

[PG080] 保育学生の授業規範と保育観の関連性

園田雪恵 (元白鳳女子短期大学)

Keywords:授業規範, 保育観, 保育学生

I問題と目的
近年,青年期における規範意識の低下が,危ぶまれている。2013年の福岡県教育委員会の調査によると,「青少年に関する意識及び行動調査」の逸脱行為に関する項目,飲酒,喫煙など未成年の法的規制されている項目に,悪いと思わない割合が少なくない。文部科学省によると,H25年度の大学・短大進学率は,53.2%にのぼり,多様な価値観や規範を持った入学者が増え,高等教育においても,学生の善悪の判断の基準も曖昧になっていることが推察される。特に大学生の規範が,問題になるのは,時間的,空間的拘束のある授業ではないだろうか。大学生の授業態度については,すでに 1980 年代から授業中の私語・欠席・遅刻等が問題として取り上げられており,中岡(1999)によると,携帯電話を使った「メール私語」という言葉が出現したと述べている。このような学生の行為により,授業が成立しないような事態も報告されている。その一方で,細川(2006)は,昨今の大学生は授業の出席率が良く,教員が出席を取らないと,「出席をとってほしい」と要求する学生まで現れ,少なくとも授業に出席するということに関しては意欲的な学生が増えていることを述べている。大学生の授業中の私語に着目した出口(2009)によると,私語は望ましくない行為としながらも,クラスメイトとの対人関係の構築を重視する学生は,規範意識が高くても授業と無関係な私語をするという矛盾した傾向があるとしている。これらの調査研究から,保育学生も同様に規範意識の希薄化が起こっていることが予測される。保育学生はこれから現場で子ども達と関わることになるが,幼児は周りの大人をモデリングするため,彼らの規範行動も影響を及ぼすことが推察される。また,保育学生は,学生の時から授業や実習を通して少しずつ保育観を醸成していくことになるが,その保育観は,保育学生自身が持っている規範意識と関連性があるのではないだろうか。
今回は,保育学生の規範意識の指標を授業規範とし,授業規範と保育観の関連性の検討を行う。

II方法
1.調査対象者:近畿圏内にある保育者養成校で,筆者の担当する授業の最初の20分程度の時間を用いて,質問紙による調査を行った。協力の得られた保育学生223名(1年生112名、2年生101名)の内、記入漏れのあるものや誤記入があるものを除き、213名を分析の対象とした。分析対象者の内1名を除き,幼稚園実習あるいは保育実習を経験している。
2.調査時期:保育学生 1 年生,2 年生ともに平成 26 年 1 月に行った。
3.尺度:保育学生の授業規範に関する項目については,ト 部・佐々木(1999)の作成した 「私語規範尺度」を参考に,その他の項目を加えオリジナルの尺度を作成した。大学の授業中における逸脱行為に対してどの程度よくないと考えるのか回答を求めた。保育学生の保育観に関しては,佐藤(2011)の保育観尺度を使用し,どの程度そう思うのか,いずれも7件法で回答を求めた。

III結果
保育学生の授業規範に対する考え方に関する23項目,保育観に関する38項目について,それぞれ因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行い,各4因子を抽出した。各因子に因子負荷量の高い項目の平均値を各因子の得点とした(Table1)。保育学生の授業規範のα係数は,第1因子が.923,第2因子が.883,第3因子が.841,第4因子が.812であり,保育学生の保育観の第1因子が.968,第2因子が.669,第3因子が.920,第4因子が.901であり,保育観の第2因子については,信頼性に問題が残るが,分析を進めることとした。
次に,各因子得点間におけるピアソンの相関係数を求めた(Table2)。保育学生の授業規範の各因子間「無秩序妨害」「授業無気力」「不作法」「携帯・内職」において,すべて有意な正の相関が認められた(r=.641~.814,いずれもp<.01)。また,保育学生の保育観の因子間「保育者使命感」「クラス運営観」「規律指導観」「子ども観」においても,有意な正の相関が認められた(r=.562~.792,いずれもp<.01)。各尺度間における相関は,有意に高く相互に独立していないことが示された。保育学生の授業規範と保育観については,「授業無気力」と「子ども観」(r=.210,p<.01),「携帯・内職」と「子ども観」(r=.276,p<.01),「携帯・内職」と「クラス運営観」(r=.255,p<.01)に正の相関が見られた。他にも有意差が見られたところもあるが,相関関係はあまり顕著でなく,相関係数は,小さかった。

IV考察
授業に対して真面目に取り組もうとする保育学生ほど,授業中に携帯でメールや写メを撮ることや,他の授業の内職行為をすることに対してよくないと判断している保育学生ほど,子どもは,保育者に素直に従うべきであり,向社会的な行動ができるようになることを理想としていることが示唆された。
また,授業中に携帯でメールや写メを撮ることや,他の授業の内職行為をよくないと判断している学生ほど,クラス集団の質の向上が必要であり,保育者と子どもとの毅然たる一線を保つべきであると考えていることが窺えた。

引用文献:
出口拓彦(2009)第9章「規範意識と社会的迷惑―授業中の私語―」社会的迷惑の心理学p135-p148
細川(2006)「大学生にとっての授業・指導と学習支援」秋田大学教養基礎教育年報p1-p9
中岡慎一郎(1999)「大学崩壊」早稲田出版
佐藤智恵(2011)「保育者養成校で学ぶ学生がもつ保育観に関する研究」広島大学大学院教育学研究科附属幼年教育研究施設p31-p39
ト 部 敬 康・佐々木 薫(1999)「授業中の私語に関する集団規範の調査研究」教育心理学研究47(3)p283-p292