[PG086] 養育者の情動表現と幼児のエフォートフルコントロールとの関連性について
Keywords:幼児, エフォートフルコントロール, 養育者の情動表現
研究の目的
エフォートフルコントロール(以下,EC)は情動調整と社会的適応との関連から近年注目を集めている概念である(久保,2010)。ECとは,実行注意(executive attention)の効率を表す概念で,優位な反応を抑制して,非顕在的な反応を活性化する能力(Rothbart & Bates,2006)であり,情動調整において重要な役割を果たしていると考えられる。田中(2009)は,ECを自己コントロールと呼び, 母親の情動表現スタイルは子どもの自己コントロールと関連していることを明らかにした。そこで本研究では,養育者の情動表現スタイルによって幼児のECに差が見られるかを検証することを目的とする。
方法
対象:首都圏近郊都市の幼稚園(3~5歳児クラス)の保護者
調査内容:子どものエフォートフルコントロール尺度(山形ら,2007)12項目,および養育者の情動表現(FEQ; Family Expressiveness Questionnaire, Halberstadt et al. 1995: 田中,2009)より35項目の全47項目を5件法で回答してもらった。配布1週間後に104部回収(67%),欠損値のあった10部を除いた94部について分析を行った。対象者(幼児)の平均年齢は5歳1ヶ月であった。
結果
田中(2009)の情動表現スタイルの区分にならい, 養育者の情動表現を「親和的・共感的な情動表現スタイル」(以下,親和的情動表現)と「自己中心的で不快感を与える情動表現スタイル(以下,自己中心的情動表現)」の2つに分け,それぞれの平均点で高群と低群に分けた。EC平均得点について,親和的情動表現(2)×自己中心的情動表現(2)の2要因の分散分析を行った結果,親和的情動表現の主効果が認められた(F(1,90)=6.26, p<.05)(Figure1)。また,EC平均得点と親和的情動表現との間に相関(r=.43)が見られたが,自己中心的情動表現との相関は負の値を示したが有意ではなかった。
子どものEC平均得点を従属変数として,養育者の親和的情動表現と自己中心的情動表現を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った結果,養育者の親和的情動表現とEC平均得点は,標準偏回帰係数.434で有意な関連(p<.001)が示されたが,自己中心的情動表現得点の高い養育者の子どもはEC平均得点が低いという傾向はなかった(標準偏回帰係数-.095)。
このような結果から,養育者の親和的情動表現はECを促進させることが明らかになったが,自己中心的情動表現は,田中(2009)と異なり,ECを抑制する結果とはならなかった。その理由として,本研究で用いたEC尺度と田中(2009)の尺度が異なっていたことが考えられる。本研究で用いた山形ら(2009)の尺度は「行動抑制の制御」と「集中力」の2因子からなっているが,田中(2009)はさらに「低強度の刺激への快」「知覚的敏感さ」「注意の転換」の3因子を加えた全5因子で測定していた。本研究では用いていない他の3因子と自己中心的情動表現との関連性が考えられるが,これについては更なる検討を要する。
引用文献
田中あかり2009 母親の情動表現スタイルが幼児の気質に及ぼす影響 発達心理学研究,20,362-372
エフォートフルコントロール(以下,EC)は情動調整と社会的適応との関連から近年注目を集めている概念である(久保,2010)。ECとは,実行注意(executive attention)の効率を表す概念で,優位な反応を抑制して,非顕在的な反応を活性化する能力(Rothbart & Bates,2006)であり,情動調整において重要な役割を果たしていると考えられる。田中(2009)は,ECを自己コントロールと呼び, 母親の情動表現スタイルは子どもの自己コントロールと関連していることを明らかにした。そこで本研究では,養育者の情動表現スタイルによって幼児のECに差が見られるかを検証することを目的とする。
方法
対象:首都圏近郊都市の幼稚園(3~5歳児クラス)の保護者
調査内容:子どものエフォートフルコントロール尺度(山形ら,2007)12項目,および養育者の情動表現(FEQ; Family Expressiveness Questionnaire, Halberstadt et al. 1995: 田中,2009)より35項目の全47項目を5件法で回答してもらった。配布1週間後に104部回収(67%),欠損値のあった10部を除いた94部について分析を行った。対象者(幼児)の平均年齢は5歳1ヶ月であった。
結果
田中(2009)の情動表現スタイルの区分にならい, 養育者の情動表現を「親和的・共感的な情動表現スタイル」(以下,親和的情動表現)と「自己中心的で不快感を与える情動表現スタイル(以下,自己中心的情動表現)」の2つに分け,それぞれの平均点で高群と低群に分けた。EC平均得点について,親和的情動表現(2)×自己中心的情動表現(2)の2要因の分散分析を行った結果,親和的情動表現の主効果が認められた(F(1,90)=6.26, p<.05)(Figure1)。また,EC平均得点と親和的情動表現との間に相関(r=.43)が見られたが,自己中心的情動表現との相関は負の値を示したが有意ではなかった。
子どものEC平均得点を従属変数として,養育者の親和的情動表現と自己中心的情動表現を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った結果,養育者の親和的情動表現とEC平均得点は,標準偏回帰係数.434で有意な関連(p<.001)が示されたが,自己中心的情動表現得点の高い養育者の子どもはEC平均得点が低いという傾向はなかった(標準偏回帰係数-.095)。
このような結果から,養育者の親和的情動表現はECを促進させることが明らかになったが,自己中心的情動表現は,田中(2009)と異なり,ECを抑制する結果とはならなかった。その理由として,本研究で用いたEC尺度と田中(2009)の尺度が異なっていたことが考えられる。本研究で用いた山形ら(2009)の尺度は「行動抑制の制御」と「集中力」の2因子からなっているが,田中(2009)はさらに「低強度の刺激への快」「知覚的敏感さ」「注意の転換」の3因子を加えた全5因子で測定していた。本研究では用いていない他の3因子と自己中心的情動表現との関連性が考えられるが,これについては更なる検討を要する。
引用文献
田中あかり2009 母親の情動表現スタイルが幼児の気質に及ぼす影響 発達心理学研究,20,362-372