日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(501)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PG087] 保育の質が幼児の発達に与える影響(1)

4歳から5歳の言語発達に関する縦断的検討とコーホート間比較

野口隆子1, 箕輪潤子2, 宇佐美慧3, 上田敏丈4, 秋田喜代美5, 無藤隆6, 小田豊7, 中坪史典8, 芦田宏9, 鈴木正敏10, 門田理世11, 森暢子12 (1.十文字学園女子大学, 2.川村学園女子大学, 3.筑波大学, 4.名古屋市立大学, 5.東京大学, 6.白梅学園大学, 7.聖徳大学, 8.広島大学, 9.兵庫県立大学, 10.兵庫教育大学, 11.西南学院大学, 12.香蘭女子短期大学)

キーワード:保育の質, 語彙, 縦断調査

研究の目的
本研究は,保育の質が幼児の発達に与える影響について縦断的に検討することを目的とする。野口(2013,2013),上田他(2013,2013)は全国的な追跡調査を実施し,4歳児・5歳児の2時点における言語及び科学的思考の発達と幼児が通う園の保育の質との関連を明らかにした。そこで,異なるコーホートを比較した場合において同様の関連性が見られるのかを検討する。
一連発表(1)では,まず第1に子どもの月齢によって言語発達に差異が見られるのか,第2に言語発達に園間差が見られるのかを検討する。第3に,保育の質と子どもの言語発達及び文字に対する興味関心との関連性を分析する。尚,コーホート間を比較する際には4歳児調査時点のデータを対象とする。
方法
1)調査時期及び協力者:2011年8月に予備調査を実施後,2012年1月~3月,2012年12月~2013年3月に東京・愛知・兵庫・広島・福岡の幼稚園・保育所計17園(保育園9園,幼稚園8園)において本調査を実施。対象児は第1コーホート4歳児計410人(男児215名,女児195名),5歳児計427人(男児223人,女児204人)。その内2時点の縦断調査が可能だった幼児計385人(男児202人,女児183人),第2コーホートは4歳児計455人(男児239人,女児216人)を分析の対象とする。
2)調査内容:Ⅰ.適応型言語能力検査(Adaptive Tests for Language Abilities: ATLAN, 高橋・中村,2009)の語彙得点を用いた。調査者と子ども1対1の面接調査を実施し,さらに文字を読みたいか・書きたいか,本を読むことが好きかに関する子どもの意識を聞くインタビューをおこない,回答を得点化した(言語意識)。
Ⅱ.保育の質調査:保育の質を評定するため,既存の尺度(ECERS, Harms et al., 1998; SICS, Laevers, 2005; CLASS, Pianta et al., 2008など)及び幼稚園教育要領,保育所保育指針を参考に保育観察評定(全73項目,内言語に関する項目5項目,5段階評定)と保育環境評定(全41項目,内言語に関する項目3項目,5段階評定)の項目を作成。保育観察評定は保育実践経験もしくは保育研究経験のある調査者2名が各園を訪問し特定のクラス・幼児・保育者を対象に一定時間観察し,項目に沿って評定した。保育環境評定は園環境の中から共通の観点を設けて写真を撮影し調査者2名が項目に沿って評定した。
結果と考察
階層線形モデルによる分析をおこなった。
1)4歳児調査時点では,第1コーホートと同様,第2コーホートにおいても月齢が高くなるに従って語彙得点が高くなることがわかった(第1コーホート:回帰係数=0.235, t(382)= 3.581, p =0.000/第2コーホート:回帰係数=0.343, t(450)= 6.431, p =0.000)。一方,第1コーホートの5歳児調査時点では,月齢による差異はみられなくなっている。今後第2コーホート5歳児データを含めて検討することが必要である。
2)両コーホートにおいて,園間差が語彙得点とある程度関連していた(第1コーホート:4歳児級内相関0.093, 5歳児級内相関0.088/第2コーホート:級内相関0.100)。
月齢,園によって子どもの語彙に差があることが明らかとなった。そこで次に保育の質と子どもの語彙得点,文字意識との関連性を検討した。
3)コーホート間で相違が見られた。第1コーホートでは,言語領域に関する保育観察評定の高い園(日常生活の中で子どもが絵本や物語に親しみ,文字に興味関心を持つ傾向,保育者が子どもの思いや経験を言葉にする傾向が高い園)の幼児の語彙得点は4歳児では高い(回帰係数=1.279, t(15)=2.531,p=0.023)。しかし5歳児では有意差はなかった。保育環境評定と幼児の語彙得点,文字意識とは両年齢共に関連が見られなかった。第2コーホートでは,観察評定・写真評定・言語意識ともに語彙得点との関連は見られなかった。
今後の課題
語彙は4歳児時点で月齢差があること,17園の間で園間差があることが示唆された。第1コーホート4歳時点では,観察された言語領域における保育の質の高さと語彙の高さとの関連性が見られているが,第2コーホートでは統計的な有意差はなかった。また,保育環境評定との関連もみられなかった。これらの結果をふまえ,保育の質のどの側面が幼児の発達に影響を及ぼしているのか,幼児の発達の伸びに関連する要因とは何か,縦断的データを用いてさらに総合的に分析することが課題である。

参考文献
高橋登・中村知靖 (2009) 適応型言語能力検査(ATLAN)の作成とその評価. 教育心理学研究, 57, 201-211.