The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PA

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PA015] ドローイング表現とその省察が鑑賞過程に及ぼす影響

石黒千晶1, 岡田猛2, 小澤基弘#3 (1.東京大学大学院, 2.東京大学, 3.埼玉大学)

Keywords:鑑賞, 芸術, 表現

【目 的】
表現と鑑賞は美術教育においてもっとも重要な活動であり,近年この2つの活動の関連性やそれを意識した教育活動の必要性が指摘されている(赤木・森・山口, 2006)。本研究の目的は,表現と鑑賞の関連性を検討する試みの一つとして,表現活動を重ねることが,鑑賞過程に及ぼす影響を検討することである。表現活動を重ねることは,表現活動そのものを変容させるだけではなく,他者作品鑑賞時の思考にも影響を与えるだろう。表現活動をある程度の期間続けることで,自らも表現者であることを意識するようになると,鑑賞も作品の選好だけでなく,作品を作る立場からその創作プロセスを想像したり,自分と他者の創作を比較したりするようになるだろう。本研究では,ドローイングの授業を受講し,表現を積み重ねるための教育的介入を受けた群と,授業を受講しない群の鑑賞過程の変化を検討する。
【方 法】
ドローイング授業概要 授業内容は,一週間の間に描いてきたドローイングを皆に提示しながら美術教師(小澤基弘氏)と絵の内容について対話を通して省察する対話型授業を全10回であった。受講生はドローイングを毎日描き,週一回の授業に最低限7枚のドローイングを携えて参加した。
研究参加者 大学生・大学院生32名(うちドローイング授業受講生16名, 男性14名)が実験に参加した。介入群のドローイング授業の受講生は授業前後に,統制群は授業期間と同じ約3ヶ月間隔をあけて2回の実験に参加した。いずれの研究協力者も専門的に美術表現を学んだ経験はなかった。
鑑賞課題 絵画は具象・中間・抽象の3種類を2枚ずつ(計6枚)であった。
手続き 研究協力者は実験前に思考発話法を練習し,「あなたは美術館で開かれているある画家の個展に来ています。そこで,次の絵画を鑑賞しました。絵画作品を見て思ったこと,感じたことを発話してください」と教示された。その後,パソコンのモニター上で絵画を一枚ずつ鑑賞し,鑑賞に関する質問紙に記入した。鑑賞時間は5分間であったが,それ以前に鑑賞を終了することができた。
【結 果】
介入群と統制群の鑑賞中の発話に関して,「作品の創作プロセス」と「自分と他者の創作の比較」についての発言の有無を評定し(Figure 1参照),発言の有無の授業前後の変化を従属変数とした2(群)×3(絵画の作品タイプ)の分散分析を行った。その結果,「作品の創作プロセス」については,群と絵画タイプによる交互作用が有意傾向であり(F(2,60)=2.50, p=.095),介入群における作品タイプの単純主効果が有意傾向(F(2,29)=3.15, p=.06),中間タイプの作品における群の単純主効果が有意であった(F(1,30)=5.29, p=.029)。「自分と他者の創作の比較」群と絵画タイプによる交互作用が有意傾向であり(F(2,60)=3.13, p=.066),介入群における作品タイプの単純主効果が有意傾向(F(2,29)=5.28, p=.012),中間タイプの作品における群の単純主効果が有意(F(1,60)=5.00, p=.033),また,抽象タイプの作品における群の単純主効果が有意であった(F(1,30)=4.44, p=.043)。
【考 察】
鑑賞中の発話分析から,ドローイング授業を通して表現活動を重ねることで作品の種類によっては鑑賞中に創作プロセスや自分と他者の創作の比較についての思考が促進されることが示された。特に,創作プロセスについての思考は抽象性が中程度の作品を,自分と他者の創作の比較についての思考は抽象度の高い作品を鑑賞した際に促進された。芸術作品の表現技法などによって作品の認知処理が変わる(Bullot & Reber, 2013)ことを考えると,作品の種類によって,教育的介入による鑑賞中の創作プロセスや自己と他者の創作の比較に関する思考の変化の仕方が異なる可能性が考えられる。
謝 辞
本研究は公益財団法人石橋財団の助成を受けた。