日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA029] 推敲の形態が説明文の産出に及ぼす影響

相互推敲を取り入れた検討

佐藤浩一1, 大濱望美#2 (1.群馬大学, 2.群馬大学)

キーワード:説明文, 推敲

説明文の産出において,自分の書いた草稿を自分で推敲する場合と,他者に推敲してもらう場合とでは,修正の量と質,最終的な説明文にどのような違いが生じるかを検討する。
方 法
参加者 大学生と大学院生87名が参加した。
デザイン 参加者のうち大学1年生44名を文章産出の相互推敲群(12名),コメント群(11名),被コメント群(11名),個人群(10名)の4群に振り分けた。残り43名は産出された文章を読んだ。
手続き(文章産出) 参加者は2名一組のペアで実験に参加した。6組は相互推敲群2名のペア,11組はコメント群1名と被コメント群1名のペア,5組は個人群2名のペアであった。参加者は幾何学図形を提示され,読者がそれを作図できるような説明文を書くよう指示された。以下の手順で課題に取り組んだ。
1.文章のプランニング(2分間)。
2.文章の草稿作成(20分間)。
3.パートナーの文章の推敲(10分間)。相互推敲群は互いの文章を交換し推敲した(赤文字でコメントを行間に書き込んだ)。コメント群はパートナー(被コメント群)の文章を推敲した。被コメント群はパートナー(コメント群)が文章を推敲している間,フィラー課題に取り組んだ。個人群は2人ともフィラー課題に取り組んだ。
4.清書(20分間)。相互推敲群と被コメント群は,パートナーからのコメントも参考に文章を見直し清書した。コメント群と個人群は文章を見直し清書した。
5.質問紙への回答(約5分間)。
手続き(描画) 清書された文章のうち,数学的表現(例「π」)を多用した一つを除く43編が打ち直され,文章産出とは別の参加者43名に1編ずつ渡された。参加者は文章を読み,10分以内で元の図形を描画した。
結果と考察
産出された文章 草稿の文字数,清書の文字数には,群間で有意差はなかった。また説明文のわかりやすさを高めると予想されるメタ説明(例「まず上半分です」)や補助説明(例「直角三角形が出来たと思います」)の数にも群間で有意差はなかった(表1)。
草稿から清書への修正 草稿と清書を対照して修正された箇所を,文字(誤字脱字や漢字仮名表記の訂正),表現(語句の訂正,1文を2文にわける等),構成(説明順の変更),加筆(草稿に無い新たな語句の追加)に分類した。表現(F=5.84, df=3/43, p < .01)と加筆(F=2.86, df=3/43, p < .05)において群間の差が有意で,いずれも,個人群の修正数が他の3群より多かった(表1)。
草稿へのコメントと,コメントへの対応 コメント数,修正に取り入れたコメント数と比率を表1に示す。過半数の参加者がパートナーからのコメントを全て取り入れて修正しており,相互推敲群と被コメント群の間に有意差はなかった。
描画の正確さ 説明文に基づいて正しく描画された率は,相互推敲群が33.3%,コメント群が50.0%,被コメント群が45.5%,個人群が40.0%であり,有意差はなかった(χ2 =.70, df=3)。
考察 個人群の参加者が最も多くの修正を草稿に加えていた。個人群以外の3群では他者の草稿やコメントに触れることにより,やみくもに修正するのではなく,相対的に少数の適切な修正を加えていた可能性が考えられる。また相互推敲群と被コメント群では,パートナーのコメントに対応することに時間がかかり,自分で修正することが少なくなった可能性もある。しかしこうした推敲の違いは,説明文の伝わりやすさ(描画の正確さ)にはつながらなかった。

※本研究は第二著者による平成26年度群馬大学教育学部卒業研究『推敲の形態が説明文の産出に与える影響』に基づく。質問紙の結果は日本認知心理学会第13回大会で発表予定である。