[PA034] 自己調整学習方略の使用が興味の発達に及ぼす影響の検討
キーワード:興味, 自己調整学習方略, 動機づけ
問題と目的
興味は自己調整学習を動機づける重要な源泉とみなされてきた(Pintrich & Zusho, 2002;Zimmerman & Bandura, 1994)。一方,Sansone & Thonman(2005)は自己調整方略を通して,興味を高める可能性があると指摘している。しかし,長期にわたって,自己調整方略の使用がある対象に対してより安定な選好または取り組み傾向という一般的個人興味の発達に与える影響について,詳細な検討が不足している。さらに,Sansone, Thoman, & Smith(2010)は自己調整方略の使用は目標志向的動機(goal-defined motivation),つまり,目標を達成させる動機を向上する一方,体験志向的動機(experience-defined motivation),すなわち興味を体験する動機にポジティブあるいはネガティブな影響をもたらす可能性があるという知見を提示している。そこで本研究では,異なる自己調整方略の使用が一般的個人興味の発達に影響を与える効果について検討することを目的とする。
方 法
調査時期 2014年5月(Time1),6月(Time2),10月(Time3)であった。
調査対象者 茨城県内の国立大学の1年生を対象とした。Time1が297名,Time2が312名,Time3が366名であり,全3時点の回答者数は173名(男性85名,女性88名;平均年齢18.94,SD=0.65)であった。
調査内容 一般的個人興味:大学生用学習分野への興味尺度(湯・外山,2014)を使用した。“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”“興味対象関連の知識”の3下位尺度からなる。12項目,7件法。自己調整学習方略:自己調整学習方略尺度(畑野・及川・半澤,2011),動機づけ調整方略尺度(梅本・田中,2012)をあわせて使用した。49項目,7件法。
結 果
Figure 1に示したモデルを想定し,分析を行った。その結果,Time1の一般的個人興味を統制した上で,Time2の自己調整学習方略の使用からTime3の一般的個人興味への影響(β3)を見ると,“感情的価値による興味”に対して,“柔軟な認知調整方略”(β3=.33,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.28,p<.001),“認知調整方略”(β3=.25,p<.001),“情動調整方略”(β3=.19,p<.05),“行動調整方略”(β3=.17,p<.05)からの影響が見られた。“認知的価値による興味”に対して,“柔軟な認知調整方略”(β3=.32,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.31,p<.001),“認知調整方略”(β3=.25,p<.001),“行動調整方略”(β3=.22,p<.01),“情動調整方略”(β3=.22,p<.01),“努力調整方略”(β3=.21,p<.01)からの影響が見られた。“興味対象関連の知識”において,“認知調整方略”(β3=.29,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.27,p<.01),“柔軟な認知調整方略”(β3=.23,p<.01),“達成想像動機づけ方略”(β2=.22,p<.05),“行動調整方略”(β3=.21,p<.01),“情動調整方略”(β3=.17,p<.05)からの影響が見られた。
考 察
本研究の結果から,自己調整学習方略の使用は一般的個人興味の増加を予測した。しかし,一般的個人興味尺度の全ての下位尺度において,“成績重視動機づけ方略”の効果が見られなかった。また,“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”においては,“社会的動機づけ方略”,“達成想像動機づけ方略”の効果が見られなかった。“成績重視動機づけ方略”“社会的動機づけ方略”は他律的な動機づけ学習方略と見なされる(梅田・田中,2012)。興味ベースの学習行動は,学習対象や学習過程に注目し,学習過程の中で,知的好奇心が満たされ,ポジティブ感情が生じることが考えられる。学習結果を重視する“成績重視動機づけ方略”や学習対象に集中的取り組みを妨害する可能性のある“社会的動機づけ方略”が興味の発達を促進しないことは妥当であると考えられる。“達成想像動機づけ方略”については,学習の結果に注意を逸らす点においては“成績重視動機づけ方略”と類似する。“達成想像動機づけ方略”の使用は一時的にポジティブ感情をもたらし,学習行動を促進するが,長期的には,学習対象そのものに対する“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”は蓄積されない可能性があると考えられる。
興味は自己調整学習を動機づける重要な源泉とみなされてきた(Pintrich & Zusho, 2002;Zimmerman & Bandura, 1994)。一方,Sansone & Thonman(2005)は自己調整方略を通して,興味を高める可能性があると指摘している。しかし,長期にわたって,自己調整方略の使用がある対象に対してより安定な選好または取り組み傾向という一般的個人興味の発達に与える影響について,詳細な検討が不足している。さらに,Sansone, Thoman, & Smith(2010)は自己調整方略の使用は目標志向的動機(goal-defined motivation),つまり,目標を達成させる動機を向上する一方,体験志向的動機(experience-defined motivation),すなわち興味を体験する動機にポジティブあるいはネガティブな影響をもたらす可能性があるという知見を提示している。そこで本研究では,異なる自己調整方略の使用が一般的個人興味の発達に影響を与える効果について検討することを目的とする。
方 法
調査時期 2014年5月(Time1),6月(Time2),10月(Time3)であった。
調査対象者 茨城県内の国立大学の1年生を対象とした。Time1が297名,Time2が312名,Time3が366名であり,全3時点の回答者数は173名(男性85名,女性88名;平均年齢18.94,SD=0.65)であった。
調査内容 一般的個人興味:大学生用学習分野への興味尺度(湯・外山,2014)を使用した。“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”“興味対象関連の知識”の3下位尺度からなる。12項目,7件法。自己調整学習方略:自己調整学習方略尺度(畑野・及川・半澤,2011),動機づけ調整方略尺度(梅本・田中,2012)をあわせて使用した。49項目,7件法。
結 果
Figure 1に示したモデルを想定し,分析を行った。その結果,Time1の一般的個人興味を統制した上で,Time2の自己調整学習方略の使用からTime3の一般的個人興味への影響(β3)を見ると,“感情的価値による興味”に対して,“柔軟な認知調整方略”(β3=.33,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.28,p<.001),“認知調整方略”(β3=.25,p<.001),“情動調整方略”(β3=.19,p<.05),“行動調整方略”(β3=.17,p<.05)からの影響が見られた。“認知的価値による興味”に対して,“柔軟な認知調整方略”(β3=.32,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.31,p<.001),“認知調整方略”(β3=.25,p<.001),“行動調整方略”(β3=.22,p<.01),“情動調整方略”(β3=.22,p<.01),“努力調整方略”(β3=.21,p<.01)からの影響が見られた。“興味対象関連の知識”において,“認知調整方略”(β3=.29,p<.001),“興味高揚動機づけ方略”(β3=.27,p<.01),“柔軟な認知調整方略”(β3=.23,p<.01),“達成想像動機づけ方略”(β2=.22,p<.05),“行動調整方略”(β3=.21,p<.01),“情動調整方略”(β3=.17,p<.05)からの影響が見られた。
考 察
本研究の結果から,自己調整学習方略の使用は一般的個人興味の増加を予測した。しかし,一般的個人興味尺度の全ての下位尺度において,“成績重視動機づけ方略”の効果が見られなかった。また,“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”においては,“社会的動機づけ方略”,“達成想像動機づけ方略”の効果が見られなかった。“成績重視動機づけ方略”“社会的動機づけ方略”は他律的な動機づけ学習方略と見なされる(梅田・田中,2012)。興味ベースの学習行動は,学習対象や学習過程に注目し,学習過程の中で,知的好奇心が満たされ,ポジティブ感情が生じることが考えられる。学習結果を重視する“成績重視動機づけ方略”や学習対象に集中的取り組みを妨害する可能性のある“社会的動機づけ方略”が興味の発達を促進しないことは妥当であると考えられる。“達成想像動機づけ方略”については,学習の結果に注意を逸らす点においては“成績重視動機づけ方略”と類似する。“達成想像動機づけ方略”の使用は一時的にポジティブ感情をもたらし,学習行動を促進するが,長期的には,学習対象そのものに対する“感情的価値による興味”“認知的価値による興味”は蓄積されない可能性があると考えられる。