[PA036] 非連続型テキストを含む文書の読解リテラシーについて(2)
非連続型テキストへの注意喚起信号の挿入とワーキングメモリの影響
Keywords:非連続型テキスト, ワーキングメモリ, 眼球運動
深谷ら(2000)は,歴史教科書内に示された複数の欄外情報を統合するため,学習者に欄外情報へ注意を向けさせるための信号(「右のような」等の指示)を本文中に挿入した場合の内容理解について検討し,信号を入れた場合には理解度が高くなり,本文と欄外情報との統合がされやすいという結果を得ている。しかし,信号により読み方がどのように変化しているのかは明らかになってはいない。また,非連続型テキストが本文内容を補完するような補完型テキストを読解する際には,学習者のワーキングメモリ(WM)容量の高低が非連続型テキストの参照に大きく影響することが明らかとなっている(岸・中村, 2011)。そこで,本研究は補完型の教材(社会科)を用い,読解中に関連する非連続型テキストへ注意を向けさせるための信号(注意喚起信号)が,内容理解とその読解に及ぼす影響について検討する。さらに,読解時にWM容量が及ぼす影響についても検討する。
【方 法】
実験協力者:裸眼またはソフトコンタクトレンズ使用時に視力が良好である大学生39名である。
呈示刺激:高等学校世界史教科書より本文と非連続型テキストが補完型である単元(「分割を通じて進む世界の一体化」)を選択した。この単元について,関連する非連続型テキストへの注意喚起信号を挿入した「信号あり型」と信号がない「信号なし型」の2つのタイプの教材を作成した。「信号あり型」には,テキスト本文中に青字で「左図」,「右図」等の指示が挿入されている。
WM容量測定課題:リーディングスパンテスト(RST; 苧阪, 2002),空間スパンテスト(SST; Shah & Miyake, 1996)を用い,言語性WM容量と視空間WM容量を測定した。
実験計画:呈示刺激のタイプ(信号あり型・信号なし型)×WM容量(高群・低群)の2要因で,ともに協力者間要因。
手続き:まず,協力者はWM容量測定課題を実施した。その後,CRT上で呈示刺激の読解と眼球運動の測定を行い(7分間),本文内容理解テスト課題(本文理解35点満点,図表理解15点満点)とレイアウト再現課題(6点満点)を実施した。最後に,本文内容に関する先行知識量の調査と協力者の特性に関する調査を行った。
【結果と考察】
結果の処理 WM容量測定課題の合計をWM容量とし,平均値をもとに低群(16名)高群(23名)とした。
注意喚起信号とWM容量は読み方に影響するか?
読解中の眼球運動のデータから,各シーンでの図表注視時間割合得点を算出した(1:開始5秒間,2:本文読み終わりまで,3:本文読み終わり後課題終了まで,4:課題全体)。これらを従属変数とし,注意喚起信号の有無とWM容量が読み方に与える影響について検討するため,2要因分散分析を行った。その結果,注意喚起信号がある場合,“2:本文読み終わりまで”に非連続型テキストをより長く参照していた(F (1,35)=37.391, MSe=36.390, p<.01)。WM容量にかかわらず,1回目の本文読解中は信号により「非連続型テキストに重要な情報がある」と捉え,注視時間が長くなったと考えられる。
注意喚起信号とWM容量は内容理解に影響するか?
注意喚起信号の有無とWM容量が本文内容理解へ与える影響について検討するため,本文内容理解テスト課題とレイアウト再現課題を従属変数とし,先行知識得点を共変量とした共分散分析をおこなった。その結果,本文内容理解において,WM容量低群<WM容量高群であった(F (1,34)=13.449, MSe=23.582, p<.01)。また,交互作用がみられたため(F (1,34)=4.089, MSe=23.582, p<.05) ,単純主効果の検定をおこなったところ,信号なし型においてWM容量低群<WM容量高群であった。注意喚起信号を本文に挿入することで,WM低群は理解が向上し,WM高群と同程度の理解が可能となる。
【方 法】
実験協力者:裸眼またはソフトコンタクトレンズ使用時に視力が良好である大学生39名である。
呈示刺激:高等学校世界史教科書より本文と非連続型テキストが補完型である単元(「分割を通じて進む世界の一体化」)を選択した。この単元について,関連する非連続型テキストへの注意喚起信号を挿入した「信号あり型」と信号がない「信号なし型」の2つのタイプの教材を作成した。「信号あり型」には,テキスト本文中に青字で「左図」,「右図」等の指示が挿入されている。
WM容量測定課題:リーディングスパンテスト(RST; 苧阪, 2002),空間スパンテスト(SST; Shah & Miyake, 1996)を用い,言語性WM容量と視空間WM容量を測定した。
実験計画:呈示刺激のタイプ(信号あり型・信号なし型)×WM容量(高群・低群)の2要因で,ともに協力者間要因。
手続き:まず,協力者はWM容量測定課題を実施した。その後,CRT上で呈示刺激の読解と眼球運動の測定を行い(7分間),本文内容理解テスト課題(本文理解35点満点,図表理解15点満点)とレイアウト再現課題(6点満点)を実施した。最後に,本文内容に関する先行知識量の調査と協力者の特性に関する調査を行った。
【結果と考察】
結果の処理 WM容量測定課題の合計をWM容量とし,平均値をもとに低群(16名)高群(23名)とした。
注意喚起信号とWM容量は読み方に影響するか?
読解中の眼球運動のデータから,各シーンでの図表注視時間割合得点を算出した(1:開始5秒間,2:本文読み終わりまで,3:本文読み終わり後課題終了まで,4:課題全体)。これらを従属変数とし,注意喚起信号の有無とWM容量が読み方に与える影響について検討するため,2要因分散分析を行った。その結果,注意喚起信号がある場合,“2:本文読み終わりまで”に非連続型テキストをより長く参照していた(F (1,35)=37.391, MSe=36.390, p<.01)。WM容量にかかわらず,1回目の本文読解中は信号により「非連続型テキストに重要な情報がある」と捉え,注視時間が長くなったと考えられる。
注意喚起信号とWM容量は内容理解に影響するか?
注意喚起信号の有無とWM容量が本文内容理解へ与える影響について検討するため,本文内容理解テスト課題とレイアウト再現課題を従属変数とし,先行知識得点を共変量とした共分散分析をおこなった。その結果,本文内容理解において,WM容量低群<WM容量高群であった(F (1,34)=13.449, MSe=23.582, p<.01)。また,交互作用がみられたため(F (1,34)=4.089, MSe=23.582, p<.05) ,単純主効果の検定をおこなったところ,信号なし型においてWM容量低群<WM容量高群であった。注意喚起信号を本文に挿入することで,WM低群は理解が向上し,WM高群と同程度の理解が可能となる。