日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA038] 地図教材における専門家と非専門家の見方の違い

地図配置課題を用いて

福屋いずみ1, 森田愛子2, 草原和博#3, 渡邉巧#4, 大坂遊#5 (1.広島大学大学院, 2.広島大学大学院, 3.広島大学大学院, 4.広島大学大学院, 5.広島大学大学院)

キーワード:地図, 文章, 教科書

問題と目的
中学校指導要領社会科地理的分野の目標には,“地理的な見方や考え方の基礎を培う”,“地域の諸事象を環境条件や人間の営みなどと関連付けて考察する”などがあり,文章とともに複数の地図を参照し,比較,考察する能力・スキルを育成することが求められる。しかし,地理・社会科教材において,どのような地図の提示・配置が学習者の視点から見て効果的かについては,現在のところ実証されていない。本研究では,適切な読解方略を用いることができると想定される大学生に,文章を読んで地図を配置させ,地図配置と理解しやすさの関連を探索的に検討した。
方 法
参加者 学部3年生以上の大学生が実験に参加した。地理・社会科教育を専攻している専門家群が18名,非専門家群は16名だった。
課題 架空の地域についての文章を読み,地図を配置する地図配置課題を行なった。
刺激 地理の教科書に類似した刺激を用いた。文章は4つのトピック(地形,年降水量,人口分布,土地利用)について各1段落で構成されていた。地図刺激として,4つのトピックの地図と地名の地図を数枚ずつ透明なシートに印刷した。
手続き 個別に実験を行なった。まず,地図配置課題を15分間行なった。参加者は,5種類の地図を用いて自分にとって理解しやすい地図を作成し,配置するよう求められた。地図は重ねて配置することも可能であった。ディストラクタ課題の後,テキストベースの理解テストとして文章の内容についての正誤問題に回答した。また,統合的理解テストとして複数のトピックを関連付ける必要のある記述問題に回答した。最後に,地図配置課題における方略についての内省報告を行なった。
結 果
理解テスト 各群の平均得点をTable 1に示す。テキストベース理解テストは13点満点であった。両群の正答率に有意差は見られなかった(t(31.23)= 0.67,ns., d=0.23)。統合的理解テストは,12点満点であった。両群の成績には有意差が見られ(t(25.38)=2.40,p=.02,d=0.82),専門家群の成績が高かった。
地図配置 配置された地図の個数により,“4個より少ない”,“4個”,“4個より多い”の3群に参加者を分類した。専門家群は,順に3名,5名,10名であり,非専門家群は,順に3名,9名,4名であった。各群でFisherの正確確率検定を行なった結果,人数の偏りに有意差は見られなかったが,専門家群では4個より多く地図を配置した人が,非専門家群では4個の地図を配置した人が多かった。
内省報告をもとに,地図の配置方略によって参加者を“文章優先型”,“地図優先型”,“その他”の3群に分類した。専門家群は順に,8名,7名,3名であり,非専門家群は順に10名,5名,1名であった。各群でFisherの正確確率検定を行なった結果,人数の偏りに有意差は見られなかったが,非専門家群においては文章優先型が多かった。
考 察
専門家群は文章に沿った地図の他に,トピックの内容を理解するために他のトピックから関連を見出すような地図を配置していた。また,配置より地図同士を見比べて内容を理解していることが示唆された。一方,非専門家群は文章のトピックに合わせて地図を作成し,トピックの近くに地図を配置した者が多かった。文章と作成した地図を対応させて理解していたと考えられる。このような地図の見方の違いが,複数のトピックを関連付ける必要のある統合的理解テストの成績に反映されたと考えられる。