[PA044] 児童の援助行動の促進を意図した鬼ごっこ(なかま鬼)の開発と実践
キーワード:運動あそび, 向社会的行動, スポーツ
目的
今日,児童期における運動・スポーツ経験には,敏捷性や巧緻性の獲得だけではなく,「友達を助ける」,「弱い者いじめをしない」といった,日常生活においても重視されるスポーツマンシップ(道徳性)を涵養する役割も求められている。
そこで本研究では低学年児童の運動あそびとして一般的な鬼ごっこを取り上げ,「仲間を助ける」ことに注目した鬼ごっこ(なかま鬼)を開発する。そして,児童を対象とした運動あそびにおいてなかま鬼を実践し,なかま鬼における援助経験が児童の援助行動に対する自己効力感に及ぼす影響について検討する。
方法
調査対象者 本研究者が実施している本学附属小学校2・3年生児童を対象とした学童保育活動(キッズサポート)の参加者52名(3年生:男子13名,女子7名,2年生:男子20名,女子12名)を調査対象者とした。
手続き キッズサポートは夏期と秋期にそれぞれ8週間に渡って毎週水曜日の放課後に実施され,勉強の時間約30分と運動あそびの時間約1時間から構成されている。鬼ごっこはこの内,運動あそびにおける敏捷性の土台づくりを行う時間に行われた。キッズサポートへの参加は任意であり,希望者のなかから無作為抽選によって選ばれた児童が参加した。
なかま鬼 体育館半面もしくは四分の一程度の広さで,全員もしくは2つのグループに分かれて行われた。鬼は一人であり,逃げる児童の数は奇数である。鬼にタッチされた児童は鬼と交代しなければならない。ただし,逃げる児童が誰かと手をつないでいる時,鬼はタッチできない。開始前に,「自分だけが助かるのは簡単である一方,鬼に追われている児童を助けようとすることに価値がある」ことを説明した。なお本調査では,逃げる児童をペアもしくはトリオにしたなかま鬼のデータも含めて分析している。
しっぽ取り 体育館全面を利用して行った。参加者は学年及び性別がほぼ均等となるよう予め2つのグループに分けられ,それぞれしっぽ取り用に市販されているしっぽを腰の部分に装着した。開始の合図の後,相手グループの児童のしっぽを互いに取り合い,しっぽを取られた児童はその場に座らなければならない。なお,しっぽ取りには援助行動を促進するルールは含まれていない。
質問紙 吉村(2003)が作成した小学生用の向社会的行動尺度に含まれる「援助行動」に関わる項目を下敷きとして,現職教員の意見を参考に,児童用援助自己効力感尺度を作成した。同尺度は6項目から構成され,児童の日常生活場面における援助行動に対する効力感(他者を助けることができるという効力の予期)を測定することができる。
なお小学生213名を対象とした調査により,同尺度が1因子構造であることを確認している。また,6項目の内的一貫性はα=.77を示し,児童用社会的スキル尺度(石川・小林,1998),児童用共感測定尺度(桜井,1986)及び,児童の過去1週間の援助経験との間にも相関(それぞれ,r=.74,r=.49,r=.53)が認められた。
尺度への回答には,1)できないと思う,2)たぶんできないと思う,3)たぶんできると思う,4)できると思うの4件法を用い,児童は鬼ごっこ参加前後に質問紙に回答した。
結果
鬼ごっこ参加前後の援助自己効力感を比較したところ,なかま鬼では有意差が認められ,実施後の方が効力感が高まった(t(48)=2.42, p<.05, 両側検定, d=.24)。一方,しっぽ取りでは有意差は認められなかった(t(29)=.17, p=.86, 両側検定, d=.02, Table 1)。
考察
本結果はなかま鬼への参加を通じて,児童の援助行動に対する自己効力感が肯定的に変化する可能性を示していた。今後,より実証的な検討に耐えうるデータを収集し,なかま鬼が援助自己効力感に及ぼす影響について明らかにしていく。
*本研究はJSPS科研費(基盤研究C:課題番号25350724)の配分を受けて実施されました。
今日,児童期における運動・スポーツ経験には,敏捷性や巧緻性の獲得だけではなく,「友達を助ける」,「弱い者いじめをしない」といった,日常生活においても重視されるスポーツマンシップ(道徳性)を涵養する役割も求められている。
そこで本研究では低学年児童の運動あそびとして一般的な鬼ごっこを取り上げ,「仲間を助ける」ことに注目した鬼ごっこ(なかま鬼)を開発する。そして,児童を対象とした運動あそびにおいてなかま鬼を実践し,なかま鬼における援助経験が児童の援助行動に対する自己効力感に及ぼす影響について検討する。
方法
調査対象者 本研究者が実施している本学附属小学校2・3年生児童を対象とした学童保育活動(キッズサポート)の参加者52名(3年生:男子13名,女子7名,2年生:男子20名,女子12名)を調査対象者とした。
手続き キッズサポートは夏期と秋期にそれぞれ8週間に渡って毎週水曜日の放課後に実施され,勉強の時間約30分と運動あそびの時間約1時間から構成されている。鬼ごっこはこの内,運動あそびにおける敏捷性の土台づくりを行う時間に行われた。キッズサポートへの参加は任意であり,希望者のなかから無作為抽選によって選ばれた児童が参加した。
なかま鬼 体育館半面もしくは四分の一程度の広さで,全員もしくは2つのグループに分かれて行われた。鬼は一人であり,逃げる児童の数は奇数である。鬼にタッチされた児童は鬼と交代しなければならない。ただし,逃げる児童が誰かと手をつないでいる時,鬼はタッチできない。開始前に,「自分だけが助かるのは簡単である一方,鬼に追われている児童を助けようとすることに価値がある」ことを説明した。なお本調査では,逃げる児童をペアもしくはトリオにしたなかま鬼のデータも含めて分析している。
しっぽ取り 体育館全面を利用して行った。参加者は学年及び性別がほぼ均等となるよう予め2つのグループに分けられ,それぞれしっぽ取り用に市販されているしっぽを腰の部分に装着した。開始の合図の後,相手グループの児童のしっぽを互いに取り合い,しっぽを取られた児童はその場に座らなければならない。なお,しっぽ取りには援助行動を促進するルールは含まれていない。
質問紙 吉村(2003)が作成した小学生用の向社会的行動尺度に含まれる「援助行動」に関わる項目を下敷きとして,現職教員の意見を参考に,児童用援助自己効力感尺度を作成した。同尺度は6項目から構成され,児童の日常生活場面における援助行動に対する効力感(他者を助けることができるという効力の予期)を測定することができる。
なお小学生213名を対象とした調査により,同尺度が1因子構造であることを確認している。また,6項目の内的一貫性はα=.77を示し,児童用社会的スキル尺度(石川・小林,1998),児童用共感測定尺度(桜井,1986)及び,児童の過去1週間の援助経験との間にも相関(それぞれ,r=.74,r=.49,r=.53)が認められた。
尺度への回答には,1)できないと思う,2)たぶんできないと思う,3)たぶんできると思う,4)できると思うの4件法を用い,児童は鬼ごっこ参加前後に質問紙に回答した。
結果
鬼ごっこ参加前後の援助自己効力感を比較したところ,なかま鬼では有意差が認められ,実施後の方が効力感が高まった(t(48)=2.42, p<.05, 両側検定, d=.24)。一方,しっぽ取りでは有意差は認められなかった(t(29)=.17, p=.86, 両側検定, d=.02, Table 1)。
考察
本結果はなかま鬼への参加を通じて,児童の援助行動に対する自己効力感が肯定的に変化する可能性を示していた。今後,より実証的な検討に耐えうるデータを収集し,なかま鬼が援助自己効力感に及ぼす影響について明らかにしていく。
*本研究はJSPS科研費(基盤研究C:課題番号25350724)の配分を受けて実施されました。