[PA046] 児童・生徒のネットいじめにおける目撃者の役割と特徴
Keywords:いじめ
問題と目的
近年の研究では,ネットいじめに関わる周辺的な立場になる子どもの検討も行われつつある。Slonje, Smith, &Frisén(2012)では,加害者がネット上に書いた情報を被害者以外の人物が目撃した時に,72%が何も行動しないのに対し,9%がそれを他の友だちに送ると回答し,6%がターゲットとなっている被害者に加害目的で送ると回答された。また,13%が被害者を助けるために被害者へ送ると回答された。この研究から,ネットいじめにも加害援助者,観衆,傍観者,被害擁護者が存在すると考えられる。そこで,本研究では,ネットいじめにおける目撃者の役割とその基本的特徴について検討することが目的である。
方法
調査対象者 小学5・6年生107名(男子48名,女子59名),中学1・2年生531名(男子262名,女子253名,不明16名)の計638名であった。
質問紙の構成 学年,性別,スマートフォン(携帯電話)の所有の他,以下の項目について尋ねた。
(a) ネットいじめ目撃者の行動:ネットいじめを目撃したシナリオを読ませて,主人公の立場であったら,その後どうするかについて自由記述で回答を求めた。半数には,被害者となった子どもがクラスの友だち,もう半数にはクラス以外の人であるシナリオを用いた。(b) 目撃者行動の理由:(a)で回答した理由について自由記述で回答を求めた。(c) シャーデンフロイデと同情:テストに関するシナリオを読ませて,澤田(2008)の項目のうち,シャーデンフロイデと同情に高い因子負荷を示した4項目ずつを尋ねた。(d) 弱者救済規範意識:箱井・高木(1987)の援助規範意識尺度から弱者救済規範意識に高い因子負荷を示した4項目を使用した。(e) 拒否不安:杉浦(2000)の親和動機尺度から拒否不安因子に高い因子負荷を示した4項目を使用した。 (f) 攻撃性:坂井・山崎(2004)の小学生用P-R攻撃性より表出性攻撃と関係性攻撃に高い因子負荷を示したそれぞれ4項目を使用した。(c)~(f)は4段階評定であった。
結果
スマートフォン(携帯電話)の所有:所有している小学生は51名(47.7%),中学生は257名(48.9%)であった。
ネットいじめ目撃者の役割:自由記述による回答から不適切な回答(59回答)を除き,行動の理由を参考にしながら,ネットいじめ目撃者の役割を分類した。「その他」に該当する10回答を除くと,加害援助者,観衆,傍観者,被害擁護者の分類が可能であった。心理学を専攻する大学生2名と筆者が独立して分類し,単純一致率の平均を算出したところ,96.77%と信頼性は高かった。
いじめ被害者がクラス内の友だちの場合と,クラス以外の人の場合を分けて集計し,クロス集計を行ったところχ2(3)=39.31で有意であった(p<.01)。調整済み残差分析の結果,クラス内の友達がいじめ被害者であった場合は,クラス以外の人であった場合よりも,加害援助者(p<.05),観衆(p<.05),傍観者(p<.01)の役割が有意に多く,被害擁護者が少なかった(p<.01)。次に,被害者との関係性については考慮せず,性別×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3) =0.31で有意ではなかった(n.s.)。続いて,学校種×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3)=11.12で有意であった(p<.05)。調整済み残差分析の結果,小学生は中学生よりも被害擁護者の役割が有意に多く(p<.01),傍観者が少なかった(p<.01)。最後に,スマートフォン(携帯電話)の所有×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3)=13.86で有意であった(p<.01)。調整済み残差分析の結果,スマートフォン(携帯電話)所有者は所有していない者よりも観衆の役割が有意に多かった(p<.01)。
ネットいじめ目撃者の役割の特徴:ネットいじめ目撃者の役割を独立変数,シャーデンフロイデ,同情,弱者救済規範意識,拒否不安,表出性攻撃,関係性攻撃を従属変数にしたKruskal Wallisの検定を行った。その結果,拒否不安を除く変数で有意差がみられた。Mann WhitneyによるU検定(Bonferroniによる調整)で多重比較を行ったところ,シャーデンフロイデでは,加害援助者が傍観者や被害擁護者よりも高く,観衆や傍観者は被害擁護者よりも高かった。同情では,被害擁護者が観衆や傍観者よりも高かった。弱者救済規範意識では,被害擁護者が加害援助者や傍観者よりも高かった。表出性攻撃や関係性攻撃では,傍観者が被害擁護者よりも高かった。
■平成26年度「発達科学研究教育奨励賞」を受けて行われた。
近年の研究では,ネットいじめに関わる周辺的な立場になる子どもの検討も行われつつある。Slonje, Smith, &Frisén(2012)では,加害者がネット上に書いた情報を被害者以外の人物が目撃した時に,72%が何も行動しないのに対し,9%がそれを他の友だちに送ると回答し,6%がターゲットとなっている被害者に加害目的で送ると回答された。また,13%が被害者を助けるために被害者へ送ると回答された。この研究から,ネットいじめにも加害援助者,観衆,傍観者,被害擁護者が存在すると考えられる。そこで,本研究では,ネットいじめにおける目撃者の役割とその基本的特徴について検討することが目的である。
方法
調査対象者 小学5・6年生107名(男子48名,女子59名),中学1・2年生531名(男子262名,女子253名,不明16名)の計638名であった。
質問紙の構成 学年,性別,スマートフォン(携帯電話)の所有の他,以下の項目について尋ねた。
(a) ネットいじめ目撃者の行動:ネットいじめを目撃したシナリオを読ませて,主人公の立場であったら,その後どうするかについて自由記述で回答を求めた。半数には,被害者となった子どもがクラスの友だち,もう半数にはクラス以外の人であるシナリオを用いた。(b) 目撃者行動の理由:(a)で回答した理由について自由記述で回答を求めた。(c) シャーデンフロイデと同情:テストに関するシナリオを読ませて,澤田(2008)の項目のうち,シャーデンフロイデと同情に高い因子負荷を示した4項目ずつを尋ねた。(d) 弱者救済規範意識:箱井・高木(1987)の援助規範意識尺度から弱者救済規範意識に高い因子負荷を示した4項目を使用した。(e) 拒否不安:杉浦(2000)の親和動機尺度から拒否不安因子に高い因子負荷を示した4項目を使用した。 (f) 攻撃性:坂井・山崎(2004)の小学生用P-R攻撃性より表出性攻撃と関係性攻撃に高い因子負荷を示したそれぞれ4項目を使用した。(c)~(f)は4段階評定であった。
結果
スマートフォン(携帯電話)の所有:所有している小学生は51名(47.7%),中学生は257名(48.9%)であった。
ネットいじめ目撃者の役割:自由記述による回答から不適切な回答(59回答)を除き,行動の理由を参考にしながら,ネットいじめ目撃者の役割を分類した。「その他」に該当する10回答を除くと,加害援助者,観衆,傍観者,被害擁護者の分類が可能であった。心理学を専攻する大学生2名と筆者が独立して分類し,単純一致率の平均を算出したところ,96.77%と信頼性は高かった。
いじめ被害者がクラス内の友だちの場合と,クラス以外の人の場合を分けて集計し,クロス集計を行ったところχ2(3)=39.31で有意であった(p<.01)。調整済み残差分析の結果,クラス内の友達がいじめ被害者であった場合は,クラス以外の人であった場合よりも,加害援助者(p<.05),観衆(p<.05),傍観者(p<.01)の役割が有意に多く,被害擁護者が少なかった(p<.01)。次に,被害者との関係性については考慮せず,性別×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3) =0.31で有意ではなかった(n.s.)。続いて,学校種×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3)=11.12で有意であった(p<.05)。調整済み残差分析の結果,小学生は中学生よりも被害擁護者の役割が有意に多く(p<.01),傍観者が少なかった(p<.01)。最後に,スマートフォン(携帯電話)の所有×いじめの役割でクロス集計を行ったところ,χ2(3)=13.86で有意であった(p<.01)。調整済み残差分析の結果,スマートフォン(携帯電話)所有者は所有していない者よりも観衆の役割が有意に多かった(p<.01)。
ネットいじめ目撃者の役割の特徴:ネットいじめ目撃者の役割を独立変数,シャーデンフロイデ,同情,弱者救済規範意識,拒否不安,表出性攻撃,関係性攻撃を従属変数にしたKruskal Wallisの検定を行った。その結果,拒否不安を除く変数で有意差がみられた。Mann WhitneyによるU検定(Bonferroniによる調整)で多重比較を行ったところ,シャーデンフロイデでは,加害援助者が傍観者や被害擁護者よりも高く,観衆や傍観者は被害擁護者よりも高かった。同情では,被害擁護者が観衆や傍観者よりも高かった。弱者救済規範意識では,被害擁護者が加害援助者や傍観者よりも高かった。表出性攻撃や関係性攻撃では,傍観者が被害擁護者よりも高かった。
■平成26年度「発達科学研究教育奨励賞」を受けて行われた。