日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA047] 対立する議論との接触が及ぼす影響

関係づけ処理の役割

小林敬一 (静岡大学)

キーワード:対立する議論との接触, バイアスがかかった同化, 関係づけ処理

問題と目的
社会には様々な問題(憲法改正,原発再稼働,など)があり,それらを巡って対立する議論が遍在している。私たちはしばしばそのことを前提にして各問題に対する態度を決めたり判断を下したりすることが求められる。
対立する議論との接触が及ぼす影響として,バイアスがかかった同化(問題に対する事前態度に合わせて各議論が評価される傾向)や,それを媒介とした態度の変化(事前態度を強化する方向に作用する両極化現象など)が知られている(Lord et al., 1979)。しかし,先行研究では,議論の処理が個別的,バラバラにおこなわれると仮定してきた。この仮定は,現実社会の中で私たちが遭遇する議論はしばしば相互に関連し応答し合っていることや,熟達者はしばしば対立する議論を関係づけて処理していることを考えると,必ずしも妥当とは言えない。ただし一方で,非熟達者は自ら対立する議論を積極的に関連づけないこともまた事実である。以上の議論を踏まえて,本研究では,関係づけ処理を促す条件とすでない条件を設け,関係づけ処理がバイアスがかかった同化やそれを媒介した態度変化にどう影響するか検討する。
方法
実験参加者 大学生105名を関係づけ処理促進あり条件となし条件にランダムに割り振った。
テキスト材料 非配偶者間人工授精によって生まれた子どもの出自を知る権利を保障するために,精子提供者の情報開示を認めるべきかどうかを巡って対立する2つのテキストを作成し用いた。各テキストには3つの下位争点を巡る議論が3つあり,そのうち,2つの下位争点で一方が他方を論駁的関係が存在した(テキスト間に明示的な引用関係はなかった)。
手続き 実験は集団で実施した。1.精子提供者の情報開示に対する事前態度(3項目9件法),親近性(9件法),重要性(9件法)の調査。2.テキスト読解:関係づけ処理促進あり群には,論駁的関係のある議論についてのヒントを与えるとともに,対立するテキストの議論を比較・対比しながら読むよう教示した。なし群には,そうしたヒントや教示を与えなかった。3.各議論とテキスト全体の議論の評価(説得力:9件法)。4.事後態度の調査。5.テキストの各議論の理解とテキスト間の修辞的関係の理解を調べるテスト。
結果と考察
予備的分析 実験参加者が議論を読解中に産出したメモの内容を分析したところ,関係づけ促進あり群の方がなし群よりも,間テキスト的メモの産出が多かった(χ2=12.10, p<.005)。これは,実験操作が議論の関係づけ処理に影響したことを示唆する。しかし,議論の理解得点と修辞的関係の理解得点について,群間に有意差は見られなかった。
議論の評価 議論の説得力評定についてテキスト間で差を求め,それを従属変数とし,事前態度,条件,議論の理解得点,修辞的関係の理解得点,事前態度×条件(モデル1),事前態度×議論の理解(モデル2),事前態度×修辞的関係の理解(モデル3)を独立変数とした重回帰分析をおこなった。その結果,事前態度,議論の理解,事前態度×条件が有意な説明変数であった(Table1参照)。事前態度×条件は,関連づけ処理促進なし群で事前態度が有意であった(B=.75, SE=.19, p<.001)のに対し,あり群では有意でなかった(B=.16, SE=.18)ことによる。
態度の変化 事前態度の得点で実験参加者を情報開示に肯定的な立場と否定的な立場に分け,2(態度得点:事前,事後)×2(事前の立場)の分散分析を実施したところ,態度×立場の交互作用が有意であった(F=36.82, p<.001)。しかし,これは肯定群でのみ,事前>事後となったことによるものであり,態度がより極端になったとは言えない。なお,関係づけ処理促進なし群で,事前態度が議論の評価を媒介にして態度変化に影響を与えたか調べたところ,間接効果が有意であった(B=-.19, SE=.08, 95% CI=-.37, -.07)。