日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB002] ネットいじめ被害に関する意識と実態

被害リスク認知・被害不安・予防意識の性差と学校差の検討

金綱知征 (甲子園大学)

キーワード:ネットいじめ, 実態と意識

問題
近年,高速通信を可能とするネットワーク環境の整備や,スマートフォンなどの高機能通信機器の急速な発展と普及に伴って,ネットいじめをはじめとするネット被害が注目を集めている。ネットいじめの被害発生率は,小学校で1.4%,中学校で8.8%,高等学校で19.7%と,無視できない割合であり,また年々増加傾向にある(文部科学省,2014)。またネットの世界では,匿名性という性質から安易に誹謗中傷の書込み等が行われるなど誰もが簡単に被害者にも加害者にもなり得るとの指摘もある(文部科学省, 2008)。このような状況からネットいじめを始めとする種々のネット諸問題に対する有効な対策の検討は急務である。これまでのネットいじめに関する国内外の研究の多くは行動的側面の実態解明にその主眼が置かれてきた(Smith et al., 2008等)が,子ども達のネットいじめ被・加害に関する認知,感情,態度といった心理的側面については未だ検討が不十分である。本研究では, スマホや携帯の所有率が高くネットへの接続も最頻と思われる高校生と大学生を対象に1)ネットいじめ被害に遭うリスクの認識,2)被害に遭うことへの不安,3)被害に遭わないための予防への意識の3点について,4種のネット被害を題材に検討したなかから,性差及び学校差について報告する。
方法
公立高校生637名(男子341名,女子296名)及び私立大学生388名(男子177名,女子211名)を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙には,「ネット掲示板」,「メール」,「なりすまし」,「カメラ」の各手口による被害を示す刺激文を提示し,設問への回答を求めた。
結果・考察
4つのネットいじめの見聞・被害実態について,「未知の人の被害の見聞経験がある」者が最も多く,高校生で6~7割,大学生で6~8割であった。また「自身の被害経験」については,高校生の2~3%,大学生の3~5%が被害経験を報告しており,高校生では,恥ずかしい場面などを写真に撮られたり,その写真をネット上に投稿されたりするなどのカメラによる被害,大学生では,自身の悪口や個人情報をネット上の掲示板に書き込まれる等の掲示板による被害が最も多かった。さらに高校生は掲示板以外の被害については男子の方が多く,大学生では掲示板となりすまし被害については女子が,メールとカメラ被害は男子が相対的に多かった。
被害リスク認知については,カメラ被害が高校生,大学生ともに最も高い値を示し,次いで掲示板被害であった。高校生,大学生ともに最も被害に遭う可能性が低いと認識していたのは悪口や嫌がらせのメールを送信されるというメール被害であった。いずれの手口についても大学生は高校生に比べて相対的に高い値を示しており,分散分析によって有意な主効果が認められた(F(1, 1002)=6.32, p<.05)。被害不安についても,リスク認知の高かったカメラ被害及び掲示板被害が高い値を示しており,高校生はカメラ被害,大学生は掲示板被害が最も高い値を示していた。一方最も不安の低い被害は高校生,大学生ともに,また男女ともにメール被害であった。また男女ともに高校生よりも大学生の方が高い値を示していた。分散分析の結果,手口,学校差,性差に有意な主効果が認められた(F(1, 1003)=6.58, p<.01; F(1, 1003)=15.90, p<.01; F(1, 1003)=8.00, p<.01)。被害予防意識については,高校生も大学生も,自身が被害に遭った経験をもつものは,もたないものに比べて相対的に高い予防意識をもっており,また男女ともに高校生よりも大学生の方が予防意識が高かったが,いずれも有意な主効果は認められなかった。
高校生に比べ大学生のリスク認知や被害不安が相対的に高かったのは大学生の方がSNSの利用など高校生以上にネット上での活動が活発であることの表れであると考えられた。一方,ネット利用に対して強い危機意識をもたない高校生に対しては,被害に遭わないための適切なリスク伝達が重要であると考えられた。
【本研究は, 科学研究費補助金若手研究(B)「ネットいじめの生起と対応に関する心理的諸要因の解明」(課題番号25870960・研究代表者 金綱知征)による研究活動の一環である】