日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB009] 心の減災教育プログラムの効果測定に関する研究(7)

成人対象プログラムの概要と自由記述の分析

坪井裕子1, 吉武久美2, 窪田由紀3, 松本真理子4, 森田美弥子5 (1.人間環境大学, 2.人間環境大学, 3.名古屋大学, 4.名古屋大学, 5.名古屋大学)

キーワード:心の減災教育プログラム, 成人対象, 自由記述

問題と目的
東日本大震災以降,防災への関心が高まり,災害への備えといった行動レベルの内容だけでなく,「災害時に起こり得る心理的ストレス反応」や「対処方法」といった「心の減災」の視点を含めた防災教育が求められている。我々の研究グループでは,災害時に生じる心理的被害を減らし,さらに,日常的な心の健康を増進させる「心の減災教育」プログラムを開発し,小学校高学年を対象に試行実施・効果検証を行ってきている(松本ら,2014)。次の段階として,中高生用プログラム及び,災害発生時に避難所の運営や子どもたちのサポートなどの重要な役割を担う親や地域の大人たちを対象とするプログラムの開発を試みた。
そこで本報告では,成人対象「心の減災教育プログラム」の概要を提示するとともに,プログラム実施後に受講者が記述した感想・意見から,今後の課題を検討することを目的とする。
方法
1.プログラム開発・作成:災害時の心理的反応の理解,災害ストレス反応への対処方略(10秒呼吸法,認知の修正,他者との信頼関係等)の要素を組み込んだプログラム(Table1)を開発した。
2. プログラムの実施:2014年9月~2014年12月にかけて,A県内の市民講座や研修会等(計5回)で実施した。受講者は175名(女性63名,男性111名,不明1名),年齢構成は20代16名,30代25名,40代44名,50代34名,60代36名,70代18名,80代2名であった。
3.質問紙調査:プログラム前後に効果に関する質問紙調査を実施した。実施後の調査用紙には自由記述欄を設け「今日の感想やご意見を自由にお書きください」とした。記載があった82名(46.9%)の記述内容(122件)を分析対象とした。
結果と考察
自由記述の内容について以下の通り分類し,検討を行った。
1.心の減災教育について(24件;19.7%)
「事前にこういったことを学んでおくと,いざというときに心の持ちようが違ってくると思う」など,事前の心理教育の重要性を認識したという意見が挙げられた。
2.災害ストレスの理解と対処法(77件;63.1%)
災害ストレス(29件;23.8%)では,「災害が発生した際に心に大きな負担がかかる」,「日々のストレス対処についてもたいへん参考になった」等が示された。10秒呼吸法について(14件;11.5%)は,自分だけでなく「家族にも伝えたい」等,行動意図が多く示された。認知の修正について(14件;11.5%)は,「心の持ち方で世界は変わる」と理解が示された一方で,「考え方(ものの見方)を変えるのは大変」という意見もあった。協力や信頼について(16件;13.1%)は,「誰かを助ける,お手伝いをするという気持ちを持てるように」という意見とともに「人と協力することや思いやりは今できない人が増えている」という現状についての意見も示された。全体としては,災害時だけでなく,日常のストレスへの対処にも使えるという意見が多かった。また,「自己効力感」についても言及がみられており,プログラムの意図は概ね伝わったのではないかと考えられる。
3.その他(21件;17.2%)
全体的にはプログラムに対する肯定的な意見や感想が多かったが,一部には「実際に人の命がかかっているときにできるのか」といった疑問も示された。また,講座の受講生にはストレスに対する知識を十分に持っている方も含まれており,もっと踏み込んだ内容を求める意見も示された。
今後の課題
上記のような疑問や要望に応えるべく,プログラム内容を改良していくことが今後の課題である。また,一般成人向けのプログラム開発とともに,教師や防災関係者など,より専門的なプログラム開発も必要であるといえるだろう。