日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB017] 社会的な学習環境の分析(3)

教育実習における経験の過程と多様性

有村勇紀1, 有元典文2 (1.横浜国立大学, 2.横浜国立大学)

キーワード:TEM, 教育実習, 多様性

【問題と目的】
教員養成課程の大学に所属する学生にとって教育実習(以下,実習)経験は,進路選択の大きな変化の契機となる経験といえる。これまで教育実習によって教員志望動機を強めること(今栄・清水ら, 1994)や,教育実習経験により授業イメージ・教師イメージが変容すること(深見・木原, 2004)が明らかとされている。しかし,これらの研究の多くは,実習を「教育実習経験」と一括りのものとして捉え,実習経験と学生の進路選択に関する認識の変化の因果関係を検討しているものが多い。本研究では,実習を一括りに捉えるのではなく,学生の多様な経験と,進路選択に関する認識の過程を捉えることを目的とした。
【方 法】
2013年7月の第1週から第4週にかけて,1ヶ月の教育実習を終えた学生を対象に半構造化面接を行った。経験・認識の変化の過程と多様性を描くため,分析は,サトウタツヤら(2006)の複線径路・等至性モデル(以下,TEM)を用いた。分析は,心理学を専攻する学生,大学院生および心理学を専門とする教諭と共に行った。
【結果と考察】
TEMによる分析結果から主に着目するべきと考えた点は,教育実習において同じような経験をした後の変化が個人によって異なるという点である。以下,可視化した径路の一部を示す(図1)。
実習において子供と接し,自分の授業や普段の関わりの中で,子供を変化させるような経験をした場合,「子供の変化に価値を見出す」と「子供の変化に対する責任を感じる」という径路に分岐していた。前者の径路を辿った学生は,その後「できたという認識」に至り,教職に対する自信を高めていた。一方で後者の径路を辿った学生は,自信を低下させるに至っていた。
このように同じような経験に対して,異なる認識の変化が現れたことは,教育実習による学生の進路選択に関する認識の変化を検討する際,学生の経験を「教育実習経験」として,一括りに捉えるべきではないことを示唆している。なぜなら,「子供を変化させる」という教育実習における同じような経験が及ぼす影響は,個々の学生によって異なるからである。
従来の研究では,図2のように学生の実習経験を「教育実習経験」という均一のものとして捉えた学生の認識の変化の検討が多く行われてきたといえる。これに対し,本研究では,図3のように「教育実習経験」の多様な過程を示した。
このことは,教育実習経験と学生の進路選択の関係性を検討する研究において,経験後の結果のみでなく,その多様な過程に着目する必要性を示したといえよう。