日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB074] メンタライゼーション能力の高さが教師志望学生の教師効力感と特性的自己効力感に及ぼす影響

小学校における教育実習についての検討

増田優子 (京都教育大学大学院)

キーワード:メンタライゼーション, 教師効力感, 特性的自己効力感

問題と目的
教師が子どもたちと関わる上で大切だと考えられるものの一つにメンタライゼーション能力(mentalization:Fonagy & Target,1997),すなわち,教師自身の自己理解・他者理解の能力があげられる。この能力は即戦力的に求められるものであるといえ,教師養成段階において高めることが望ましいと考えられる。また,教育実習は,教師を志望する学生にとって,教師としての資質適合が試される顕著な契機であるといえる。
そこで,メンタライゼーション能力の高さが,教師効力感(教師として子どもたちをよい方へ導ける,関われるという自信)や,特性的自己効力感(どのような場でも効力的に行動できる自信)にどのような影響を及ぼすのかについて,教育実習における要因とともに検討する。
方 法
対象 関西の教育大学で,大学3年生93名(男性23名,女性70名),平均年齢20.4歳(SD=0.79)に対し,実習前,前期実習後(実習1後),後期実習後(実習2後)に調査を実施した。
尺度 実習の前後に,山口(2011)のメンタライゼーション能力尺度([対自的メンタライゼーション](以後,【対自M】)[対他的メンタライゼーション](以後,【対他M】)2因子4件法),成田ら(1995)の特性的自己効力感尺度(1因子4件法),春原(2007)の教師効力感尺度(3因子5件法)。
結果と考察
分析方法 【対自M】【対他M】ごとにメンタライゼーション能力の高中低(3)×実習前後(3:対象者内計画,実習前/実習1後/実習2後)を独立変数にし,特性的自己効力感と,教師効力感の3因子を従属変数とした2要因の分散分析を行った。
「対自的メンタライゼーション×実習前後(前-1後-2後)の効果」(Figure 1)[特性的自己効力感]で【対自M】の主効果が有意であり,【対自M】の高/中群は低群に比べて得点が高かった。さらに,教師効力感の[学級管理・運営]で実習前後の主効果が有意であり,実習前に比べて実習1後,実習2後の得点が高かった。また,交互作用がみられ,【対自M】の高群では実習前よりも実習1後の方が,中群では実習前よりも実習2後の方が,得点が高かった。実習1後においては,【対自M】の高群は低群よりも得点が高かった。さらに,教師効力感の[子ども理解・関係形成]では,【対自M】の主効果が有意であり,【対自M】の高/中群は低群よりも得点が高かった。また,実習前後の主効果が有意であり,実習前よりも実習1後,実習2後の得点が高かった。
「対他的メンタライゼーション×実習前後(前-1後-2後)の効果」(Figure 2) 教師効力感の[学級管理・運営]で実習前後の主効果が有意であり,実習前よりも実習2後の方が,得点が高かった。また,[子ども理解・関係形成]で実習前後の主効果が有意であり,実習前よりも実習1後,実習2後の得点が高かった。
以上より,メンタライゼーション能力の,特に対自的メンタライゼーションを高めることで,特性的自己効力感が高まることが示唆された。また,両者はともに実習経験だけでは変化しにくいことが示された。さらに,メンタライゼーション能力の高い学生は実習経験による教師効力感の伸びが大きいことが示された。これらの結果を総合すると,教育実習が教師としての資質向上にとってより効果的で,教師効力感を高める機会になるためには,実習以前にメンタライゼーション能力を高めておくことが有効であると考えられる。