[PC002] 児童のほめられる前後の感情反応
参加者ごとの報告内容の変化
Keywords:ほめ, フィードバック, 教師
問題と目的
算数に対する態度やほめられる頻度が異なる主人公が登場し,最終的にはすべての主人公がテストで100点を取り,教師からほめられるという4つのストーリーを提示し,主人公の感情をたずねたところ,100点を取る以前の段階で生じる感情はストーリーによって異なるが(青木,2014),100点を取って教師からほめられた後は,どのストーリーでも肯定的な感情が多く報告された(青木,2015)。しかし,これらは報告度数の分析であり,参加者ごとの報告内容の変化は検討していない。そこで本研究では,100点を取ってほめられる前後の同一参加者の報告内容の変化を検討する。
方法
小学校1~3年生29名に対し,A~Dのストーリーを提示し,主人公の感情をたずねるインタビュー調査を行った。使用したデータは青木(2014; 2015)と同様である。なお,以降の「ほめられる以前・ほめられた後」は「100点を取って教師からほめられる以前・ほめられた後」を指す。
結果と考察
ほめられる以前の主人公の感情として同じ内容を報告した参加者がほめられた後に報告した内容を分析した。複数回答の参加者がいるため,参加者総数(29名)と報告者数の合計は異なる。また,本研究は,報告者数の分析であるため,報告度数を取り上げた青木(2014; 2015)のデータとは一致しない。
A 算数が嫌いだが,よい点数を取るといつもほめられるAでは,ほめられる以前は,肯定的感情・アンビバレントな感情・課題に対する肯定的な態度の報告が多かった。ほめられる以前に肯定的な感情を報告した17名中12名は,ほめられた後も肯定的な感情を含む報告をした。また,アンビバレントな感情を報告した参加者の4名中3名,否定的な感情を報告した3名中2名,疑問を報告した1名は,ほめられた後に肯定的な感情を含む報告をしていた。これらのことから,算数が嫌いでもほめられることで肯定的な感情状態が持続したり,否定的な感情が解消されるといえる。
B 算数が好きでよい点数を取るといつもほめられるBでは,ほめられる以前では肯定的感情が多く報告され,肯定的感情を報告した24名中18名がほめられた後も肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられた後に肯定的感情を報告しなかった6名も,その他のみを報告した1名を除いて動機づけの向上や課題に対する肯定的な態度などを報告していた。算数が好きであるという主人公の態度とよい点数を取るということは評価すべきことであるという教師の価値観が共有され,ほめ方も一定であるため,肯定的な感情状態が保たれると考えられる。
C 算数が嫌いで,よい点数を取ってもいつもはほめられないCでは,ほめられる以前は,否定的感情・動機づけの低下が多く報告されていたが,100点を取ってほめられることで,ほめられる以前に否定的感情を報告した23名中17名,動機づけの低下を報告した8名中5名は,ほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられないことへの疑問を報告した2名もほめられた後は肯定的感情を含む報告をしていた。これらのことから,ほめられないことで生じた否定的感情・疑問は,教師からほめられることで解消したといえる。しかし,ほめられた後のみ,ほめられたことに疑問を述べた参加者も1名おり,ほめられ方が変化することで,疑問をもたれる可能性も示唆された。
D 算数が好きだが,よい点数を取ってもほめられなかったDでは,ほめられる以前は,否定的感情・疑問・課題に対する否定的な態度が多く報告されていたが,否定的感情を報告した23名中16名がほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられた後に肯定的感情を報告しなかった7名中4名は,動機づけの向上や課題に対する肯定的態度を報告していた。さらに,ほめられないことへの疑問を述べていた6名中4名は,ほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。これらのことから,ほめられるようになることで否定的な感情・疑問の多くは解消するといえる。しかし,ほめられる以前に疑問を報告した6名中2名は肯定的感情と同時に「なんで最初はほめられなかったんだろう」といった疑問も報告していた。また,6名のうち1名は「いきなりなんでほめたのって気持ちになる」とほめられた後に疑問のみを報告している。これらのことから,ほめられたことで肯定的な感情が生じつつも,教師の態度に対する疑問が継続する場合もあり,毎回のほめ方だけでなく,ほめ方の一貫性も子どもに影響を与えるといえる。
*本研究はJPSP科研費24730542の助成を受けたものです
算数に対する態度やほめられる頻度が異なる主人公が登場し,最終的にはすべての主人公がテストで100点を取り,教師からほめられるという4つのストーリーを提示し,主人公の感情をたずねたところ,100点を取る以前の段階で生じる感情はストーリーによって異なるが(青木,2014),100点を取って教師からほめられた後は,どのストーリーでも肯定的な感情が多く報告された(青木,2015)。しかし,これらは報告度数の分析であり,参加者ごとの報告内容の変化は検討していない。そこで本研究では,100点を取ってほめられる前後の同一参加者の報告内容の変化を検討する。
方法
小学校1~3年生29名に対し,A~Dのストーリーを提示し,主人公の感情をたずねるインタビュー調査を行った。使用したデータは青木(2014; 2015)と同様である。なお,以降の「ほめられる以前・ほめられた後」は「100点を取って教師からほめられる以前・ほめられた後」を指す。
結果と考察
ほめられる以前の主人公の感情として同じ内容を報告した参加者がほめられた後に報告した内容を分析した。複数回答の参加者がいるため,参加者総数(29名)と報告者数の合計は異なる。また,本研究は,報告者数の分析であるため,報告度数を取り上げた青木(2014; 2015)のデータとは一致しない。
A 算数が嫌いだが,よい点数を取るといつもほめられるAでは,ほめられる以前は,肯定的感情・アンビバレントな感情・課題に対する肯定的な態度の報告が多かった。ほめられる以前に肯定的な感情を報告した17名中12名は,ほめられた後も肯定的な感情を含む報告をした。また,アンビバレントな感情を報告した参加者の4名中3名,否定的な感情を報告した3名中2名,疑問を報告した1名は,ほめられた後に肯定的な感情を含む報告をしていた。これらのことから,算数が嫌いでもほめられることで肯定的な感情状態が持続したり,否定的な感情が解消されるといえる。
B 算数が好きでよい点数を取るといつもほめられるBでは,ほめられる以前では肯定的感情が多く報告され,肯定的感情を報告した24名中18名がほめられた後も肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられた後に肯定的感情を報告しなかった6名も,その他のみを報告した1名を除いて動機づけの向上や課題に対する肯定的な態度などを報告していた。算数が好きであるという主人公の態度とよい点数を取るということは評価すべきことであるという教師の価値観が共有され,ほめ方も一定であるため,肯定的な感情状態が保たれると考えられる。
C 算数が嫌いで,よい点数を取ってもいつもはほめられないCでは,ほめられる以前は,否定的感情・動機づけの低下が多く報告されていたが,100点を取ってほめられることで,ほめられる以前に否定的感情を報告した23名中17名,動機づけの低下を報告した8名中5名は,ほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられないことへの疑問を報告した2名もほめられた後は肯定的感情を含む報告をしていた。これらのことから,ほめられないことで生じた否定的感情・疑問は,教師からほめられることで解消したといえる。しかし,ほめられた後のみ,ほめられたことに疑問を述べた参加者も1名おり,ほめられ方が変化することで,疑問をもたれる可能性も示唆された。
D 算数が好きだが,よい点数を取ってもほめられなかったDでは,ほめられる以前は,否定的感情・疑問・課題に対する否定的な態度が多く報告されていたが,否定的感情を報告した23名中16名がほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。また,ほめられた後に肯定的感情を報告しなかった7名中4名は,動機づけの向上や課題に対する肯定的態度を報告していた。さらに,ほめられないことへの疑問を述べていた6名中4名は,ほめられた後に肯定的感情を含む報告をしていた。これらのことから,ほめられるようになることで否定的な感情・疑問の多くは解消するといえる。しかし,ほめられる以前に疑問を報告した6名中2名は肯定的感情と同時に「なんで最初はほめられなかったんだろう」といった疑問も報告していた。また,6名のうち1名は「いきなりなんでほめたのって気持ちになる」とほめられた後に疑問のみを報告している。これらのことから,ほめられたことで肯定的な感情が生じつつも,教師の態度に対する疑問が継続する場合もあり,毎回のほめ方だけでなく,ほめ方の一貫性も子どもに影響を与えるといえる。
*本研究はJPSP科研費24730542の助成を受けたものです