[PC008] 数学学習場面における精緻化方略の整理
キーワード:精緻化方略, 数学教育
1.目的
学習指導要領解説(数学編)では,適切な学習方略を用いる学習者の育成が課題として指摘されている。ここでは「適切な学習方略」として,知識の構造化を目指す精緻化方略を取り上げたい。
数学は,他教科に比べて覚えるべき内容が極めて少ない(浪川, 2007)。だからこそ数学では,知識を応用できることが目指される。そうなるためには,学習者の知識の網の目を密にし,必要な知識が活性化されやすい状態になることが欠かせない。精緻化方略はこの状態を目指す学習方略である。
ところが,先行研究の学習素材の多くは宣言的知識であり(e.g., 対連合学習),数学の学習内容の多くを占める手続き的知識とは異なる学習素材が扱われている。学習素材の差は学習方略の様相を変え得るので,本研究では,数学学習場面に限って,精緻化方略について精査することを目的とした。
2.方法
予備調査として,理学部数学科の大学院生5名への半構造化面接と,大学生・大学院生79名への自由記述調査に基づいて,数学学習場面における精緻化方略の項目群を作成した。次に,KJ法を参考にして,項目群をボトムアップに統合・分類した。最後に,この分類の妥当性を確認すべく,1都3県の4校の高校生1004名を対象に質問紙調査を行い,考えられた分類の妥当性を確認すべく,確認的因子分析を行った。調査項目は,作成した学習方略38項目と,学習観等39項目である。
3.結果
予備調査からは38項目が得られた。KJ法を参考にボトムアップに分類した結果,5つのカテゴリーに分けられると考えられた。
確認的因子分析では,38項目が1因子にまとまるモデル,5因子にまとまるモデル,5因子に加え階層因子を想定するモデルの3つについてモデル比較を行った。結果,階層因子を想定したモデルが最もよい適合を示した(CFI=.932, RMSEA=.060, SRMR=.029)。
4.考察
本研究からは,精緻化方略は粗く1因子で捉えられる一方,細かくは5つの要素に分類できることが示唆された。具体例との関連づけを意図した「具体例方略」,図と対応させながら学習を進める「図化方略」,公式・定理の導出過程や学習内容のルーツに意識を向ける「導出方略」,学習内容をわかりやすい形に換えて覚える「言い換え方略」,複数の学習内容や解法を比較する「比較方略」の5つである。それぞれの方略の項目例をTable 1に載せたので,参照されたい。
5つの方略の使用程度の得点を見ると,導出方略が,調査協力者の平均点と分散が共に最小であった。よって,高校生が押しなべて使用しない学習方略だと言えよう。このため,逆に,指導効果は高いと考えられる。実践への示唆としては,導出過程を知ることの効果の高い公式(e.g., 二倍角の公式;導出過程を知ることで,公式そのものを覚えずともよくなる)を用いて導出方略を紹介することで,学習者が導出方略を積極的に利用するよう方向づけることが,一案として挙げられる。
学習指導要領解説(数学編)では,適切な学習方略を用いる学習者の育成が課題として指摘されている。ここでは「適切な学習方略」として,知識の構造化を目指す精緻化方略を取り上げたい。
数学は,他教科に比べて覚えるべき内容が極めて少ない(浪川, 2007)。だからこそ数学では,知識を応用できることが目指される。そうなるためには,学習者の知識の網の目を密にし,必要な知識が活性化されやすい状態になることが欠かせない。精緻化方略はこの状態を目指す学習方略である。
ところが,先行研究の学習素材の多くは宣言的知識であり(e.g., 対連合学習),数学の学習内容の多くを占める手続き的知識とは異なる学習素材が扱われている。学習素材の差は学習方略の様相を変え得るので,本研究では,数学学習場面に限って,精緻化方略について精査することを目的とした。
2.方法
予備調査として,理学部数学科の大学院生5名への半構造化面接と,大学生・大学院生79名への自由記述調査に基づいて,数学学習場面における精緻化方略の項目群を作成した。次に,KJ法を参考にして,項目群をボトムアップに統合・分類した。最後に,この分類の妥当性を確認すべく,1都3県の4校の高校生1004名を対象に質問紙調査を行い,考えられた分類の妥当性を確認すべく,確認的因子分析を行った。調査項目は,作成した学習方略38項目と,学習観等39項目である。
3.結果
予備調査からは38項目が得られた。KJ法を参考にボトムアップに分類した結果,5つのカテゴリーに分けられると考えられた。
確認的因子分析では,38項目が1因子にまとまるモデル,5因子にまとまるモデル,5因子に加え階層因子を想定するモデルの3つについてモデル比較を行った。結果,階層因子を想定したモデルが最もよい適合を示した(CFI=.932, RMSEA=.060, SRMR=.029)。
4.考察
本研究からは,精緻化方略は粗く1因子で捉えられる一方,細かくは5つの要素に分類できることが示唆された。具体例との関連づけを意図した「具体例方略」,図と対応させながら学習を進める「図化方略」,公式・定理の導出過程や学習内容のルーツに意識を向ける「導出方略」,学習内容をわかりやすい形に換えて覚える「言い換え方略」,複数の学習内容や解法を比較する「比較方略」の5つである。それぞれの方略の項目例をTable 1に載せたので,参照されたい。
5つの方略の使用程度の得点を見ると,導出方略が,調査協力者の平均点と分散が共に最小であった。よって,高校生が押しなべて使用しない学習方略だと言えよう。このため,逆に,指導効果は高いと考えられる。実践への示唆としては,導出過程を知ることの効果の高い公式(e.g., 二倍角の公式;導出過程を知ることで,公式そのものを覚えずともよくなる)を用いて導出方略を紹介することで,学習者が導出方略を積極的に利用するよう方向づけることが,一案として挙げられる。