[PC009] 中国における学前教育についての一考察
成都市の幼稚園の視察・調査を通じて
キーワード:幼稚園, 子育て支援, 国際比較
1.問題と目的
近年においては,幼児教育は世界的な注目を集め,多方面からの研究がなされている。その背景の一つとして,女性の社会進出が進み,乳幼児の待機児童対策,働く女性への支援の問題が掲げられている。特に日本の同じアジア圏に位置している中国においては,女性も大切な労働力とされており,夫婦共働きの割合が高い。ベネッセ次世代育成研究所の報告によると,母親の就業率は東京が14.7%であるのに対して,北京72.9%,上海が79.9%である。これは中国の歴史的な背景が多きく関係しているのであろうが,それを支えている幼稚園の現状を探ることは意義深い。本発表においては,成都市の代表的な幼稚園の現状を探り,日本における幼児教育を検討していくうえでの手掛かりを得ることを目的とした。
2.視察対象・研究方法
視察対象は,内陸部の工業都市である四川省成都市のH実験幼児園とK幼児園(私立)である。両園の保育視察,並びに園長へのインタビューとアンケート調査を実施した。
3.現状報告と考察
成都市教育局は,2012年に「成都市幼児園各付け実施法」を公布し,児童・教師・施設・課程の4つの点からの評価を実施している。点数によって「省モデル幼児園」,「市一級幼児園」,「市二級幼児園」,「市三級幼児園」の格付けがなされており,H園は最上級の「「省モデル幼児園」であり,60余年の歴史を持っている成都大学学前教育学院の実習園である。本学院を卒業した優秀な学生を優先して採用し,学院の教員による研修指導が定期的に実施されている。教育内容には,バイリンガル教育,個性化の芸術活動,生活科の工作活動,開放的な教育活動,1歳~2歳児の乳児を対象とした親子活動,小学校と連携した教育活動などが組み込まれている。送迎にはスクールバスが運行されており,子どもの発達に関しては児童精神科教授が,英語教育はアメリカ国籍の教師が,給食献立は専門の栄養士が担当しており,中国の富裕層が望んでいる教育を展開しているといえる。中国では,子どもの誕生から日々成長している中で,「優秀な成績をとるのが良いこども」であるということを,家庭・社会・幼児園・学校でも言い続けており,北京の小学生の78.2%が「勉強のできる子になりたい」と思い,半数以上が音楽や絵画などの才能があればと願い,勉強がよくできる友達が好きなどと回答している(国際学習基本調査2006より)。H幼児園では,まさにこうした現状を視察することができた。一方のK幼児園は,園長が日中の幼児教育に精通されており,中国の文化に即しながら日本の幼児教育の良さを取り入れている。特に園と家庭との連携を重視し,積極的に学ぶ意欲のある子ども,自分で考える子どもを育てることを目標に,課題学習時間においても教師主導型ではなく,園児主体の活動が中心になるよう工夫されている(詳細については発表当日紹介)。両園とも園児たちは活発で,自己表現が大変豊かであった。中国の保育者養成機関のカリキュラムには,「学前児童科学教育活動指導」「学前児童ゲーム」「児童映画・ドラマ作品の鑑賞と分析」といった科目が設定されており,園児たちの自己表現の豊かさは,特に表現活動に力を入れた保育を展開していることが大きく影響しているとも言えよう。
中国の幼児園の日課の多くは登園7:30,降園18:00である。成都市にはすでに託児所は存在していないが,働く女性を支えるために保育時間は長く,1日3食の給食も提供されており,夏季休暇や冬季休暇も社会的ニーズや親の希望に応じて,平常通りの保育が展開されている。また,数は少ないが,月曜日から金曜日まで幼児園で宿泊し,土日のみ帰宅するという形態をとっている幼児園も存在している。中国の女性の社会進出を支えているその他の背景として,父親の家事・育児への参加率が高いということもある。今後はこうした社会背景への研究をしていくことが課題とされた。
中国上海は2012年に経済協力開発機構(OECD)が実施した65ヶ国・地域の学習到達度調査(PISA)結果においても,「読解力」,「数学的リテラシー(応用)」,「科学的リテラシー」の全3分野すべてで1位を独占している。これらの学力は小学校へ入学してから身に付くものではなく,乳幼児期からの思考力や判断力,表現力を育てる教育が影響していると言えよう。幼児教育は,生涯教育において,その後の人生の基礎を培う重要な段階と位置づけられるからである。
グローバル化が急速に進んでいる昨今においては,幼児教育を国際比較の視点から捉え続けていくことは不可欠な営みと言えよう。本研究は日中双方にとって意義深いものであったと考える。
近年においては,幼児教育は世界的な注目を集め,多方面からの研究がなされている。その背景の一つとして,女性の社会進出が進み,乳幼児の待機児童対策,働く女性への支援の問題が掲げられている。特に日本の同じアジア圏に位置している中国においては,女性も大切な労働力とされており,夫婦共働きの割合が高い。ベネッセ次世代育成研究所の報告によると,母親の就業率は東京が14.7%であるのに対して,北京72.9%,上海が79.9%である。これは中国の歴史的な背景が多きく関係しているのであろうが,それを支えている幼稚園の現状を探ることは意義深い。本発表においては,成都市の代表的な幼稚園の現状を探り,日本における幼児教育を検討していくうえでの手掛かりを得ることを目的とした。
2.視察対象・研究方法
視察対象は,内陸部の工業都市である四川省成都市のH実験幼児園とK幼児園(私立)である。両園の保育視察,並びに園長へのインタビューとアンケート調査を実施した。
3.現状報告と考察
成都市教育局は,2012年に「成都市幼児園各付け実施法」を公布し,児童・教師・施設・課程の4つの点からの評価を実施している。点数によって「省モデル幼児園」,「市一級幼児園」,「市二級幼児園」,「市三級幼児園」の格付けがなされており,H園は最上級の「「省モデル幼児園」であり,60余年の歴史を持っている成都大学学前教育学院の実習園である。本学院を卒業した優秀な学生を優先して採用し,学院の教員による研修指導が定期的に実施されている。教育内容には,バイリンガル教育,個性化の芸術活動,生活科の工作活動,開放的な教育活動,1歳~2歳児の乳児を対象とした親子活動,小学校と連携した教育活動などが組み込まれている。送迎にはスクールバスが運行されており,子どもの発達に関しては児童精神科教授が,英語教育はアメリカ国籍の教師が,給食献立は専門の栄養士が担当しており,中国の富裕層が望んでいる教育を展開しているといえる。中国では,子どもの誕生から日々成長している中で,「優秀な成績をとるのが良いこども」であるということを,家庭・社会・幼児園・学校でも言い続けており,北京の小学生の78.2%が「勉強のできる子になりたい」と思い,半数以上が音楽や絵画などの才能があればと願い,勉強がよくできる友達が好きなどと回答している(国際学習基本調査2006より)。H幼児園では,まさにこうした現状を視察することができた。一方のK幼児園は,園長が日中の幼児教育に精通されており,中国の文化に即しながら日本の幼児教育の良さを取り入れている。特に園と家庭との連携を重視し,積極的に学ぶ意欲のある子ども,自分で考える子どもを育てることを目標に,課題学習時間においても教師主導型ではなく,園児主体の活動が中心になるよう工夫されている(詳細については発表当日紹介)。両園とも園児たちは活発で,自己表現が大変豊かであった。中国の保育者養成機関のカリキュラムには,「学前児童科学教育活動指導」「学前児童ゲーム」「児童映画・ドラマ作品の鑑賞と分析」といった科目が設定されており,園児たちの自己表現の豊かさは,特に表現活動に力を入れた保育を展開していることが大きく影響しているとも言えよう。
中国の幼児園の日課の多くは登園7:30,降園18:00である。成都市にはすでに託児所は存在していないが,働く女性を支えるために保育時間は長く,1日3食の給食も提供されており,夏季休暇や冬季休暇も社会的ニーズや親の希望に応じて,平常通りの保育が展開されている。また,数は少ないが,月曜日から金曜日まで幼児園で宿泊し,土日のみ帰宅するという形態をとっている幼児園も存在している。中国の女性の社会進出を支えているその他の背景として,父親の家事・育児への参加率が高いということもある。今後はこうした社会背景への研究をしていくことが課題とされた。
中国上海は2012年に経済協力開発機構(OECD)が実施した65ヶ国・地域の学習到達度調査(PISA)結果においても,「読解力」,「数学的リテラシー(応用)」,「科学的リテラシー」の全3分野すべてで1位を独占している。これらの学力は小学校へ入学してから身に付くものではなく,乳幼児期からの思考力や判断力,表現力を育てる教育が影響していると言えよう。幼児教育は,生涯教育において,その後の人生の基礎を培う重要な段階と位置づけられるからである。
グローバル化が急速に進んでいる昨今においては,幼児教育を国際比較の視点から捉え続けていくことは不可欠な営みと言えよう。本研究は日中双方にとって意義深いものであったと考える。