[PC016] 縦断的調査による大学初年次の学習への深いアプローチの変容の検討
キーワード:学習への深いアプローチ, 縦断調査
1.問題と目的
今日の大学教育では主体的に考える力の育成のため,行動面だけでなく認知面の能動性にも注目し,学生にそれを促していく必要がある (松下・田口, 2012)。そのような学習における認知面の能動性を捉える概念として,「学習へのアプローチ(approaches to learning)」がある。学習へのアプローチは深いアプローチと浅いアプローチに大きく分類される。深いアプローチとは,主体的にその概念を理解することを意図し,その概念を既有の知識や経験に関連付けたり論理や議論を批判的に吟味したりする方略を用いるアプローチである。それに対して,浅いアプローチとは,コースや授業の要求に合わせることを意図し,目的も方法も検討することなく勉強したり,事実や手続きを記憶し繰り返したりする方略を用いるアプローチである (Entwistle, 2009)。大学に入学したばかりの初年次生の多くは受験勉強型の浅いアプローチを身につけていると考えられる (松下・田口, 2012)。このような状況下で学生に対し,深いアプローチをとるようにその傾向の変容を促していくことが今日の大学教育に求められているといえる。
Entwistle(2009)は,大学での学年が上がるごとに知識/学習の捉え方は洗練されていき,より深いプローチをとるようになり,浅いアプローチをとらなくなるとしている。しかし,いくつかの実証的縦断的研究は,学年が上がっても深いアプローチに有意な上昇が見られなかったと,それを否定している (例えばLietz & Matthews, 2010; Watkins & Hattie, 1985; Zeegers, 2001)。
ただし,これらの先行研究は専門領域の交絡の問題を指摘できる。また,すべての学生が同じような変容の軌跡をたどるとは限らず,変容のパターンがいくつか存在した場合,そのパターンごとに分析を行なうことで,より詳細な知見が得られると考えられる。
そこで本報告では,専門領域の交絡を極力小さくするために様々な大学の大学初年次生を対象とし,4月中旬から7月中旬の深いアプローチを縦断的に測定し,深いアプローチに変容が見られるかどうかを検討する。その際,潜在クラス成長分析によって,異なる成長曲線を示すような潜在クラスが存在する可能性があることも考慮しながら,深いアプローチの変容の様相を検討する。
2.方法
2012年度前期4月中旬,5月下旬,7月上旬~中旬の3回にわたり,無記名の個人記入形式の質問紙を大学の講義中に配布し,一斉に実施した。
調査協力者は,4つの大学の大学初年次生479名(男性306名,女性172名,不明1名),平均年齢は18.3歳(SD=0.59)であった。
調査内容は,Entwistle(1997)によって作成された,学習へのアプローチを測定する尺度であるASSISTの52項目のうち,その下位尺度の「深いアプローチ」を測定する17項目を邦訳して使用した.特定のコースではなく,履修しているコース全般に関して,「全くあてはまらない~非常によくあてはまる」の6件法評定での回答を求めた。
3.結果と考察
まず,「深いアプローチ」のそれぞれの時点での平均値はおよそ0.1ずつ上昇していた(表1)。時点を独立変数とする被験者内1要因分散分析を行なったところ,時点の主効果が有意であり(F (2, 478)=35.19, p<.05),多重比較の結果,それぞれの時点で有意な変容が認められた(p<.05)。これらの結果から,大学初年次において,学生の「深いアプローチ」は上昇する傾向にあるといえる。
また,潜在クラス成長分析によって異なる成長曲線を示すような潜在クラスを探索したところ,解釈可能性の高い3クラスが見出された(図1)。変容の度合いはほぼ同様であり,1時点目の高低が3時点目まで保たれ,それがクラスの分類に表れたといえよう。以上より,大学初年次生において,変容の仕方はいくつか見出されるが,基本的には学習への深いアプローチは上昇するという傾向が見出された。今後は,それぞれのクラスにおいて,その変容を規定する要因などの検討が必要である。
今日の大学教育では主体的に考える力の育成のため,行動面だけでなく認知面の能動性にも注目し,学生にそれを促していく必要がある (松下・田口, 2012)。そのような学習における認知面の能動性を捉える概念として,「学習へのアプローチ(approaches to learning)」がある。学習へのアプローチは深いアプローチと浅いアプローチに大きく分類される。深いアプローチとは,主体的にその概念を理解することを意図し,その概念を既有の知識や経験に関連付けたり論理や議論を批判的に吟味したりする方略を用いるアプローチである。それに対して,浅いアプローチとは,コースや授業の要求に合わせることを意図し,目的も方法も検討することなく勉強したり,事実や手続きを記憶し繰り返したりする方略を用いるアプローチである (Entwistle, 2009)。大学に入学したばかりの初年次生の多くは受験勉強型の浅いアプローチを身につけていると考えられる (松下・田口, 2012)。このような状況下で学生に対し,深いアプローチをとるようにその傾向の変容を促していくことが今日の大学教育に求められているといえる。
Entwistle(2009)は,大学での学年が上がるごとに知識/学習の捉え方は洗練されていき,より深いプローチをとるようになり,浅いアプローチをとらなくなるとしている。しかし,いくつかの実証的縦断的研究は,学年が上がっても深いアプローチに有意な上昇が見られなかったと,それを否定している (例えばLietz & Matthews, 2010; Watkins & Hattie, 1985; Zeegers, 2001)。
ただし,これらの先行研究は専門領域の交絡の問題を指摘できる。また,すべての学生が同じような変容の軌跡をたどるとは限らず,変容のパターンがいくつか存在した場合,そのパターンごとに分析を行なうことで,より詳細な知見が得られると考えられる。
そこで本報告では,専門領域の交絡を極力小さくするために様々な大学の大学初年次生を対象とし,4月中旬から7月中旬の深いアプローチを縦断的に測定し,深いアプローチに変容が見られるかどうかを検討する。その際,潜在クラス成長分析によって,異なる成長曲線を示すような潜在クラスが存在する可能性があることも考慮しながら,深いアプローチの変容の様相を検討する。
2.方法
2012年度前期4月中旬,5月下旬,7月上旬~中旬の3回にわたり,無記名の個人記入形式の質問紙を大学の講義中に配布し,一斉に実施した。
調査協力者は,4つの大学の大学初年次生479名(男性306名,女性172名,不明1名),平均年齢は18.3歳(SD=0.59)であった。
調査内容は,Entwistle(1997)によって作成された,学習へのアプローチを測定する尺度であるASSISTの52項目のうち,その下位尺度の「深いアプローチ」を測定する17項目を邦訳して使用した.特定のコースではなく,履修しているコース全般に関して,「全くあてはまらない~非常によくあてはまる」の6件法評定での回答を求めた。
3.結果と考察
まず,「深いアプローチ」のそれぞれの時点での平均値はおよそ0.1ずつ上昇していた(表1)。時点を独立変数とする被験者内1要因分散分析を行なったところ,時点の主効果が有意であり(F (2, 478)=35.19, p<.05),多重比較の結果,それぞれの時点で有意な変容が認められた(p<.05)。これらの結果から,大学初年次において,学生の「深いアプローチ」は上昇する傾向にあるといえる。
また,潜在クラス成長分析によって異なる成長曲線を示すような潜在クラスを探索したところ,解釈可能性の高い3クラスが見出された(図1)。変容の度合いはほぼ同様であり,1時点目の高低が3時点目まで保たれ,それがクラスの分類に表れたといえよう。以上より,大学初年次生において,変容の仕方はいくつか見出されるが,基本的には学習への深いアプローチは上昇するという傾向が見出された。今後は,それぞれのクラスにおいて,その変容を規定する要因などの検討が必要である。