[PC021] 科学的探究能力に対する自己評価の正確さ
中学生を対象とした評価問題と質問紙の比較調査を通して
キーワード:科学的探究, メタ認知, モニタリング
はじめに
科学的探究能力の育成は我が国中学校理科の目標に掲げられ,主体的な観察や実験を通して得られた結果を分析し解釈する能力を育成することが重視されている(文部科学省,2008)。また,21世紀型スキルに代表される次世代型教育においても科学的探究能力の育成は重要な位置を占める。
しかし,科学的探究のプロセスは仮説の形成や実験のデザインなど様々な活動や要素を含み複雑であるため,メタ認知を十分に働かせ適切なモニタリングを通して探究活動をコントロールする必要があるが(White et al., 2009),中学生が科学的探究能力に対して適切にモニタリングできるかに関しては十分な検討がなされていない。
そこで,本研究では科学的探究のプロセスを「仮説の形成と評価」「観察・実験の計画」「結果の解釈」の3つで捉えて評価問題と質問紙を作成し,評価問題の成績と質問紙への回答結果を比較することで,中学生の科学的探究能力に対する自己評価の正確さについて検討することを目的とした。
方 法
対象と手続き 対象は岩手県内の公立中学校1校の全校生徒(1年生41名,2年生40名,3年生31名)であった。調査は2014年11月の連続する2日間で実施され,初日は質問紙,2日目は評価問題に割り当てられた。
評価問題 評価問題はOECDが実施するPISAの科学的リテラシー領域の問題とBurns et al.(1985)が開発したTIPS-Ⅱ(Test of Integrated Process Skills-Ⅱ)をベースに作成された(計14問で各プロセス5点の15点満点)。
質問紙 質問紙は,小林(2013)が小中学生の理科の観察・実験を通した問題解決活動を分析するために作成した質問紙と,木下ら(2012)が理科の観察・実験活動における学習の実態を明らかにするために作成した質問紙をベースに作成され,5件法で回答を求めた。項目数は「仮説の形成と評価」が7項目,「観察・実験の計画」が5項目,「結果の解釈」が8項目の計20項目であった。
結果と考察
評価問題と質問紙の平均値をFigure 1に示す。評価問題は学年進行とともに上昇したが,質問紙は学年進行とともに減少した。評価問題と質問紙について学年差を比較するため分散分析を行った結果,評価問題では有意差は認められなかったが(F(2,104)=1.72, n.s.),質問紙では有意差が認められた(F(2,106)=5.35, p<.01, η2=.09)。そのためTukey法による多重比較を行った結果,1年生は3年生よりも有意に高かった(p<.05, d=.78)。
次に,評価問題と質問紙の相関係数をTable 1に示す。3プロセス全体において,1年生では有意な相関は認められなかったが,2・3年生では有意な正の相関が認められた(順にp<.05; p<.01)。
以上の結果から,中学1年生は科学的探究能力に対して適切な自己評価(メタ認知的モニタリング)を行うことは困難であるが,その後学年進行に伴って徐々に正確さを増すことが示された。しかし,1年生において相関が見られなかった原因について,モニタリング能力が未発達であったという見方の他に,質問紙への回答の際に想起した科学的探究の活動内容が学年によって異なっていた可能性が考えられる。さらに,Van der Stel & Veenman(2014)が指摘するメタ認知的スキルの領域一般化に関連して生じる問題等も考えられるため,原因の特定にはさらなる調査と分析を行い,慎重に判断する必要がある。
科学的探究能力の育成は我が国中学校理科の目標に掲げられ,主体的な観察や実験を通して得られた結果を分析し解釈する能力を育成することが重視されている(文部科学省,2008)。また,21世紀型スキルに代表される次世代型教育においても科学的探究能力の育成は重要な位置を占める。
しかし,科学的探究のプロセスは仮説の形成や実験のデザインなど様々な活動や要素を含み複雑であるため,メタ認知を十分に働かせ適切なモニタリングを通して探究活動をコントロールする必要があるが(White et al., 2009),中学生が科学的探究能力に対して適切にモニタリングできるかに関しては十分な検討がなされていない。
そこで,本研究では科学的探究のプロセスを「仮説の形成と評価」「観察・実験の計画」「結果の解釈」の3つで捉えて評価問題と質問紙を作成し,評価問題の成績と質問紙への回答結果を比較することで,中学生の科学的探究能力に対する自己評価の正確さについて検討することを目的とした。
方 法
対象と手続き 対象は岩手県内の公立中学校1校の全校生徒(1年生41名,2年生40名,3年生31名)であった。調査は2014年11月の連続する2日間で実施され,初日は質問紙,2日目は評価問題に割り当てられた。
評価問題 評価問題はOECDが実施するPISAの科学的リテラシー領域の問題とBurns et al.(1985)が開発したTIPS-Ⅱ(Test of Integrated Process Skills-Ⅱ)をベースに作成された(計14問で各プロセス5点の15点満点)。
質問紙 質問紙は,小林(2013)が小中学生の理科の観察・実験を通した問題解決活動を分析するために作成した質問紙と,木下ら(2012)が理科の観察・実験活動における学習の実態を明らかにするために作成した質問紙をベースに作成され,5件法で回答を求めた。項目数は「仮説の形成と評価」が7項目,「観察・実験の計画」が5項目,「結果の解釈」が8項目の計20項目であった。
結果と考察
評価問題と質問紙の平均値をFigure 1に示す。評価問題は学年進行とともに上昇したが,質問紙は学年進行とともに減少した。評価問題と質問紙について学年差を比較するため分散分析を行った結果,評価問題では有意差は認められなかったが(F(2,104)=1.72, n.s.),質問紙では有意差が認められた(F(2,106)=5.35, p<.01, η2=.09)。そのためTukey法による多重比較を行った結果,1年生は3年生よりも有意に高かった(p<.05, d=.78)。
次に,評価問題と質問紙の相関係数をTable 1に示す。3プロセス全体において,1年生では有意な相関は認められなかったが,2・3年生では有意な正の相関が認められた(順にp<.05; p<.01)。
以上の結果から,中学1年生は科学的探究能力に対して適切な自己評価(メタ認知的モニタリング)を行うことは困難であるが,その後学年進行に伴って徐々に正確さを増すことが示された。しかし,1年生において相関が見られなかった原因について,モニタリング能力が未発達であったという見方の他に,質問紙への回答の際に想起した科学的探究の活動内容が学年によって異なっていた可能性が考えられる。さらに,Van der Stel & Veenman(2014)が指摘するメタ認知的スキルの領域一般化に関連して生じる問題等も考えられるため,原因の特定にはさらなる調査と分析を行い,慎重に判断する必要がある。