[PC022] 食品リテラシーと批判的思考態度の関係
教職課程履修者における検討
キーワード:批判的思考態度, 食育, 食品リスクリテラシー
目的
本研究では,教員免許状の取得を希望している大学生の食品や食品リスクに関わるリテラシーについて明らかにする。さらに,食品リスクリテラシーとの関係がみられている批判的思考(e.g., 楠見・平山,2013)との関係についても検討する。
近年,さまざまなメディアを通じて,食に関する情報があふれており,これらの情報を理解し活用するためのリテラシーが求められている。さらに,教育に携わるものは,食育基本法において「食に関する関心及び理解の増進」の責務があるとされている。そのためには,教員が持つ食についてのリテラシーを高めることが必要となるが,現在の教職課程の中では,特に食に関する科目を履修することは定められていない。今後の食育を考えるうえで,教職志望者の持つ食に関わるリテラシーを把握し,それらを高める要因を検討することが重要であると考えられる。
方法
参加者 芸術系私立大学生89名(男性12名,女性77名,平均年齢19.7歳)であった。なお,回答に欠損のあった19名は,後の分析より除外した。
材料 (1)食育関連領域への関心 食育に関わると考えられる6項目(食と人体の関係,健康,美容,痩身,科学,薬や医療)について,どの程度関心があるか「1:関心がない」から「5:関心がある」の5段階で評定させた。(2)食品リスク知識尺度 食品リスクに関する知識をどの程度持っているかを測定する正誤問題を用いた。楠見・平山(2013)で使用された7項目に加えて,人工物と自然物,無農薬野菜,鶏の生肉についての3項目を追加し,合計10項目について「正しい」「正しくない」「わからない」のいずれかで回答を求めた。(3)食品リスク情報理解尺度(楠見・平山,2013) 食品リスクに関わる疫学データなどの科学的情報の見方に関する知識量を測定する6項目について,「知っていましたか」 という問いに対し「知らなかった」,「知っていた」のいずれかで回答を求めた。(4)食品リスクリテラシー尺度(楠見・平山,2009) 日常における食品のリスク情報等についてのリテラシーについて,11項目であった。(5)批判的思考態度尺度 (平山・楠見,2004)の改訂版 「論理的思考の自覚」,「探求心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子各3項目の,合計12項目で構成された。(6)認知的熟慮性-衝動性尺度(滝聞・坂元,1991) ある判断をするのに,より多くの情報を収集し,じっくり考えて慎重に結論を下す人かどうかの認知傾向を測定するものであり,10項目で構成された。(4)(5)(6)の各尺度の項目について,「1:あてはまらない」から「5:あてはまる」の5段階で評定させた。
手続き 教職科目の講義中に質問紙を配布し,調査を実施した。回答時間は,15分であった。回答後,質問紙を回収し,さらに質問紙と同様のプリントを配布し,各項目についての解説を行った。
結果と考察
(1)食育関係領域への関心について,評定値が4以上の者を見ると,食と人体の関係62.9%,健康77.1%,美容74.3,痩身71.4%と高い関心がみられるものの,その理解に必要と考えられる科学は20.0%,医療は42.9%と関心は低かった。(2)食品リスク知識は,「鳥の生肉」が57.1%と最も正答率が高く,その他については14.3-32.9%と,低い正答率であった。(3)食品リスク情報理解について,「知っていた」と回答した者は,52.9-84.3%であった。(4)食品リスクリテラシー尺度について主成分分析を行ったところ,「野菜や果物を買うときや食べるときは無農薬であるかどうかを気にする」などの項目が負荷の高い「食品リスクリテラシー意識」と「食品の安全性のための情報を日頃から積極的に集めている」などの項目が負荷の高い「食品リスクリテラシー行動」の2因子が抽出された。各因子得点の平均値は,Ms=2.83, 3.11であった。
(2)(3)(4)の得点と,批判的思考態度および熟慮性との相関をみると(表1),「論理的思考」「探究心」「証拠の重視」が(2)(3)の食品知識や科学リテラシーと正の相関がみられ,「客観性」は(4)の行動因子と正の相関がみられた。つまり,批判的思考態度が食品の知識やリテラシーと関わることが示された。
註
本研究は,科学研究費(23243071)の補助を受けて行われた。
本研究では,教員免許状の取得を希望している大学生の食品や食品リスクに関わるリテラシーについて明らかにする。さらに,食品リスクリテラシーとの関係がみられている批判的思考(e.g., 楠見・平山,2013)との関係についても検討する。
近年,さまざまなメディアを通じて,食に関する情報があふれており,これらの情報を理解し活用するためのリテラシーが求められている。さらに,教育に携わるものは,食育基本法において「食に関する関心及び理解の増進」の責務があるとされている。そのためには,教員が持つ食についてのリテラシーを高めることが必要となるが,現在の教職課程の中では,特に食に関する科目を履修することは定められていない。今後の食育を考えるうえで,教職志望者の持つ食に関わるリテラシーを把握し,それらを高める要因を検討することが重要であると考えられる。
方法
参加者 芸術系私立大学生89名(男性12名,女性77名,平均年齢19.7歳)であった。なお,回答に欠損のあった19名は,後の分析より除外した。
材料 (1)食育関連領域への関心 食育に関わると考えられる6項目(食と人体の関係,健康,美容,痩身,科学,薬や医療)について,どの程度関心があるか「1:関心がない」から「5:関心がある」の5段階で評定させた。(2)食品リスク知識尺度 食品リスクに関する知識をどの程度持っているかを測定する正誤問題を用いた。楠見・平山(2013)で使用された7項目に加えて,人工物と自然物,無農薬野菜,鶏の生肉についての3項目を追加し,合計10項目について「正しい」「正しくない」「わからない」のいずれかで回答を求めた。(3)食品リスク情報理解尺度(楠見・平山,2013) 食品リスクに関わる疫学データなどの科学的情報の見方に関する知識量を測定する6項目について,「知っていましたか」 という問いに対し「知らなかった」,「知っていた」のいずれかで回答を求めた。(4)食品リスクリテラシー尺度(楠見・平山,2009) 日常における食品のリスク情報等についてのリテラシーについて,11項目であった。(5)批判的思考態度尺度 (平山・楠見,2004)の改訂版 「論理的思考の自覚」,「探求心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子各3項目の,合計12項目で構成された。(6)認知的熟慮性-衝動性尺度(滝聞・坂元,1991) ある判断をするのに,より多くの情報を収集し,じっくり考えて慎重に結論を下す人かどうかの認知傾向を測定するものであり,10項目で構成された。(4)(5)(6)の各尺度の項目について,「1:あてはまらない」から「5:あてはまる」の5段階で評定させた。
手続き 教職科目の講義中に質問紙を配布し,調査を実施した。回答時間は,15分であった。回答後,質問紙を回収し,さらに質問紙と同様のプリントを配布し,各項目についての解説を行った。
結果と考察
(1)食育関係領域への関心について,評定値が4以上の者を見ると,食と人体の関係62.9%,健康77.1%,美容74.3,痩身71.4%と高い関心がみられるものの,その理解に必要と考えられる科学は20.0%,医療は42.9%と関心は低かった。(2)食品リスク知識は,「鳥の生肉」が57.1%と最も正答率が高く,その他については14.3-32.9%と,低い正答率であった。(3)食品リスク情報理解について,「知っていた」と回答した者は,52.9-84.3%であった。(4)食品リスクリテラシー尺度について主成分分析を行ったところ,「野菜や果物を買うときや食べるときは無農薬であるかどうかを気にする」などの項目が負荷の高い「食品リスクリテラシー意識」と「食品の安全性のための情報を日頃から積極的に集めている」などの項目が負荷の高い「食品リスクリテラシー行動」の2因子が抽出された。各因子得点の平均値は,Ms=2.83, 3.11であった。
(2)(3)(4)の得点と,批判的思考態度および熟慮性との相関をみると(表1),「論理的思考」「探究心」「証拠の重視」が(2)(3)の食品知識や科学リテラシーと正の相関がみられ,「客観性」は(4)の行動因子と正の相関がみられた。つまり,批判的思考態度が食品の知識やリテラシーと関わることが示された。
註
本研究は,科学研究費(23243071)の補助を受けて行われた。