日本教育心理学会第57回総会

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2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC025] 母国語の聴き取り能力における発音速度の影響

古島時夫1, 岸学2 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学)

キーワード:聴き取り能力, 発音速度, 作業記憶

問題と目的
母国語音声の聴き取り能力は,教育場面に限らず日常生活でも非常に重要な能力である。しかし,半田(2012)によれば,母語話者と留学生の日本語聴解テスト結果,必ずしも母語話者の成績が優位ではなかった。これは,教育現場での適切な聴き取り指導の必要性を示唆していると考えられる。
Futatsuya(2001)らは,英語の聴き取り能力について,発音速度の個人差が影響していることを示した。これは,発音速度の速さが,音声記憶に有効なリハーサルを効率化するためだと考えられる。
そこで本研究では,Futatsuyaらの実験を日本語の音声を用いて追試し,発音速度が母国語の聴き取りにも影響するのかを確認する。その際,実験1と2で文章内容を変え,内容による影響の違いについても検討する。また,両実験において,音韻的短期記憶を反映する順唱課題,作業記憶を反映する逆唱課題を「数唱課題」として実施し,聴き取り能力に影響する要因を更に検討する。
実 験 1
実験参加者 大学生20名
要因計画 参加者間要因:発音速度(速,中,遅)・順唱得点(高,低)・逆唱得点(高,低)
参加者内要因:音声呈示方法(認知無・変化無,認知有・変化無,認知有・変化有)
材料 数唱課題:順唱,逆唱共に14問を独自に作成。発音速度測定用音声:日本語の短文24文。1文につき3度呈示。呈示方法を,認知負荷量の観点から3種類設定した。聴き取り能力測定用音声:説明文音声9個。呈示方法を,同様に3種類設定した。
手続き ①順唱,逆唱の順に数唱課題を実施。②発音速度を測定。1文につき3度呈示し,同じ内容をなるべく早口で発声させ,発声に要した時間を記録した。③聴き取り能力を測定。1文を3度呈示した後,その内容についてのテストを実施した。
実 験 2
実験参加者 大学生36名
要因計画 参加者間要因:発音速度(速,中,遅)・順唱得点(高,低)・逆唱得点(高,低)
材料 数唱課題:実験1と同様の課題を使用。発音速度測定用音声:実験1と同様の音声を使用。聴き取り能力測定用音声:対話文音声を3個作成した。
手続き ①数唱課題を実施。②発音速度を測定。③聴解力測定用音声を呈示。1音声につき1度だけ呈示した後,その内容についてのテストを実施した。
結 果
実験1において,発音速度の差による聴き取り能力の違いを検討したところ,発音速度速群の方が遅群よりも聴き取り能力が高かった(F(2,17)=4.132, p<.05)(Figure1)。また,数唱課題得点の差による違いを検討したところ,逆唱高群の方が低群よりも,聴き取り能力が高かった(F(1,18)=4.710, p<.05)。
次に,実験2において同様に検討をした結果,発音速度,順唱得点,逆唱得点の3要因について,聴き取り能力への影響はみられなかった。
考 察
実験1の結果,説明文の聴き取りでは発音速度の影響がみられた。これは,発音速度の速さが音声を記憶する際のリハーサルを効率化し,少ない労力での音声内容の理解が可能になるためだと考えられる。また,母国語の聴き取りにおいて作業記憶の影響がみられ,音韻的短期記憶の影響はみられなかった。これは,母国語音声の理解には,音声を記憶するだけでなく,その上で情報の操作を行う必要があることを示している。それに対して,実験2の対話文聴き取りにおいては,発音速度や作業記憶の影響がみられなかった。これは,聴き取る内容の種類によって,内容理解に必要な能力が異なることを示唆している。
これらの結果から,呈示速度の速い音声の聴き取りを繰り返し行うことでリハーサルの効率が高まり,母国語の説明文音声の聴き取り能力が向上すると考えられる。