[PC028] 大きな問いを扱う教育が適応感に及ぼす影響
キーワード:スピリチュアリティ, 批判的思考, 高等教育
問題と目的
スピリチュアリティの構成概念の一つに,実存的・宗教的問いに代表される「大きな問い(big question)」がある。近年,大学生の「問い」に関する調査が行われ,例えば批判的思考態度を媒介して,学習意欲や進路選択行動に正の影響を及ぼすこと(村上,2013b; 2014b),講義内でこうした問いについて思慮した頻度は,授業に対する有意義度を,有意傾向ながら予測することが明らかになっている(村上,2014a)。
本研究では,こうした効果をより詳細に検討するために,大学授業においてこうした問いを思慮した頻度が,適応感にいかなる影響を及ぼすかを縦断的に調査する。その際,授業有意義度と批判的思考態度に焦点をあて,変数間の関連性を検討したい。
方 法
対象者 欠損値やフィラー項目への回答が確認された調査協力者を除外し,最終的に,大学生37名を分析対象とした(男性19名,女性18名;平均年齢18.89歳, SD=1.07)。
調査方法 授業の一環として調査を実施した(第6回と第15回の講義終了後)。調査協力は自由であること,プライバシーの保護等について事前に説明し,教育・研究使用の許可が得られた者を分析の対象とした。
質問紙の構成 (1)Big Question尺度(BQS; 村上, 2012):「大きな問い」に関する17項目,6件法(講義内で思慮した頻度);(2)批判的思考態度尺度(平山・楠見, 2004):「探究心」と「客観性」に関する17項目,5件法;(3)青年用適応感尺度(大久保,2005):「劣等感の無さ」と「課題・目的の存在」に関する13項目,5件法;(4)授業評価:「有意義でなかった:1点」~「有意義だった: 10点」。
教育の概要 講義は,全15回の心理学の一般教養であった。幸福,ストレス,ソマティック心理学,恋愛,友人関係,集団・文化,発達,コスモロジー教育,超越など,実存,価値,超越,宇宙に関するテーマが扱われた。
結 果
各尺度に含まれる項目の素点を合計し尺度得点を算出した後,ポスト得点からプレ得点を除した値で,変化量を算出した。中心化した各下位尺度,およびその積によって作成した交互作用項を独立変数に,適応感を従属変数とした重回帰分析を行った。
その結果,BQS,客観性,有意義度を独立変数に,課題・目的の存在を従属変数とする重回帰式が有意であり(F(7, 29)=2.72, p=.03, R2=.25),BQS(β=.45,t=2.97,p=.01,VIF=1.11)と客観性(β=.45,t=2.50,p=.02,VIF=1.56)が有意な予測因となった。一方,授業に対する有意義度(β=-.01,t=0.05,p=.96,VIF=1.11),およびそれぞれの独立変数間の交互作用は,いずれも有意ではなかった。
考 察
本研究より,2ヶ月という期間ではあるが,講義を通して大きな問いについて考える頻度が増加した受講生は,大学で成長し,将来に役立つことが学べているという感覚が向上することが明らかになった。先行研究では,問いについて探求するほど大学満足度は低下していたが(Astin et al.,2011),本研究の結果は,大学の講義という構造化された状況で問いを扱うことは,むしろ適応感を高めることを示唆するものであった。
一方,BQSはその他の変数との交互作用を示さなかったため,問いから適応感への正の影響を調整する変数を解明することが,今後の課題である。
主な引用文献
Astin, A., Astin, H., & Lindholm, J. (2011). Cultivating the Spirit. San Francisco, CA: Jossey-Bass.
スピリチュアリティの構成概念の一つに,実存的・宗教的問いに代表される「大きな問い(big question)」がある。近年,大学生の「問い」に関する調査が行われ,例えば批判的思考態度を媒介して,学習意欲や進路選択行動に正の影響を及ぼすこと(村上,2013b; 2014b),講義内でこうした問いについて思慮した頻度は,授業に対する有意義度を,有意傾向ながら予測することが明らかになっている(村上,2014a)。
本研究では,こうした効果をより詳細に検討するために,大学授業においてこうした問いを思慮した頻度が,適応感にいかなる影響を及ぼすかを縦断的に調査する。その際,授業有意義度と批判的思考態度に焦点をあて,変数間の関連性を検討したい。
方 法
対象者 欠損値やフィラー項目への回答が確認された調査協力者を除外し,最終的に,大学生37名を分析対象とした(男性19名,女性18名;平均年齢18.89歳, SD=1.07)。
調査方法 授業の一環として調査を実施した(第6回と第15回の講義終了後)。調査協力は自由であること,プライバシーの保護等について事前に説明し,教育・研究使用の許可が得られた者を分析の対象とした。
質問紙の構成 (1)Big Question尺度(BQS; 村上, 2012):「大きな問い」に関する17項目,6件法(講義内で思慮した頻度);(2)批判的思考態度尺度(平山・楠見, 2004):「探究心」と「客観性」に関する17項目,5件法;(3)青年用適応感尺度(大久保,2005):「劣等感の無さ」と「課題・目的の存在」に関する13項目,5件法;(4)授業評価:「有意義でなかった:1点」~「有意義だった: 10点」。
教育の概要 講義は,全15回の心理学の一般教養であった。幸福,ストレス,ソマティック心理学,恋愛,友人関係,集団・文化,発達,コスモロジー教育,超越など,実存,価値,超越,宇宙に関するテーマが扱われた。
結 果
各尺度に含まれる項目の素点を合計し尺度得点を算出した後,ポスト得点からプレ得点を除した値で,変化量を算出した。中心化した各下位尺度,およびその積によって作成した交互作用項を独立変数に,適応感を従属変数とした重回帰分析を行った。
その結果,BQS,客観性,有意義度を独立変数に,課題・目的の存在を従属変数とする重回帰式が有意であり(F(7, 29)=2.72, p=.03, R2=.25),BQS(β=.45,t=2.97,p=.01,VIF=1.11)と客観性(β=.45,t=2.50,p=.02,VIF=1.56)が有意な予測因となった。一方,授業に対する有意義度(β=-.01,t=0.05,p=.96,VIF=1.11),およびそれぞれの独立変数間の交互作用は,いずれも有意ではなかった。
考 察
本研究より,2ヶ月という期間ではあるが,講義を通して大きな問いについて考える頻度が増加した受講生は,大学で成長し,将来に役立つことが学べているという感覚が向上することが明らかになった。先行研究では,問いについて探求するほど大学満足度は低下していたが(Astin et al.,2011),本研究の結果は,大学の講義という構造化された状況で問いを扱うことは,むしろ適応感を高めることを示唆するものであった。
一方,BQSはその他の変数との交互作用を示さなかったため,問いから適応感への正の影響を調整する変数を解明することが,今後の課題である。
主な引用文献
Astin, A., Astin, H., & Lindholm, J. (2011). Cultivating the Spirit. San Francisco, CA: Jossey-Bass.