[PC029] 学習状況が使用する方略の選択に与える影響
試験までの日数,既学習の割合,学習容易性による仮想的検討
Keywords:学習方略, メタ認知的知識, 学習容易性判断
学習者がある方略を選択する際に,試験までの期間や,すでに終えている学習の割合,残りの学習の容易性などの主観的な判断が影響していると考えられる。試験までの期間と学習容易性に関して,Son & Metcalfe(2000)は学習時間に制限がある場合は容易だと感じた内容に時間を割き,無制限では難しい内容に時間を割くという,方略の違いを示した。また,意思決定場面では当事者が置かれている状況が,選択に影響することが知られている(cf. Kahneman, 1992)。学習場面では,試験範囲のうちすでに終えている学習の割合が,学習者が置かれている状況に当たると考えられる。
目的 本研究は,試験までの期間,既学習の割合,学習容易性を明確にした上で,村山(2003b)や山口(2012)の有効性,コストなどのメタ認知的知識が方略選択に与える影響を明確にする。
方 法
調査対象者 都内の2大学の授業中に実施した。参加者は調査の趣旨に賛同が得られた大学生580名(男性265名,女性309名,不明6名;年齢範囲18-26歳)であった。
質問紙 大学での一般的な学習について状況設定をし,二つの方略について使用するか尋ねた。状況は,試験までの日数(1日vs.7日; 参加者間),学習容易性判断(易しいvs. 難しい; 参加者内),既学習の割合(80% vs. 20%; 参加者内)を組み合わせ呈示した。方略は村山(2003a, b)を参考に,意味理解が伴う深い処理と丸暗記などの浅い処理を作成した。いずれも方略研究や記憶研究から提案されている有効性とコストを補足として示した。有効性とコスト,有効性のみ,コストのみ,方略の記述のみ,の参加者間4条件であった。
結 果
参加者内要因をレベル1,参加者間要因をレベル2としたマルチレベルの分析を行った。記述統計量をTable 1に示す。有効性とコスト×方略(β=-0.11),既学習の割合×方略(β=0.13),学習容易性判断×方略(β=0.12),有効性×学習容易性判断×方略(β=0.05),試験までの日数×学習容易性判断×方略(β=0.04),が有意であった。
下位分析の結果,既学習範囲が20%の場合,深い処理よりも浅い処理の方略をより使用していた(β=-0.16)。また,試験まで7日ある場合,学習が容易だと判断した場合,深い処理の方略をより使用していた(β=0.24)。
考 察
学習効率のよい深い処理の方略が,学習が進んでいない状況や難しいと判断した場合にあまり使用されていなかった。大学生の適切でない方略の使用の仕方が示された。
今後の課題と展望 本研究の結果は,仮想的な状況設定から得られた結果であるため,主観的な学習の判断が妥当であるかも検討すべきである。しかし,置かれた状況に適した方略と使用している方略が異なる可能性が示された点で,本研究の結果は注目すべきである。本研究の結果から,学習が進んでいない場合,効率のため,深い処理の方略の有効性を教授する必要があるだろう。
主な引用文献
山口 剛 (2012). 教育心理学研究, 60, 380-391.
目的 本研究は,試験までの期間,既学習の割合,学習容易性を明確にした上で,村山(2003b)や山口(2012)の有効性,コストなどのメタ認知的知識が方略選択に与える影響を明確にする。
方 法
調査対象者 都内の2大学の授業中に実施した。参加者は調査の趣旨に賛同が得られた大学生580名(男性265名,女性309名,不明6名;年齢範囲18-26歳)であった。
質問紙 大学での一般的な学習について状況設定をし,二つの方略について使用するか尋ねた。状況は,試験までの日数(1日vs.7日; 参加者間),学習容易性判断(易しいvs. 難しい; 参加者内),既学習の割合(80% vs. 20%; 参加者内)を組み合わせ呈示した。方略は村山(2003a, b)を参考に,意味理解が伴う深い処理と丸暗記などの浅い処理を作成した。いずれも方略研究や記憶研究から提案されている有効性とコストを補足として示した。有効性とコスト,有効性のみ,コストのみ,方略の記述のみ,の参加者間4条件であった。
結 果
参加者内要因をレベル1,参加者間要因をレベル2としたマルチレベルの分析を行った。記述統計量をTable 1に示す。有効性とコスト×方略(β=-0.11),既学習の割合×方略(β=0.13),学習容易性判断×方略(β=0.12),有効性×学習容易性判断×方略(β=0.05),試験までの日数×学習容易性判断×方略(β=0.04),が有意であった。
下位分析の結果,既学習範囲が20%の場合,深い処理よりも浅い処理の方略をより使用していた(β=-0.16)。また,試験まで7日ある場合,学習が容易だと判断した場合,深い処理の方略をより使用していた(β=0.24)。
考 察
学習効率のよい深い処理の方略が,学習が進んでいない状況や難しいと判断した場合にあまり使用されていなかった。大学生の適切でない方略の使用の仕方が示された。
今後の課題と展望 本研究の結果は,仮想的な状況設定から得られた結果であるため,主観的な学習の判断が妥当であるかも検討すべきである。しかし,置かれた状況に適した方略と使用している方略が異なる可能性が示された点で,本研究の結果は注目すべきである。本研究の結果から,学習が進んでいない場合,効率のため,深い処理の方略の有効性を教授する必要があるだろう。
主な引用文献
山口 剛 (2012). 教育心理学研究, 60, 380-391.