日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC032] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(13)

中学生を対象としたエージェント潜在クラス間の向社会性の比較

吉澤寛之1, 吉田琢哉2, 原田知佳3, 浅野良輔4, 玉井颯一5, 吉田俊和6 (1.岐阜大学大学院, 2.岐阜聖徳学園大学, 3.名城大学, 4.浜松医科大学, 5.名古屋大学, 6.岐阜聖徳学園大学)

キーワード:社会化, エージェント, 多層的影響

Harris(1995)は,子どもの社会化が,親,友人,地域住民,教師といった特定のエージェントとの関係など,文脈固有で行われると指摘する。Grusec&Davidov(2010)は社会化の過程に着目し,その領域を“protection”,“reciprocity”,“control”,“guided learning”,“group participation”に整理している。各エージェントは,いずれかの領域限定で有効な機能を発揮すると指摘する。他方,各エージェントが効果的な社会化機能を有することを資源と捉えれば,子どもを取り巻く全エージェントの包括的資源を仮定することも可能である。Criss et al.(2002)は,劣悪な家庭環境の子どもでも良好な友人関係を持てば,後の問題行動を顕現化させないことを見出している。親エージェントの機能不全を,仲間集団が補完するこの知見を拡張すれば,包括的資源により適応的社会化が予測される可能性が示唆される。本研究では,社会化エージェントの包括的資源の様態が,向社会性の指標である社会的スキル,共感性,自己制御に及ぼす影響を検討する。
方 法
対象者 A県内の平均的な特徴を持つ公立中学校1校で3回の調査を行った(有効回答数:765名)。3年以上現住所に住む630名(男子300名,女子330名;1年生214名,2年生220名,3年生196名)を対象とした。養育者の有効な回答が得られた434名(父29名,母384名,不明21名)のペアデータを分析した。
中学生の測定内容 ⑴友人関係機能:丹野(2008)の尺度を改訂し用いた(12項目5件法)。⑵教師リーダーシップ:三隅・矢守(1989)の尺度を用い(22項目5件法),下位尺度を合成してP機能とM機能の2尺度を構成した。⑶社会的スキル:東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキルと自己他者モニタリングスキル(MS)を用いた(9項目3件法)。⑷共感性:長谷川他(2009)の尺度から,視点取得と共感的関心を用いた(16項目5件法)。⑸社会的自己制御:原田他(2008)の尺度を用いた(29項目5件法)。自己主張,自己抑制の下位尺度を構成した。
養育者の測定内容 ⑴養育・しつけ(小学校低学年時):中道・中澤(2003)の応答性と統制からなる養育態度尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各5項目4件法)。安香他(1990)の望ましい行動(良)と望ましくない行動(悪)を測定するしつけ尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各13項目5件法)。⑵地域住民の集合的有能感・住民関与性:吉澤他(2009)の非公式社会的統制と社会的凝集性・信頼からなる集合的有能感尺度を用いた(各6項目4件法)。住民関与性として,地域住民が地域の子どもに関与する活動に携わっている程度の回答を求めた(10項目5件法)。地域活動参加度と子ども関与度の下位尺度を構成した。
結果と考察
社会化エージェントの得点の様態に基づく潜在クラスを把握するため,Mplus ver. 7.3により潜在プロフィル分析を実施した結果,適合度指標を参考に5クラスが抽出された(BIC:4クラス=8192.494,5クラス=8171.485,6クラス=8232.985;BLRT:5クラス対6クラスで非有意に変化)。エントロピーは0.725,各クラスへの所属確率は0.806~0.874であったため,分類は正確であると判断した。Figure 1に示す各クラスのエージェント指標推定平均値のプロフィルから,Table 1のクラス特徴が見出された。
続いて,社会的スキル,共感性,社会的自己制御の各下位尺度を従属変数,潜在クラスを独立変数とした分析を実施した。各クラスにおける平均値を推定し,クラス間の有意差を検定した結果,クラス5の自己他者MSと視点取得が他クラスよりも,クラス2と5の共感的関心が他クラスよりも有意に高かった。さらに,クラス5はクラス1,2,4よりも自己主張が有意に高く,クラス2,4よりも自己抑制が有意に高かった(すべてps<.05)。
大学生を対象に反社会性への影響を検討した吉澤他(2014)同様に,包括的資源の様態が向社会性の各指標にも影響することが明らかとなった。クラス2の共感的関心の高さは,親の機能不全を他エージェントが補完する可能性を示唆する。今後は,社会化領域を区別し,同領域内の異エージェント間の補完性を検証する分析や,因果分析を可能とする縦断調査が求められる。